98話 優しさの難題 02
「いやぁ、助かった、助かった!
アルヴァレスト、まさか君が『宿泊所』をやってるとは!」
「始めたのは最近だ。ニューヨークから引っ越して来てな。
しばらくは此処を拠点にするんで、何か新しい事でもやってみるか、と」
「なるほど。評価件数がゼロだったのは、登録して間もないからだったんだね」
「『タビトモ』に登録したら、押し寄せてくるかもと心配してたんだがなぁ」
「私がレビューを書くから、これからは増えると思うよ?
評価が1件でもあれば、かなり印象が違うから」
「程々に頼むぜ。あんまり多く来られてもキツいからな」
「でも、エルフ専用だろう?
私達の中で、一時的にでも森を離れる者は少ないよ。
毎日誰かが訪ねて来る、とまではならないさ」
「ふむ・・・だったらこのまま、『食事も無料』でいけるか・・・」
「ええっ?食事まで、タダなのかい!?」
「おう。こちとら、地上暮らしが長いんだ。それくらいの余裕はある」
「2泊3日でも!?」
「構わないぞ」
「ああ、最高だよ!本当、ミュンヘンに来て良かった!」
「喜んでもらえて、何よりだ。
それより───カリオン」
「何だい?」
「今回、奥さんだけ留守番か?」
「ああ。それはね」
「おう」
「妻は、出て行っちゃってね」
「・・・さらりと言うなよ、お前・・・」
「さらり、じゃないさ。少しでも気を抜くと───」
「・・・顔に縦線が・・・すまん、悪かった」
「ははは」
「何で、浮気なんかしたんだよ?」
「どうして、浮気前提なんだい?」
「最悪を想定して、だ」
「冗談じゃない、私は不貞なんか働いていないよ」
「だったら、何をやらかした?」
「悪いのは、私さ。それは間違い無い」
「じゃあ、とにかく謝れよ」
「それが───『何をやらかしたのか』、分からないんだ」
「・・・ああ?」
「ある朝、目が醒めたら、置き手紙。
《もう耐えられません。さようなら》、と」
「いきなりか・・・相当だぞ、それは」
「妻は今、実家。何度も連絡して、話はしてみたんだけどね。
とにかく、現時点で判明しているのは、
1、以前からずっと、彼女は我慢していた
2、僕が『やらかした事』は、どうやら複数あるらしい
3、それが何なのかを聞いたら、その瞬間に離婚されそうな気配
以上、3つだね」
「・・・・・・」
「でも。どれだけ考えても、私には理由が分からない」
「ルウェリが出ていったのは、どれくらい前だ?」
「ちょっと待って。どうして妻の名前を知ってるんだい?」
「前に1度、お前から聞いただろ」
「そうだったかな?───ええと、実家に帰っちゃったのは大体、5年前だね」
「ティルテを残してか?」
「いや。娘を連れてだよ。今回、3ヶ月だけ、ということで会わせてくれて」
「なるほど。それで、旅行か」
「たったの3ヶ月だよ?」
「・・・カリオン。それ人間だったら、半日とかだぞ」
「娘に会わせてもらえる時間が?───半日?」
「まあ、時間の感覚については悪魔も、あまり言えたもんじゃないけどな」
「とにかくさ。この旅行も、後3日で終わり。
そうしたらまた、娘とは会えなくなってしまう」
「・・・ううむ・・・」
「私は一体、何をやらかしたんだろうか?」
「・・・『やらかした』・・・『複数』・・・」
「ねぇ、アルヴァレスト?」
「・・・カリオン」
「うん?」
「・・・男ってのはな。そういうモンなんだよ」
「え?」
「そういうモンなんだよ・・・男は。仕方無ぇんだよ・・・」
「何なら俺が電話で、ルウェリから理由を聞いてもいいが」
「ちょっと待って。どうして妻の番号を知ってるんだい?」
「?」
「ねえ。どうして?」




