神様のおくりもの
ぼくには名前がありませんでした。
気づくとぼくは真っ白い光の中にいたのです。
「ここはどこだろう? それにどうして名前がないのだろう?」
ぼくは名前をさがして旅に出ることにしました。
あるひ、とおくからおとがきこえました。
たん。
たんっ。
と、だんだんとちかづくにつれ、おとはおおきくなります。
「こんにちは。これはなんのおとですか?」
「やあ、こんにちは。これはわたしがたたかれているおとだよ」
「なぜたたかれているのですか?」
「なぜって
そりゃあ
やくわりだからにきまっているだろう」
はなしているあいだにも、たんっ、たんっ、とおとはひびきます。
「いたくはないのですか?」
「だいじょうぶさ。それにやりがいもあるからね」
ぼくにはやりがいがなにかがわかりません。
「ところで、ぼくのなまえをしりませんか?」
「うーん、わからないなあ。ほかをあたってみなよ」
「そうですか」
「きっとみつかるよ」
そのこえにおくられて、ぼくはつぎへとたびだちました。
こんどは、たくさんのすがたがみえました。
「すみません。どなたかぼくのなまえをしりませんか?」
「しっているやついるかー?」
「しらなーい」
「さあ」
「しってる?」
「ううん、しらない」
「さっぱりだ」
みんなくちぐちにそういいました。
「わるいね。みんなしらないみたいだ」
そのなかからだいひょうしていいました。
「いえ、またほかにきいてみます。みなさんはかぞくなんですか?」
ぼくはきになってきいてみました。
「ああ、そうだよ。ぜんぶでじゅうにだ」
ぼくはびっくりしました。
「おおいですね。それではやくわりもたいへんでしょう?」
「いいや、みんなやくわりはほとんどないよ」
ぼくはさらにびっくりしてききます。
「なぜですか?」
「そら、しらないよ。でもみんなひつようとされているからいるのさ」
ぼくもひつようとされているのかふあんになりました。
「やくわりもさがしてるのかい」
「そうだとおもいます」
「ふーん、まあがんばりな」
ぼくはそこをあとにしました。
ぼくはあてもなくさがしあるいていると、はなしかけてくるこえがきこえました。
「おうおう。なにしているんだ、こんなところで?」
「こ、こんにちは。ぼくはなまえをさがしているのです」
「なまえだって!? なまえなんてどうでもいいじゃないか!」
「なぜそうおもうのですか?」
「おれはなあ、なまえをいくどまちがえられてきたことか。そのかなしみがわかるか?」
「さ、さあ。なにせなまえがないものですから」
「む、そうだったな。だがおれはな、さいきんはなまえなんてどうでもよくなったんだ」
「そうなのですか」
「ああ。やくわりをこなすのがいちばんだとおもったのさ」
「なまえがないぼくにもやくわりがあるでしょうか?」
「もちろんあるさ。おまえがうまれてきたからにはな」
そうはげまされて、ふたたびたびにもどりました。
しかし、もうどこにいけばよいのかわかりません。
「ぼくのなまえもやくわりもどこにあるのだろう」
ぼくはかなしくなりました。
すると、いままでいちばんおおきく、あたたかいこえがそらからきこえました。
「やっと見つけたよ」
「あなたは、ぼくを知っているのですか?」
その声はぼくの声が聞こえていないようでした。
けれども、ぼくの言葉にこたえるように言いました。
「君がいなくては、読みづらくてかなわないな。これでやっとみんなにとどけられる」
それっきり声は聞こえなくなりました。
それでも、ぼくはひつようとされていることを知ってうれしくなりました。
けっきょく、ぼくの名前はわからないままでした。