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君への手紙

君の明日の予定は

作者: まさかす

 この手紙を読んでいるという事は、私はこの世にいないという事でしょう。だから最後に手紙に書き留めておきます。


 私は戸籍上では20歳です。ですが数え間違いでなければ80歳を迎えています。


 私は「20歳の誕生日」という1日を60年間繰り返しています。それは日数にすれば約21,900日となります。毎日、誕生日を祝われ、そして毎日この手紙を書いています。


 同じ1日を終わらすために、ありとあらゆる努力をしました。時には目を覆う程の惨劇と呼ぶに相応する凶行に走った事もありました。勿論、自ら命を絶った事もあります。ですが午前零時を迎えると、また日が戻るという事を60年のもの間、繰り返しています。


 私が1秒と違わぬ時間に起きて、一挙一動違わぬ行動をすれば、家族や周囲の人達も同じ行動を繰り返します。


 最初の3日間程は面白かったのですが、同じ日を繰り返すという事が、これほど苦痛とは思いませんでした。テレビも毎日同じ事を放送します。同じニュースが繰り返されます。そのループから抜け出す事が出来ません。

 

 これはこれで永遠の命と呼べるものなのでしょうか? ですが、何も進まない毎日を繰り返す事での永遠など何の価値もありません。


 私は生きる事に飽き、する事もなく、毎日、同じ内容のこの手紙を書いています。もしも明日を迎える事が出来たならば、この手紙は捨てるつもりですが、仮に手紙が残っていたのだとしたら、それは私が捨てる間もなく死ぬ事が出来たと言う事なのだと思います。


 この手紙を誰が読むのかは分かりません。読んだとしても信じてはくれないでしょう。それでも構いません。私にとって、同じ日が繰り返さる事への愚痴のつもりで書いています。

 頭のおかしい奴が書いた下らない手紙と思って棄ててくれて構いません。私の願いは手紙を読んで貰う事では無く、明日を迎える事か、死を迎える事なのですから。

 


 

 そんな内容が書かれた手紙を見つけた。手紙の書いたのは私の祖父の弟で、私からすれば大叔父という事になり、20歳の誕生日の次の日に心不全で亡くなったという事を以前に祖父から聞いた。


 手紙の内容を信じるのは流石に無理があるという気持ちではあるが、書いてある事が本当だとするならば、大叔父は精神的には80歳という事で、大往生とも言える。心不全という原因が曖昧な病で亡くなったという事なので、80歳という年齢で考えたならば、老衰という事で納得がいかないでもない。この手紙が捨てられずに残っていたと言う事は、単に手紙の存在を忘れていただけなのだろう。


 手紙に出てくる「永遠の命」という言葉、今の私には正直ピンと来ないが、実際にはどれくらいの人が求めるのだろうか。過去の歴史において、始皇帝とか、すさまじい権力や財力がある人ほど、永遠の命を欲したという印象があるが、実際に人はそれを求める物なのだろうか。


 それを求める人がいたのならば、その人は分かっているのだろうか。それは必然、自分以外の家族や友人が皆先に逝ってしまうという事を分かっているだろうか。いつか生まれてくる自分の子供や孫が先に逝く。それを見続ける、看取り続けるという状況に耐えられるのだろうか。それでも生きたいのだろうか。それは一心に未来を見ていたいだけと言う事なのだろうか。それほど迄に永く生きる事は大切なのだろうか。

 まさか全ての人間に永遠の命を求めているなんて言わないだろう。そんな事になったら人口が増え続ける事で全世界規模で食糧難が訪れ、やがては世界規模で飢餓となり、その結果、食料を奪い合っての惨劇が繰り広げられるのは想像に容易い。


 人間の命は地球よりも重いと言った人がいた。流石に本気でそんな事を言っていたとは思わないが、その人は自分の言った事を理解していたのだろうか? 人間の命を守る為なら地球の何を犠牲にしてでも守る価値があるとでも言うつもりだったのだろうか? 万が一にも、そんな事を本気で言っていたのだとしたら、その人は「永遠の命が得られるならば、ありとあらゆる全てを犠牲にしてでもそれを得たい」とでも言いそうな気がして正直怖い。


 まあ、どちらにしても大叔父のような永遠の命を望むものなど皆無であろう。そんなのは「永遠の命」というより「延々の命」って感じだ。


 今私は、祖父の遺品整理している最中に見つけた手紙を読みながら、そんな事を考えていた。


2019年 07月31日 2版 諸々改稿

2019年 03月06日 初版

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