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10、聖女

医療班で治療を受けるハンだが施せる治療がないくらい激しく損傷していた。


「ハンッ!」


呼びかけに返事がなく、しかも呼吸は腹式呼吸になっている。


長く病院にいたからこの呼吸が危険な状態ということがわかってしまう。だって隣のベッドにいたみーちゃんも、おねえさんも、私も最後はこんな呼吸をしてた。


「誰か!ハンを治してよ!」


叫ぶも、誰も手を出せずに流れ出る血を圧迫止血するのみだった。


「ハン!ハン!」


嫌だ、嫌だ!ハン、また私に笑顔を見せてよ!またからかってよ!やだよ!死なないで!


まだ出会って数日のハンなのに、私の中でなくてはならない人になっていた。


ハンを失いたくない、ただそれだけなのに神様はその願いを叶えてはくれないの!


「頑張れハン!」


自分が言った言葉にハッとする。私の両親はどんな気持ちで『もう頑張らなくていい』とか言ったんだろう。両親だって神様にすがりたくなるくらい私を死なせたくなかったはずだ。

でも、死を間近にしてかけたその言葉は私を解放してくれた。

私もハンにそんな言葉をかけて看とるべきなの?


いや、無理だ!まだまだハンの何も知らない。好きな食べ物、趣味、好きな人何も知らない。これからハンを沢山知りたい。

別れの言葉なんてかけられない!


ハンが重症だと聞き付けた近衛隊の面子も駆けつけ、ハンを見て言葉を失う。


頭部の皮膚はえぐれ、右の腕は明らかに折れている。瓦礫に圧迫されていた体幹は内部も大変な事になっているに違いない。目は開いているがそれはハンの意思ではなく、瞬きもせずにいる。


この場所にいる誰もがハンが長くないと判断する状況下でも私は諦められない。


「隊長なんでだよ!」


「あのとき行かせなければよかった!」


顔のそっくりな双子が駆けつけ、ハンの姿を見て涙する。


「「爆弾野郎許さねぇ!」」


爆弾野郎?確かにあの時何かが爆発した。

ハンは何であの時、官房長官の部屋にきたの?


死を目の前にして何も出来ない自分が悔しい。絶望の雰囲気の中その女性は現れた。


「こちらが近衛隊長かしら?」


騎士達が集う中をカツカツとすり抜ける。


「さぁ、どいて頂戴。」


皆、突然の女性の登場に呆気にとられ目を反らす事が出来ずにいた。


「早くしないと死ぬわよ!」


シルバーの髪の毛をなびかせ女性が言う。


ハッとして皆、ハンから離れる。私も少し後退り女性の行動を見つめる。


「聖霊たちよ、私にこの者を癒す力をお貸しください。」


女性は祈り始める。


「聖女様だ!」

「隊長は助かる!」


ザワザワとする騎士たちの前で聖女と呼ばれる女性は祈り続ける。


ハンをうっすら光が包み込み、祈る程に光は増していった。


「、、、この光が消える頃、隊長さんは回復するわ。じゃ。」


と、聖女は去る。


聖女の癖になんか感じ悪い。それが、聖女との出逢いだった。




ーーーーー



それからハンは部屋に戻され、侍女が寝たきりのハンの看護をする事になった。


いまいちホントにハンが回復するのかピンと来ないが、私は勤務が終わると毎日、休みの日は1日中ハンの部屋に居た。


日に日にハンの様子は改善していき10日を過ぎると出血していた箇所がわからないほど治癒し、肺で呼吸出来るようになったのか腹式呼吸はしなくなっていた。


更に数日後ーーーーー


「今日、ハン様が目を覚ましました。」


勤務後いつものようにハンの部屋へ行くと侍女が言う。


「目を覚ました?」


「はい、目が開いた程度ですけれども」


ハンを見ると変わらないように見えたが実際その日から徐々に聖女が施した光は薄まっていた。


薄まった光はあのときロールが放ったキラキラした息に似ていた。


最近では夜間ハンの看護といえば寝返りを定期的にするくらいで侍女がする事はなくなっていた。


だから、


「今日から近衛隊長の夜間の看護は私が行う。お前は日中に備え夜間は休むように。」


疲労が顔に出ている侍女にこれ以上の奉仕は無理だろう。そう判断したからだ。


「ですが、それではミリス様はいつ休まれるのですか?」


「問題ない。それより、先日頼んでいた物はいつ届く?」


「それでしたらこちらに用意してございます。」


侍女はテーブルにそれを置く。


「、、、ではまた明日頼む。」


申し訳なさそうに侍女は退室していった。


ベッドに近づきハンの顔を覗く。昨日より顔色がいい。


聖女ってスゴいんだなと思う。私が生きていた世界に存在すれば沢山の人が救えるにちがいない。


逆にこの世界の医療が発展しないのは聖女に頼っているからかもとも思う。

医療班での治療が圧迫止血だけって、、、


目を覚ます気配のないハンの部屋でまずシャワーに向かった。

ハンが目を覚ました気配がわかるようにドアも少し開いておく。


バスタブにつかると今日のカロンとのやり取りが思い出される。





ーーーーー



「まずあんなでかさの卵を一人で滝までよく運べたもんです。」


カロンは見た目は若いがとっくに50を越えている竜騎士の中でも古株の男だ。

そして、私の指導係でもあり尊敬する先輩でもあった。


前隊長と同期であり、竜の扱い・飛行技術などに長けているがいつしかの戦闘で膝に損傷を負ってからは秘書として隊を支えている。


「すげー重かったです!」


「重さの話しじゃ、ありませんからね。」


ダンと机を叩く。


「背負ったらさ、案外いけちゃった感じでね。でもでも、途中までは三輪車使ったよ!」


「方法の話しでもないからな。」


こわい、すげー怒ってる。


「隊長としてあるまじき行いでした。反省します。」


「、、、ったく、いつ思いついたんだ?」


反省という言葉がカロンの怒りを抑えたのか口調は穏やかに変化した。普段二人しかいないときの話し方に切り替わる。


ここで素直に真夜中って答えたらさ、何でってなるでしょ?

で、マニュアル読んでてなんとなくとか言ったら絶対怒るじゃん。

隊長の癖にマニュアル読んでなかったのかって。


嘘つくしかないよね~


「ずっと思っていたんです。何で騎士隊で生きる竜の寿命が短いのか。」


「だからって!俺にぐらい相談してくれてもよかったじゃないか。」


寂しそうにカロンは言う。


「先輩を巻き込みたくなかったんです。」


まっすぐカロンを見つめ話す私にため息をつく。


「じゃ、魔竜を殺さなかったのは?」


「あの竜が話す言葉が私には理解出来たから、、、、魔竜も私の声を理解している。名前もある。そんな竜を殺める事は出来ませんでした。」


「なんでお前だけなんだろうな。」


信じてくれている、この嘘のような話しを。


「私にも初めての経験で、わかりません。」


「はあぁ~窓を壊したのがお前の仕業だと他の隊には口外しないよう長官たちには話してある。」


秘書として申し分ない人材で。


「爆弾の件もあるし、王宮内が破壊されているし、更に近衛隊が隊長不在で各自が自由に爆弾を仕掛けた犯人を探している。今騎士たちを統治しなければ大変な事になるだろう。」



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