第1話 僕はこの街を出る事ができない
気が付いたら、僕はこの街にいたんだ。
そして、今日もベランダからこの街を眺めてる。
沈んでいく夕陽を見て、はぁとため息をつく。
「街の外に出てみたいなぁ。」
僕は、この街から1度も出た事がない。
とても奇妙な街だ。
高い外壁に囲まれて、たくさんの人が壁の内と外を出入りしているはずなのに、僕はあの入り口に辿り着いたことさえない。
気づけば、この家の前にいるんだ。
「なーに黄昏てんの?」
後ろから声がした。
振り返ると、すぐ目の前に彼女がいる。
彼女の名前は、リーシャ。
この街で路頭に迷っている僕を救って、この家に住まわせてくれた、いわば命の恩人だ。
「いやぁ、この街の外を見てみたいなぁなんて」
僕がそんな事を言うと、彼女は不思議そうな顔をする。
そりゃそうだよな。普通だったら出る気になれば、街の外に出られるのは当たり前なんだから。
「まぁ、街の外っていっても大して何があるわけでもないわよ?」
彼女は言う。
結局、そんなもんだよなぁ。
どうして僕は街の外に出られないんだろう。
あの壁と僕は、強力な磁石のように反発してたりするのだろうか。
くっつけるとめちゃくちゃ音が鳴る強力な磁石を昔持っていたけど、あれってどこで手に入れたんだろう。
「そんな事より、ご飯にしましょうよ。」
食卓が彩られている。
まぁ外に出られないからって、別段悪いことはないよな。
今日も変わらず、僕はこの日常を楽しむ。