8、誕生
「お前の子供はいつ孵化するのかな?気にならない?」
衰弱した竜に問いかける。
「私はお前の命も鱗も何もいらない。」
ゆっくり竜が首をあげ、見えないであろう瞳で私を見る。
「気が付いた?」
流れる滝の音はザザーっと止まる事を知らずに永遠に流れる。
私の言葉を理解したかはわからないけど、、、竜が涙している。竜の流れ出る涙はキラキラした宝石になりどんどん落ちていった。
実際ボトンと落ちる竜の涙を間近で見ると異様さが涙のキレイさより勝る。
「キュイーーーキュイーーー」
と竜は今にも消えてしまいそうな声で我が子を探している。
竜の目の前に背負ってきた卵を置くとズリズリと身体を動かし卵を懐で大切にあたためようとしている。
てか、スッゲー重かったからね!よく一人で運んだなと思うよ。
側でその様子を見ていると卵をしきりに舐めている。
これが本来の孵化方法なんだね。
きっと今アンは真っ青になって卵を探してるだろうな。
私が見張っているからと言って飼育小屋から卵を持ち出した事もばれたかな?
時期にここも安全ではなくなる。
どうにかその前に孵化してほしいーーー
滝の前で卵をあたためるその竜は聖母のように穏やかにその時を待ちかねている。
竜があたためていたその卵に異変があったのは僅か数分後。
なんて、なんて空気の読める卵なの!
ミシミシと卵を押すような音がして竜はしきりに卵を舐めていて。
バキッと硬い殻を突き破ったのは竜の足
ヤンチャだなぁなんて思いながら産まれる瞬間を見逃さないようにする。
竜は子供に囁くようにキュイと鳴く。
その声に反応し、更に卵はバキバキと音を立てて破られ、ヒョイっと赤い色の竜が顔を出した。
ん?親は緑色なのに?
子供が産まれると何処にそんな力があったのか疑いたくなるくらい元気に竜が大空めがけて飛び出した。
子供もヨチヨチしながら動き出し、パタパタと翼を広げ準備している。
滝の上から何かを持って来ると竜は子供の元に戻り、何かを子供の口に入れる。
子供の口元にはピチピチとしっぽを動かす魚が見えて。
えさっ!
その様子をじっくり観賞していた私ですが、1m近くあった卵を背負って(ほぼ引きずってたけど)滝まで来た疲れが無事産まれた事に安堵したせいかどっと出てしまい、へたりと地面に座り込んでしまう始末でして。
それに気がついた子供が私に近づいてきたので、
私、えさ認定されたかな?
なんて呑気に見ていた訳ですが。
『あ、あが、、とう!』
え?
子供は私を食べる様子がなく、しかもなんか話した??
『ママ、、、あが、、とう!』
間違いない!こいつ、話せる!
びっくりして腰をぬかしていると、
『おって?かえる!』
乗って?帰る?
産まれた竜の子供になんとか掴まると勢いよく空へ飛び出すもんだから死を覚悟しました。
「うわわわっ!死ぬ!死ぬ!ちょー恐い!」
大空に私の声が消えていったのです。
必死に落ちないように竜の子供にしがみつく私ですか、初飛行のおぼつかなさが更に恐怖で。
『あはは!』
てか、捕まる所もないじゃん!鱗ぐらいしか!
鱗を捕まれ痛みでバランスを崩した竜の子供は見事に王宮の窓にスライディングしまして。
バキバキバキという音と共に到着したのが官房長官のお部屋でありまして。
結構カーテンがいい仕事してくれたから官房長官にはガラスは飛ばなかったけど私は見事に流血しているようで。
「なっ、ななな!」
室内では官房長官が腰を抜かしていた訳です。
わかる~さっき私も腰ぬかしたから~
『たのし☆』
いやいや~こっちは修羅場だから!
「長官!大丈夫ですか!?」
持っていた包みを放り投げ駆け寄る次期長官。
『あぶ!』
子供の竜が私たち三人をその翼に包み込んだ次の瞬間!
ドゴン!
とその放り投げられた物が爆発したのだが竜の子供による鉄壁の守りで私たち三人は難を逃れたのだった。
「わわわわわーーーー!」
「落ち着いて下さい、次期長官。」
「落ち、落ちつけるわけないだろ!!」
『このちと、だいじょぶ?』
官房長官に至っては泡を吹いて気絶していたんですけども。
『アハ!』
陽気!こいつ今さっき産まれたばっかりなのに超陽気!
しかも話せる!超ミラクル!!
しかも赤!
バサッバサッと器用に停滞し、壊れた窓から親の竜が様子を伺っている。
『ママにおって。』
親の竜には騎士が乗れるように革ひもが装備されているけど、、、、官房長官意識ないからな~落ちるでしょ。
「次期長官はこいつにしがみついて出て下さい!意外と不安定ですけど鱗を掴まなければ大丈夫です!私は官房長官を背負ってこいつと脱出しますから!」
「ぼ、僕が竜に!?無理だよ!」
確かに足がすくんでいる様子の次期長官だが、それ以前にわしゃ、前世おなごじゃ!お前以上にこわいんじゃ!!
って顔に出ちゃったかもしれないけど。
「官房長官を安全な場所に移してからまた来てもいいけど、その間に天井が崩れてぺちゃんこだよ?」
ばっ!と次期長官が天井を見ると確かに崩れかかっていた。
「あわわわわ!助けてくれぇ!」
と、子供の竜にしがみついたので、
「落とすなよ。」
と、子供の竜に注意して飛び立たせた。
「さて!」
官房長官を担いで親の竜に乗り革紐を身体に巻き付ける。
急がないとこっちがヤバい。
「よしっ、竜行ける?」
親の竜が翼をバサッとひと振りした風圧で天井は今にも崩れそうになる。
ドンッ
私達が窓から離れたそのタイミングで部屋のドアを蹴破り入ってきたのがハン。
竜に乗る私を見上げ、驚き、佇んでいる。
離れる際の風圧でとうとう天井は崩れてハンが見えなくなった。
「ハン!ハン!返事しろっ!」
叫ぶが親の竜は既に安全な場所に向かって飛び出していたのだ。