第5話 酷い懐かしさ
どうせ今日も彷徨っている間に家に着いてしまうだろう。
そう思って街を歩いているが、今日はまだ街明かりに照らされた石畳の道が続いている。
たまにこんな日もある。
こんな日はこんな日でラッキーか、くらいに思い、僕はもう少しだけ散策を続けることにした。
しかし、今日に限ってこんな事になるなんて
もしかしたら本当に幽霊に会えるのかもしれないな。
なんだか楽しみではあるけれど、恐怖が勝る。
黒い幽霊は絶対に恨みを持っているだろう。
そうじゃなかったら黒である必要がない。
もしその幽霊に出会って、向こうが攻撃を仕掛けてきたら...。
やっぱり光魔法を使うべきなのかな?
でも、幽霊って魔法が通用するのかなぁ?
ぼーっと幽霊への対策を考えながら歩く。
じきに夜になる。
オレンジ色の明かりに照らされて、道は優しく輝いている。
あぁ、気がつけば、目の前は行き止まりだった。
よくある事だ。
よくある事なんだけど、いつもと違う事が1つあった。
壁に大きな穴が空いている。誰かが開けたとしか思えない不自然な大穴が。
穴の中は真っ黒だった。
そして、その大穴からは黒い瘴気のようなものが薄く立ち込めている。
まず、興味を惹かれた。
これは黒い幽霊に関わるものなんじゃないかと。
でも、次の瞬間には恐ろしくなった。
その穴に近づこうと思い、一歩だけ前に出る。
何かおかしい。ひどく懐かしいと感じたんだ。
動悸が高まる。
これ以上近づいたら戻れなくなるような気がした。
僕はそのまま後ろを振り返り、何も見なかったことにして、その場を後にした。