荒れ狂う聖女様。
「な、な、なななななななんあななななたわわわわわ………」
ああ、あわてるお顔も麗しい、聖なるオーラを放っておられる。
死に直面したとき、人間はぽんこつになるらしい。
「ぼ、ボクハコレデ………」
逃げろおおおおおおおお!超逃げろおおおおおおおおおおおおお!
「ま、待ちなさい!」
慌てて袖を引っ張る聖女様。キュンとする暇なんてない。
「……貴方、見たんですね?」
「ミテマセン……」
「見たんですね?」
「ミテマセン……」
「……見たんですよね?」
「……ミマシタ。」
くそおおおお、聖女様の迫力の勝てるわけないだろおお……。
「あ、あの、どうか命だけは「煮るなり焼くなり好きにしてください」
……は?
「好きにしていいですから、これだけは誰にも言わないでください」
「あ、あの……」
「お金ですか?1億円でいかがでしょう」
「ふヘァっ⁉︎」
「何ですか?他にも何か望みが?」
「いやいやいやいやいやいやとんでもない!むしろこっちが何でもします!」
取り直して。
「……せいじょさ……聖女さん。それ……」
「……最近は無表情クール攻めなんです。」
「は……?」
よく分からないことを言い出した聖女様。
「〜っ!悪かったですね腐女子で!腐ってて!しかも救いようのないヲタクで!どうもすみませんでしたぁっ!」
「え、ええ〜と……」
こういう時ってどう言うのが正解なんだろう。
「何ですか⁉︎聖女財閥のお嬢様であるからにはそんなもの好きになってはいけないって⁉︎いいじゃないですか尊いんですから!フザケンナ頭のお堅い野郎どもめ!」
「ひ、聖女さん!聖女様!」
「……腐ってる女を聖女って呼ばないでいいですよぉ!あああああああああー!」
どうしよう。聖女様が壊れてしまわれた。
「いや、とりあえず落ち着きましょう⁉︎ついていけません!なんならここで起きたこと全部忘れますから!ほ、ほら、頭を机の角に打ち付けたら……」
「ややややややめなさい!せっかくのいい攻めが台無しです!……いやでも、記憶を失った少年が心優しき少年に救われて……あり…?かけ放題……?」
ま、また意味不明……。
「わ、分かりましたやめます!」
「え?……止めるんですか?そうですかそれは残念……いえ、よかったです。怪我しなくて」
今残念って言ったぞこの人。
「はあ……」
「すみませんでした、少々取り乱してしまったようです。で、貴方は確か墨守氷さん、でしたよね?なぜここにおられたんですか?」
やっと元の聖なる聖女様に戻ってくださった。とりあえず安心。
「奥の美術準備室に用があって……あの、ほんっとすみません……」
「いえ、出しっ放しで居眠りをしたわたしも悪かったです。全て貴方のせいというわけではありません。とはいえ……」
「ナンデショウ……」
お金なんて持ってませんよ!
「このことを言いふらされると、色々困るんですよ。色々と、ね?ですから、このことはどうか内密に。ぜったいに、誰にも、言わないで欲しいのです。」
「絶対誰にも言わないです約束します」
言ったら今度こそお空の上に行く。いのちだいじに。
「…ありがとうございます。それでですね、もう一つお願いがあるんですが……」