第3話 黒い幽霊の噂
ちょっとした坂を下ると、すぐ街の外れに出る。
この町の人口は少ないため、昼下がりでも人通りはほとんどない。
周りの景観を眺める。
この街の長所の1つとして、景観が綺麗だという事が挙げられるだろう。
まるで神が作り上げたように、芸術品のような美しさを持っていると思う。
まぁ褒めすぎな気もするけれど。
しばらく歩く。この街は複雑に入り組んでいて、それでいてどこまでも石造りの建物が続くので道が分かりづらい。
そんな時に目印にするのが、この街の中心にそびえ建つ時計台だ。
高い外壁に負けず劣らずの高さを持つ時計台は、僕にとって絶好の道標となる。
とはいってもまぁ、未だにあの時計台にすら辿り着けたことはないんだけど。
とにかく中心の時計台にまでたどり着く事ができればきっと門までの道がわかるんじゃないだろうか。
そんな期待を胸に歩き続けると、近所のおばさんが話しかけてきた。
「あらあら、スミカさん。こんにちは。」
「こんにちはー。」
狭いコミュニティだから、この辺の人達はみんな顔馴染みだ。
それに、みんなとても優しい人達だ。
そういえばこの辺りで犯罪が起こったなんて話も聞いた事がない。
すごく治安が良い街だ。別の世界から飛ばされてしまったけど、実はすごくラッキーな事だったのかもしれない。
なんて、僕は密かに思ったりもしている。
しばらくおばさんと世間話をしていると、興味深い事を聞くことができた。
「あ、そうそう。スミカさん。最近こんな噂を聞いたことがあるかい?」
「え?どんな噂なんですか?」
「なんでも、ここ最近、真っ黒い幽霊が現れるらしいんだ。」
「ほー、幽霊ですか。」
「そうだよー。スミカさんみたいな可愛い男の子は、すぐ連れ去られちゃうんだから。気をつけなさいね。」
「あははは。用心しておきます。」
黒い幽霊か、この世界に来て初めてのことだ。
幽霊っていうからには、壁を通り抜けたりできるのだろうか。
そしたら、僕も外の景色を拝めるのかもしれないな。
まぁ幽霊とコミュニケーションが取れるのかもわからないし、きっと噂を流した人も何かと見間違えたんだろう。
おばさんと別れ、さらに歩き出す。時間もまだまだあるし、今日はちょっとだけ寄り道でもしちゃおうかな。
幽霊の伝承とかってこの世界にもあるんだろうか?
この先に図書館があったはずだから、調べてみようかな。
こういうのって、すごくワクワクするなぁ。
ちょっとだけペースを上げて先へ進む。