7、悪い予感
「隊長?」
近衛隊の1日の始まりは木刀の素振りから始まり、ランニング、基礎トレーニング等身体を痛めつけるようにプランが組み込まれている。
痛めつけられた身体は筋肉となり、病気を寄せ付けない強靭な身体を作り上げる。
近衛隊のメンツを見ても筋肉質な者が多い。
「隊長!」
「なんだ?」
「隊長、本日の訓練メニューはこちらでよろしいでしょうか?」
渡された用紙にはびっしりとプランニングされており、それは秘書が有望な事を示していた。
「あぁ。」
本日の隊長は訓練には参加しないのだろうと秘書は思った。
今日の隊長は考えて事があるのか心ここにあらずだ。
ほら、ラクスが素振りを適当にこなしているのにいつもの怒号が響かない。
あっちではシクスが水分補給と言って水を飲みに行ってしばらく経つのにこれまた怒号が響かない。
というか、この双子意外は皆真面目な奴だから日々双子へのマークがきつかったのに、変だ。
でも隊長が何故おかしいのか、私にはわかる。
ミリス隊長を看病したあの日から隊長はおかしい。
「隊長、午後からの国王の視察訪問はわたくしが変わりましょうか?」
「いや、大丈夫だ。代わりに午後は留守を頼む。」
凛とした顔つきに戻った隊長は双子へのいつもと変わらない怒号を撒き散らしていた。
ラクスの前までやってきて無言の鎮圧をかける。
「うわぁ、隊長俺はまだ何もしてないだろ?」
「やってるフリをして手を抜く事は何かしたと同じだ。」
それをみたシクスはいそいそと持ち場に戻る。
だがそれも見逃さない隊長は
「シクスは追加で100回だ。」
だいたい毎日双子へこのような制裁を下すので他の騎士たちが不正をする事がない。
我が近衛隊は国で1番の真面目な隊で有名なのだ。
ーーーーー
「国王様、国王様!」
わーわーと歓喜が起こる城下町へ国王陛下は年に数回視察に訪れている。
国民の生活がどのような水準かを確かめ補正するためらしい。
国王陛下の真後ろで俺は国民に目を光らせる。
前回の訪問では馬車に爆薬が仕掛けられた。
その前は頭上から爆竹が大量に落ちてきた。
回を重ねる程にやり方に手が混んでいる。
通称爆弾野郎を今年こそは捕まえてやる。
国王陛下の両脇には双子のラクスとリクス。
サボりがちな二人だが咄嗟の行動力は秀でていて双子ならではの息のあったプレーは素晴らしい。
「今年も爆弾野郎は仕掛けてくんのかな?」
「狂ってるからな、陛下を狙うなんて。」
国民に怪しい動きをする者は見当たらない。
「でもよ、あの爺さん何で引退しねぇんだ?足が動かねぇって今回視察に同行出来なかったくせによ。」
「爺さん、陛下が大好きだから離れたくないんだろ。」
「お前たち!陛下の前で失礼だぞ!」
これさえなければコイツらも一人前なんだが。
「はは、良い。元気が1番だ。ジイも年だ、仕方あるまい。」
国民に笑顔で手を振りながら国王陛下は答える。
確かに爺さん、いや官房長官はお年だ。だか、長官がいるからこそ国は平和に過ごせている。
次期長官はまだまだ官房長官の器にないため引退もできないでいるのだろう。
そこで俺は1つの可能性に気がつく。
「双子、私は今、陛下の護衛を離れるが良いか?」
「問題ねぇよ。なぁ、シクス」
「任せとけって!」
陛下が次の視察先である修道院に移動し始めたタイミングで護衛を抜ける。
馬を走らせ王宮へ急ぐ。
狙いが国王陛下でなかったら?
今日官房長官が同行しないと知っていたら?
爆弾野郎は今、王宮にいる!
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「民で城下が賑わっておる。」
窓から城下を眺めながら官房長官はため息をつく。
「年には勝てぬものでな、ワシはもう引退じゃ。」
椅子に腰掛け、書類に目を通す。
「だが、お前はまだまだ未熟ゆえ、隣でビシビシ鍛えてやるから覚悟するのだ。」
部屋のドアの前で次期長官が官房長官の話しをじっと聞いていた。
「じいちゃん俺無理だよ、官房長官なんて!普通次はとーちゃんだろ?」
「あいつには野心が見えるでな。官房長官の器ではない。」
「だったら俺なんか、さらに器じゃないだろ?」
「我が家に産まれる男は官房長官になる事が決まっていたから、官房長官の知識に長けるよう教育してきたつもりじゃ。」
「でも!」
「その優柔不断さが、官房長官には不要だ。」
コンコンとドアをノックする音に次期長官は返事する。
「入れ」
ガチャと入ってきたのは侍女で、
「国王から官房長官へ渡すよう頼まれていた品でございます。」
小さな包みを官房長官へ渡すと侍女は部屋を退室する。
「陛下から?何か聞いておるか?」
「いや、、、、」
ーーーーー
王宮に到着した俺の耳に入ってきたのは
ドゴン!!
という爆発音。その音が官房長官の部屋の窓が割れていたので、そこから出たものだろうと官房長官の元へ走りだした。