5、怒らないで下さい
「た、た、隊長ですか?!」
上ずった声で尋ねられる。なんて返事したら正解なんだろう。
「、、、」
私の顔を見るなり、その青年は
「隊長!」
相手の出方を伺うあまり、返事さえも身動きさえもできずに固まる私。
「失礼ながら、夜分に隊長の部屋から物音がしたので様子を見に来たのであります!」
「、、、あぁ。」
こんな感じかな?私、精一杯ミリスを演じております。
「、、、何か探し物でありますか?」
「いや、マニュアルを、、、」
「それは今、セミド中隊長がお持ちです。」
「あ、セミド?中隊長?」
あれ、まさかまさか。セミドさん、あなた、男性な予感がするわよ。てっきり女性だと思い込んでいたわ。
だとするとミリス!
おまえの路線はまさかのあっち系?
恋愛初心者の私にはその役を演じられる気がしません。
「そうだったな、セミドか、、、」
「隊長、明日から勤務に戻られるとの噂ですが。」
心配そうに青年は伺う。
「あぁ。」
「隊長のお帰りを竜騎士みんながお待ちしています!」
ミリスってまじどんな奴なわけ?
「あぁ。」
「では!」
予感がします。
間違いなく、私、明日何かやらかしそうな予感がします。
そしてセミドさん、あなたはどちらにいらっしゃるのですか?
重い足取りで部屋を後にした。
ーーーーー
「っー訳で、手ぶらで戻ったのです。」
私の帰りを待っていたハンにこの数分の出来事を伝える。
「だから、なんで宿舎まで行ったのにマニュアルを持って来ない?」
椅子に座り凄むハンと、その前でながら説教を食らう私、ミリス。
だってセミドさんがどちらにいるかわからないんですぅ~
私の態度が気に入らなかったようでハンから発生される怒りの感情がヒシヒシと感じられマス。
「はぁ、仕方ない。行くぞ。」
「え?」
「マニュアルを取りに行くぞ!」
こっわ~、これだから男はやだよ。さっきまでな~んか甘い空気だったじゃん!
なんで、マニュアル持って来なかったからって怒るわけ?
訳がわからない!
「へいっ!」
ーーーーー
「はぁ。」
「、、、」
さっきからハン、ため息ばっかり。
役立たずでごめんね!
もう、顔も見たくない!
すっげーイケメンだけど、超性格悪いじゃん。
「はぁ。」
「あっ、あのさっ!そんなにため息つかれたらさっ!」
たまらず口に出してしまいそうになる。
「ため息?してたのか?」
無意識~、あからさまだったやんけ~!
「一人で行くからいいよっ!」
もう、泣きそう。こわい~
「一人で?行かせたくないからこうしてわざわざ、、、」
「だって迷惑そうじゃん!」
「これが迷惑以外のなんなんだ?」
「嫌なら来なければいいじゃん!」
「だからその乙女みたいなのどうにかならないか?」
だって女子だし!仕方ないじゃん!
「だっ、だって!」
「ほら、着いたぞ。行ってこい。」
なんなの、なんなの、その態度!
コンコン
気持ちを落ち着かせてドアをノックする。
夜分ですし、寝てますよね?もう一度ノックしようとすると、
ガチャと、ドアが開いた。
「、、、隊長、、、」
「、、、こんばんは、、、」
見覚えがあるソイツが顔を出した。
間違いない、セミドは男性だ。
しかも、転生初日に私に酒を盛ったあいつ。
いきなりズボンを脱いでご褒美ったあいつ。
ミリスの趣味を疑いたくなる。
「マニュアルをよこせ。」
後ろから超不機嫌な声を出すハン。
「うわっ、ハン近衛隊長!」
「よお。」
「マニュアルって竜騎士マニュアルッスよね。」
よかった~持ってそうな感じじゃない?
「あれ、改定があるからって隊長持ってったじゃないっスか。」
さらりと言われて。
もう、後ろに立つ大魔人の怒りのオーラはんぱなし。
「あ、アハッ」
こわいこわいこわい!
「おい。ちゃんと探したんだろうな?」
「は、は、はい」
時刻は23時に差し掛かりまして。辺りはシーンと静まりかえっております。
「大丈夫ですか、隊長?」
「でっ、では!」
大魔人を避けて逃げ出そうとするが、ソッコーで確保されまして。
だってなかったもん!、、、多分。
セミドの部屋を後にして結局二人で部屋を探したらキッチンにあったよね。
「それにしても臭い部屋だ。」
「、、、どうぞお部屋にお帰り下さい。」
てか、帰れ。
「、、、あ?」
マジ何なの?そんなになんで機嫌悪いの?
ペラペラと机に座りマニュアルを読む私の真横で大魔人の不機嫌オーラがチクチク突き刺さってます。
「いいのかよ?」
、、、神よ、主語を下さい。
「何が?」
「セミド」
「彼が、何?」
「あ?」
会話が成立しませんけど。てか、マニュアル読みたいんですけど。
ハンを無視してマニュアルを読み進める。
「聞いているが。」
「だから何を?」
「だからセミドが恋しいんだろ?」
「はあ!?」
「お前たちは付き合っていると聞いたが。」
数日前からこちらの世界にお世話になってるもんでそんな事知るわけないじゃん。
と、言える訳もなく。
「先日はシャワールームでセミドと仲良くして倒れたとも聞いたが。」
「あれは!服に吐いた物が付いてたから、、、」
シャワーしに行ったけど、セミドに迫られたような。
てか、付き合ってるってさ。抵抗を持とうよ!セミド男で私も外見は男なんだよ?いいのそれ?
「吐いた?」
「あの日、部屋で吐いて、、、」
「、、、それでシャワーか、、、何でまた倒れたんだ?」
言えない。セミドに迫られて自分が男だって気がついて驚いて倒れたなんて地雷踏みすぎだから。
「、、、転んだ。」
「そうか。」
あっさり納得しすぎぃ!
「、、、あれ、じゃあ、なんで私ハンの部屋に居たんだろう?」
流れからしたら自分の部屋かセミドと一緒にいる感じだよね?
「お前が俺を呼んだんだろ。」
呼ぶわけないじゃん、転生したてでハンを知らなかったんだから。
「、、、そうなの?」
「あぁ。」
私にはミリスの潜在意識が残っている?
てかね、もしかしたら不機嫌なのってさ、セミドが原因?