08話 エレクトリック・D
【エレクトリック・D】
「俺は・・・何て馬鹿なんだ・・・」
突然の爆発騒ぎ。
逃げ惑う人々でごった返す、マンハッタン・ブロンクス通り3番。
「ようやく、理解できた・・・
そうか・・・そういう事だったのか!!」
頭を抱え、石畳にうずくまっていた青年が、ゆらりと立ち上がる。
────そう。
彼は、見てしまったのだ。
爆発の中心で暴れ回る異形を。
この世ならざる存在を。
そこからの青年の決断は、早かった。
早すぎて、何者も関与できないほどだった。
「おい、おっさん!あんた、『悪魔』だな?」
「・・・あ?・・・」
ぽん、と左前脚を叩かれ。
齢2000を超す『3頭魔獣』は、なんとも間の抜けた声を上げた。
「翼が黒いから、『悪魔』だな?
んで、あっちのは白いから、『天使』だ。
それで間違ってないよな?」
「・・・お前、誰だ??」
「────よしっ!!」
ぱん、と自分の両頬をはたき、深呼吸して。
青年は『3頭魔獣』の前に進み出る。
「後は任せろ!俺だって、一人前の悪魔だ!!」
「いや、人間だろ・・・じゃなく!何で・・・見えて、触れるんだ??」
「兄貴に願いを叶えてもらった瞬間から、俺も悪魔になったわけだ。
そして当然、そんな俺を天使が見逃す訳が無く」
「おい」
「これまでずっと、兄貴や兄貴の子分のおっさんが、俺を守ってくれていた。
そうだな?────そうなんだろ?」
「聞けや、小童」
「おっさんは怪我してんだから、後はもう任せな」
「とりあえず、どけろや」
こいつ、どこかその辺に転がしておくか。
そう思い、動かそうとした魔獣の左前脚が、激しくぶっ叩かれた。
「・・・っ!?」
「時には、ヤングなパワーを頼れよっっ!!!!」
「────おい。お前は、誰だ?」
『護法憲兵隊』第2小隊3分隊所属、ハルジウス。
彼の投げかけた問いも、魔獣のそれとほぼ同じだった。
「何故に人間が」
「ギルバート・サイクス、21歳!!悪魔っ!!
シンフォニックデスメタルバンド、『MAXWELL』ギタリスト!!」
「────は??」
「うおりゃああああああっっ!!」
「うがっ!?」
“・・・ボルコー!!聞こえるか、ボルコー!!”
「へい」
“おお!無事だったか!!・・・まだ動けるか?”
「ええ、まあ。
一応、2体倒して3体目ってところなんですが」
“もういい!姉貴が上で大暴れしてる!
こっちまで誘導してこい!!”
「誘導は、ちょいと無理ですぜ」
“・・・あ?何でだよ?”
「おかしな奴が乱入してきちまって。そいつが3体目とやり合ってる真っ最中ですわ」
“待て待て・・・誰だよ、そりゃ?こっちはお前以外、全員揃ってるぞ?”
「ぱっと見た感じにゃ、ただの人間なんですがね。
なんか、『兄貴』がどうのこうのと」
“・・・え?・・・ちょっっ!!何であいつが!!??”
「やっぱり、ボスの知り合いで?
初っ端からあの、『ふらいんぐぶい』っていう魔導器ですかい?
あれをクソ天使の腰に、フルスイングしてましたが」
“な・・なな・・なんて馬鹿だっ・・・!!”
「けっこう、いけるんじゃないですかね?
────あ、いや。そろそろ死にますわ、アレ」
“うわああ!!ボルコー!!
そいつくわえて、こっち来いっ!!急げっ!!!”
誰しも、人生が大きく変わるような瞬間があります。
変わるような気がするだけの瞬間も、あります。
ギタリストの青年は。
水溜りを見たら『迂回出来るか』考える前に、全力で飛び込んでゆくタイプ。




