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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

誰かの■■で誰かの■■が成り立つ。

作者: 日暮蛍

貴族や優秀と認められた者だけが通える名門校で事件が起きた。


「メアリー! お前のような悪女とは婚約破棄だ!」


場所は多くの生徒達が集う広間。豪華な硝子のシャンデリアの下でこの国の第一王子が婚約者であるメアリーに対して身勝手な婚約破棄を宣言。


「お前を断罪した後、俺は彼女と結婚する!」


さらに何もしていないメアリーに罰を与えるつもりだ。その上可愛らしい令嬢が王子と腕を組んでいる。

メアリーは何度も見たこの光景に何度も聞いた王子の台詞にため息をつきそうになったが、ぐっと堪える。


メアリーは王子からの婚約破棄を宣言された後、自分が死ぬ事を知っている。なぜなら経験したからだ。メアリーの記憶では三回、死んだ事を覚えている。


一度目は逃げた時に追い詰められてバルコニーから突き落とされて転落死。

二度目は言い訳をする悪女には懲罰だと言って多くの生徒から暴行を受けて死亡。

三度目は自分の無実を証明するために証拠集めしている時に口封じとして婚約破棄前に撲殺。


そして死んだ後、婚約破棄をされる一年ほど前に時が遡る。


メアリーは二度目の時に自分が逆行している事に気がついた。

メアリーには逆行した原因が分からなかったが、メアリーは逆行を利用して自分を殺した王子達を地の底に叩き落としてやろうと復讐を誓う。

自分は三回も死んだんだ。王子達にはそれ以上の苦しみを与えてやる。今度は自分が断罪してやるとメアリーは強い意志で行動し、味方を増やし、証拠を集めた。


メアリーは一度目、二度目、三度目の死に強い恐怖を感じた。

四度目は必ず自分の無実を証明し王子達の罪を暴き生き延びるとメアリーは決心した。


「婚約破棄を受け入れましょう。しかし、断罪されるのはあなたの方です。」


そして今、王子からの婚約破棄宣言を受けたメアリーは集めた証拠の提示や証人からの証言。そして王直属の配下まで巻き込んで王子、取り巻き、そして王子達をたぶらかした真の悪女を断罪していく。


最初は息巻いていた王子達だったが、メアリーが提示する動かぬ証拠に証言者達の確固たる発言に次第に勢いを失い、最後には青い顔をして意気消沈していた。

令嬢は最初に見せていた怯えた様子の表情は消え失せ、今ではメアリーを睨みつけた後、メアリーを殺すために隠し持っていたナイフを持って突進を仕掛けたが、あっさりと取り押さえられる。


終わった。


王子達を断罪したメアリーは晴れ晴れした気持ちでそう思った。

もう殺されなくていい。自分の幸せを考えて生きられる。


カシャン。


そんな気持ちに水を差すように頭上から物音がした。気になったメアリーが上を見上げると


「え?」


大きな硝子のシャンデリアが降ってきた。


大きな音を立ててシャンデリアはメアリー達を押しつぶす。

遠巻きで見ていた生徒達は何が起きたのか理解が追いつかず、呆然と見ていた。そしてようやく何が起きたのか受け入れた時、誰かが悲鳴をあげた。それをきっかけに広間は大混乱。


激痛を感じながらまだ生きていたメアリー。しかし、シャンデリアの下敷きとなったメアリーを助け出す者はおらず、仮に今助け出されても間に合わない。メアリーはもうすぐ死ぬ。


「次、こそは。」


そう言い残してメアリーは息絶えた。



◆◇◆◇◆



「何か騒がしいね。」

「本当だ。今日何かあったっけ?」


遠くから聞こえる騒ぎに彼女は友人に伝えると友人も同意する。


彼女はメアリーと同じ学校に通う生徒の一人。メアリーの上級生であり、もうすぐ卒業を迎える。卒業をした後は幼い頃からの夢だった仕事に就く予定だ。


そのために彼女はメアリーを殺した。

自分の未来のためにメアリーを殺した。

しらばっくれて友人と話している彼女がメアリーを殺した。


騒ぎを聞いてシャンデアが上手く落ちた事に彼女は気がついているがメアリーが死んだ事はまだ知らない。もしメアリーがまだ生きていたらどうしようと思っていたが


まぁ、またやり直せばいいか。


と、すぐにそう思った。


そう。彼女も逆行している。

今回で四万四千四百四十四回目だ。



◆◇◆◇◆



彼女が最初に死んだのは巻き添えだ。


彼女が外を歩いている時、上から悲鳴が聞こえてきた。何だと思い上を見上げると


「え?」


メアリーが落ちてきた。


落ちてきたメアリーによって彼女は致命傷を受ける。それでも彼女はまだ生きていたが、もうすぐ死ぬ。


死にたくない。死にたくない!


それでも彼女は生きるのを諦めなかった。生き延びようともがいた。


「かわいそうに。不公平です。助けてあげましょう。」


そんな時、頭上から声が聞こえてきた。視界が霞み姿は分からない。


「あなたにこれをあげましょう。」


謎の存在は懐中時計を取り出しそれを彼女に握らせる。


「これを使えばあなたはやり直せます。何度でもやり直せます。あなたをこんな目に合わせた原因をあなたの手で取り除けばやり直しは解除されます。頑張ってくださいね。」


その言葉を最後に彼女は生き絶えた。


そして、彼女は逆行した。最初の死から一年前に彼女は時を遡った。

最初は悪夢でも見たのかと思っていた。手元を見てもどこを探してた謎の存在から渡された懐中時計はなかった。

しかし念の為に最初に死んだ日と同じ日付になった日、死んだ場所には一切近づかなかった。すると後でその場所でメアリーが無惨な姿で死体として発見されたと聞いた彼女はあれは夢ではなかった。自分は本当にあの時死んで逆行したのだと受け入れた。


メアリーが死んだ事に関しては彼女は悲しんだが、他人である自分には何もできなかったと判断し、逆行の原因となった謎の存在によって生き延びたと思い謎の存在に感謝した。

そしてメアリーが死んだ日の夜、彼女は眠りについた。


そして一年前の日に時が遡った。

彼女は混乱した。死を回避したにも関わらず彼女は二度目の逆行をしていた。

その次も。その次も。彼女は徹底して死なないように気をつけたがメアリーが死んだ後、次の日を迎える事なく逆行した。

五回目の時に彼女はメアリーが死ぬと逆行すると思い、次はメアリーを死なせないよう行動をとった。


しかし、これが難航した。


メアリーは彼女よりも高位の貴族の娘。そう簡単に近づける存在ではない。

上手くメアリーと話せてもメアリーは彼女の話を信じず、むしろ警戒されてしまい、さらに敵と見なされメアリー、またはメアリーの味方に殺された。

あるいはメアリーの味方と勘違いされて王子、あるいは王子の取り巻きに殺された。


どうして自分がこんな目に。そう思わずにはいられなかった彼女。

最初を除いて三十六回も殺された。


自分を巻き込むなと彼女はうんざりしていたが、メアリーを死なせると未来がやって来ないと思っている彼女は諦めず、何度も何十回も何百回も繰り返してメアリーとの接触を図った。そして様々な形で彼女は死んだ。


しかし五百二十二回目の時、前回の時に彼女の近くで死んだ影響か今回はメアリーも記憶を引き継いでいた。彼女はメアリーに事情を説明するとメアリーはすんなりと信じてくれた。

その後、彼女はこれまで体験してきた経験とメアリーの知恵と人脈のおかげで王子達の罪を暴き、令嬢の悪辣な企みを阻止し、メアリーを死なせなかった。


王子達を断罪した後、彼女はメアリーから友人になりましょうと言われた彼女は言葉ではそれに応じた。心の底では彼女はメアリーと友人になるのを嫌がった。

彼女はメアリーのせいで死に、逆行する事になった。

そしてメアリーを死なせないようにしているのにメアリーは信じない上に彼女を何度も何十回も殺してきた。

そんな相手を好きになるものかと彼女は思っていたが、メアリーの味方達や遠巻きで見ていた人達の視線のせいで彼女は偽の笑顔を浮かべ内心メアリーに嫌悪しながら表面上は嬉しそうにメアリーと握手を交わした。

その日の夜、彼女は晴れ晴れとした気持ちでベッドの中に入り明日は何をしようかと思いながら眠りについた。


そして一年前の日に時が遡った。

彼女は現実逃避したが、再び逆行した後にようやく現実を受け入れられた。

その後、彼女は再び奔走した。

五百二十二回目の時と同じくメアリーが記憶を引き継いでいる状態でいたため最初の頃よりも円滑に物事が進んだが、メアリーの命日と同じ日付の翌日を迎える事ができなかった。以前よりも最善の結果を出しても逆行してしまう。


何度も何十回も何百回も何千回も繰り返しても逆行してしまう。


そして、六千十二回目の時に彼女は発狂した。

手当たり次第誰かを殺して殺された。そしてまた逆行した。

高笑いを上げながら自殺した。そしてまた逆行した。

気狂いな言動をして友人を全て失った。そしてまた逆行した。


何度も何十回も何百回も何千回も何万回も繰り返しても逆行してしまい何もなかったかのように彼女は一年前の日に戻ってしまう。


二万九千三百六度目の時に正気に戻った後、彼女は無気力になり部屋に閉じこもるようになった。もう何をしても無駄だと思った彼女は気力を失ってしまった。

友人達が見舞いに来てくれたが彼女の気力が戻る事はなかった。

見舞いに来たメアリーにこうなった経緯を話しても彼女の気力は戻らなかった。

彼女を心配した両親が病院に入院させても彼女の気力は戻らなかった。

彼女が寝たきりになっても逆行し続けた。


四万四千四百四十三回目の時。再び一年前の朝を迎えた彼女は唐突に謎の存在が言っていた言葉を思い出した


『これを使えばあなたはやり直せます。何度でもやり直せます。あなたをこんな目に合わせた原因をあなたの手で取り除けばやり直しは解除されます。頑張ってくださいね。』


謎の存在の言葉を思い返して、言葉の意味を考えて、ふと彼女は思った事を口にした。


「そっか。メアリーを殺せばいいんだ。」


謎の存在の言葉の意味に気がついて気力を取り戻せた彼女は起き上がった。立ち上がれた。


彼女はメアリーを殺すために動いた。


一度、彼女の事を覚えているメアリーからの接触はあったが彼女はメアリーの事を知らないふりをするとメアリーは悲しそうな顔をした後、彼女の元から去った。

そしてメアリー達に勘付かれないよう行動し、メアリーが一人になった時を見計らってメアリーに近づき殺そうとしたが、その前にメアリーをつけていた王子派の者に殺されてしまった。


四万四千四百四十四回目の時。メアリーが死ぬ前日。

彼女は人目のつかない深夜に広間へやって来た。

これまでの逆行でメアリーの行動予測をしている彼女はメアリーがシャンデリアの下に来る時間帯に落ちるよう証拠を残さずシャンデリアに細工をした。


その結果、彼女が設定した時間通りにシャンデリアの細工が作動しメアリー達を押し潰した。


メアリーが死んだ事を知った後、彼女はまだ喜ばなかった。

だが次の日の朝日を拝めると彼女は号泣し、心底喜んだ。


もう殺されなくていい。自分の幸せを考えて生きられる。

そう思い外に出た彼女は泣きながら朝日を浴びた。



◆◇◆◇◆



その後。


メアリーは不慮の事故で亡くなった事になった。

王子達とメアリーの味方達は近くにいたためシャンデリアに巻き込まれてしまい何人かは後遺症が残るほどの大怪我をした。

王子達を陥落し国を傾けるよう黒幕に命令された令嬢はシャンデリアの破片が飛んだ事によって顔や体に大きな傷がついた。自分の容姿に傷がついた事に令嬢は取り乱し、絶望した。

王子達が始めた断罪劇を遠巻きで見ていた生徒達は飛んできた硝子の破片や混乱によって誰かに押されて転んだ事によって怪我をしたりメアリーの死を見て心に傷ができたりと負傷者が続出。

黒幕はメアリーが集めた証拠のおかげで足取りが掴め、時間は掛かったが捕まる事になる。


しかし壊れてしまった彼女の心を知る者はいない。

彼女を壊す原因の懐中時計を渡した謎の存在を知る者は誰もいない。


彼女がシャンデリアを落とした事を誰も知らない。

彼女がメアリーを殺した事を誰も知らない。

彼女が四万四千四百四十四回時を繰り返した事を誰も知らない。


彼女が卒業した後も彼女が夢だった仕事についた後も真相を突き止める者は現れなかった。

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