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──第2話 誕生 ドリーム全開! ドリーム太郎。後編──


ビシリ。狼男に指を突きつけ名乗り上げる夢田太郎、あらためドリーム太郎。


 少女を相手に無体を働こうなど、まさに獣そのもの。

 が、それでこそ叩きのめすに心を痛める必要もない。


そもそもが、少女教諭は俺のエロエロ願望が形になったもの。

NTR物じゃあるまいし、狼男なんぞに渡すわけにはいかない。



──第2話 誕生 ドリーム全開! ドリーム太郎。後編──



「グルル……」


ノソリ。少女教諭の身体から狼男が身を起こす。


その巨体へドリーム太郎は駆け寄り、飛び上がった。


「ぬほおぉぉああ! ドリームキーック!」


綺麗に放物線を描くのは、必殺の空中飛び蹴り。


ズガーン


激突する夢田の蹴り足と狼男の爪撃。


ドカーン


音を立て吹き飛ぶのは──狼男の身体であった。


「ウガッ!?」


驚愕に目を見開く狼男。

3メートルを超える巨体が弾かれ後ずさる。


いくら飛び上がって勢いをつけようが。

たかが1メートル70センチの少年が、3メートルの巨漢とぶつかり吹き飛ばすなど、ありえない芸当。


「悪事を働くその爪。へし折らせていただいた」


しかも、叩きつけた右腕は、ダラリ垂れ下がり動かない。

骨折。それも、折れた骨が皮膚を突き破り露出する開放骨折。


「このドリーム太郎には慈悲がある」


思わぬ激痛に右腕を抑える狼男に向け、ドリーム太郎が歩みを進める。


「貴様が悔い改め反省するのなら──」


狼男の目前。

その身体は、狼音のへその高さでしかない。


「更生の機会を与えるのも、やぶさかではないが……どうする?」


だが、その目が、はるか高みに位置する狼男を見据え、釘づける。


「ウガーッン!」


動かぬ右腕はそのままに、狼男は無事な左腕を力のままに振り下ろす。


頭上から圧倒的パワーをもって叩きつけられる剛腕。

ドリーム太郎は右の手の甲を添えるだけで──


スパーン


はたき流し、捌いていた。


「グガッ!?」


渾身の力を込めた一撃が、まるでのれんを押すかのようにスルリと流され、思わずたたらを踏む狼男。


崩れた体勢。

ドリーム太郎はその手首を取り、ひねり返すことで


バシーン


狼男の巨体を地面に打ち倒していた。


「これが合気道。そして、これがドリーム小手返しだ」


 やれやれ。

 合気道をかじって正解だった。


 かつて夢田が通った中学校。

 武道に力を入れる教育方針であり、学生はいずれかの武道を学ぶ必要があった。


 他のみなが空手やらボクシングやら目立つ武道を志すなか。

 夢田が選択したのは、合気道。


 小よく大を制す。

 合理的に相手を制し自然と一体化する。

 これこそ、俺の目指すべき武道である。


 ……まあ、実際のところはだ。

 護身術として、合気道を習う女生徒が多かったという。


 だが、それが正解。

 俺のようなイケメンは同姓から恨みを買うもの。

 うっかりボクシングなぞ選択していれば、ヤンキー連中のスパーリング相手としてボコボコにされていただろう。


「今にょ! 悪夢獣を浄化するにょ!」


 感慨にふけるドリーム太郎をよそに、急かす声がする。


 なんだ?

 狼男に止めをさせと言いたいのか?


 だが、夢田が学んだ合気道は、相手を倒すためのものではない。

 他者と争わず、打ち解け、平和を実現するためのもの。


 例え相手が狼男であっても、意志ある相手であれば協調することも可能である。


「……言ったろう。狼男が反省するのなら、見逃すのもやぶさかではない。と」


「そんなのんき言ってる場合じゃないにゅ! 悪夢獣が来るにゅ!」


ドリーム太郎が見守る前で、床に倒れる狼男がゆっくり立ち上がる。


 うーむ……合気道の理想は置いておくとしてもだ……

 現実問題。倒せといわれても、倒すための武器がない。


 ここまでは運よく狼男の機先を制して引き倒しはしたが……ここから先。

 巨大な獣を仕留めるのであれば、武器が必要。


 銃など贅沢は言わないが、せめて刃物がないことには話にならない。


だが、相対する狼男のその目は、その腰は。

自分より圧倒的に小柄なドリーム太郎に吹き飛ばされた警戒からか、引けていた。


 ……どうやら、このまま逃げ帰ってくれるか?


 窮鼠猫を噛むといわれるように、追い詰められ、死に物狂いとなった相手。

 うかつに近づこうものなら危険である。


 よって、ここはもっともらしく余裕をもって見逃すに限るのだ。


「駄目にゅ! 狼男を、悪夢獣を浄化しないと少女は目覚めないにゅ!」


 マジかよ!?


 確かに、狼男に襲われた少女教諭は、気を失ったのか床に横たわったまま。

 目を覚ましてもらわねば、エロエロできないという。


 ……だが待てよ?

 別に相手が気絶していても問題ないのではないだろうか?

 穴さえ開いているなら、俺が用を足すに支障はないはず。


「支障があるに決まってるにゅ! それに大丈夫にゅ! 夢ブレスでヒーローになった今なら、必殺技が使えるにゅ! やるにゅ!」


 マジかよ?


 そのような必殺技があるというなら、見逃す必要はない。

 更生を待つまでもなく、悪の芽は即座に摘み取る。


「ならば行くぞ! 怪人狼男!」


 平和を実現するための悪、即、斬。


「……で、その必殺技はどうやるのだ?」


「イメージするにゅ! 夢パワーを解放するにゅ!」


 あやふやな説明である。

 もっとも、珍獣に理路整然とした説明を求めても無駄というもの。


 とにかくイメージだというのなら、どうする?

 やはりキックか? 飛び蹴りか?


 いや……さっきも言ったように接近戦は危険にすぎる。

 万が一、狼男に殴られでもしては俺が怪我をする。

 夢の中だというのに、狼男に殴られたのは痛かった。


 よって。ここは──遠距離攻撃。


「いくぞ! ふおおおおおおお! 湧き上がれ。俺の夢パワー!」


 珍獣は必殺技だという。

 ゲーム脳的に考えるならば、必殺技に大事なのは気力。

 よって、ここは気合だ。気合あるのみだ!


腰を落とし左足を前に。半身に構える。

中学の間だけとはいえ、慣れ親しんだ合気の構え。

いつもと異なるのは、ドリーム太郎の両の掌の間にうごめく未知の光。


 これは……これが夢パワーなのか?


「にゅおおおお! 凄い夢パワーにゅ! いけるにゅ!」


行けるというのなら──

構えるまま、ドリーム太郎は両手を前に突き出した。


「ふおおおお! ドリーム全開! ドリーム光線!」


ビーーーーム!


光の飛ぶ先は、狼男。


チュドーン


直撃。狼男を光が包み込み爆発する。

四散。肉片すら残さず浄化が完了する。


「やったにゅ! やったにゅー!」


「はあ……はあ……なんだこの腕輪……本当にヒーローになったみたいだ」


喜びにピョンピョン飛び跳ねる珍獣が振り返る。


「当然にゅ。お前は悪夢獣と戦うヒーローになったにゅ」


「しかし、はあ……はあ……やったは良いが……妙に疲れているのだが?」


「夢パワーを大量につかったにゅ。当然にゅ」


 そうか。必殺技だというのなら気力体力を大量に消費するのも当然。

 疲れから眠くなってきたような……


 いやいや。今が夢の中なのだから眠くなるのはおかしいだろう?

 それよりもだ──


「少女教諭は無事か?」


 狼男に圧し掛かられていたが、大丈夫であろうか?


疲れる身体に鞭打ち、床に横たわる少女のもとへ。


少女の衣服に乱れはなく、外傷も見当たらない。

気を失っているだけだろう。


 ……狼男は少女にまたがり何をやっていたのだ?

 てっきりけだもの行為だとばかり思っていたが。


「夢を食べていたにゅ」


 ? よく分からんが、少女の貞操が無事ならそれで良い。

 さっそく夢から目覚めるその前に、エロエロな夢を実現するとしよう。


「だから何をするつもりにゅ!」


 だというのに、この珍獣。

 少女教諭の前に立ちふさがりピョンピョン飛び跳ねる。

 邪魔すぎる。


「う、うーん……」


そうこうするうちに、少女は目を開き身を起こしてしまっていた。


「あれ……ここは?」


「俺の夢の中だ」


「え? 夢の中……あれ? 本当だ。これ日ノ下幼稚園の教員服だ」


その言葉に少女は自分の身体を見回し確かめる。


「……ああ。そうか。わたし日ノ下幼稚園の教員に憧れていて……それで教員になった夢を見てるんだ」


 ? いったい何を言っているのか?

 これは俺の夢。

 少女教諭はその登場人物にして、ただのエロエロ要員にすぎないというのに。


「そうにゅ。でも、危なく悪夢獣に夢を食べられるところだったにゅ」


 だというのに、珍獣も何を肯定しているのか?


「かわいい! ねえ。あなたなに? かわいいー」


話も聞かず、少女教諭は珍獣を胸に抱き上げ、頬ずりする。


 ……うらやましい。


「にゅ! や、やめるにゅー!」


ピョコン。少女教諭の腕を飛び出した珍獣は、夢田を盾に後ろに逃げこんだ。


「とにかくにゅ。悪夢獣は倒したからもう安心にゅ。ゆっくり眠るにゅ」


「あ! そういえば……わたし変な狼男に襲われそうだったんだ。それを子羊さんが助けてくれたの?」


「子羊じゃないにゅ。シーたんは夢世界の番人にゅ」


 そうだったのか?

 珍獣が襲われているところを、少女が助けようとしていると見えたのだが。


「違うにゅ! シーたんは少女を助けに来たにゅ! 逆にやられそうになっただけにゅ!」


 駄目ではないか。


「駄目じゃないです! 子羊さんのおかげで、わたしは助かったんですから」


 少女らしく可愛い? 物が好きなのだろう。


「にゅから子羊じゃないにゅ。シーたんにゅ!」


逃げる珍獣を追いかけ、2人は夢田の周りをグルグル駆け回っていた。


「そうか。まあ、その無事でよかった。ついでに、俺も君を助けるのに協力したのだが?」


「え?」


頭上に?を浮かべ立ち止る少女。


「だって……その……あなた狼男にやられただけなんじゃ……」


 言われてみれば、少女教諭が見たのは俺が吹き飛ばされる場面まで。

 俺の活躍する場面は気を失い見ていない。


「その後で活躍したのだ。ちょー大活躍。分かるか?」


「……ごめんなさい。分かりません」


ガックリ。


 俺の活躍に少女は濡れ濡れ大股開きのはずが見ていなかったとは……


 まあ良い。

 しつこいようだが、これは俺の夢でしょせん少女教諭はその登場人物。

 少女に何をしようが俺の自由で何をしようが罪に問われることもない。


「というわけでだ……やらせろ!」


「ひっ?!」


飛びかかる夢田の腕をかいくぐった少女は、珍獣を盾に後ろに逃げ込んだ。


「だから、やめるにゅ!」


少女を背後にかばい、ピョンピョン飛び跳ねる珍獣。邪魔すぎる。


「なぜ邪魔をする? 少女はただのダッチワイフ。俺が何をしようが問題ないはずだが?」


「なにをバカ言ってるにゅ! もう目を覚ますにゅ!」


大きく飛び跳ね頭から飛び込む珍獣を。


「あまいぞ!」


ガシリ。夢田は平手で受け止める。


「にゅ、にゅー!? はなすにゅー」


 たびたび俺の邪魔をしくさるこの珍獣もどき。

 いったいどうしてくれようか?


「子供を相手に何してるんですか!」


声に目を向ければ、少女教諭が手を振り上げ──


バチーン


大きな音とともに夢田の頬を打っていた。


「ほげえええええ!」


 な、なぜ……ただの少女の平手打ちに、この俺が……


ドサリ。


「にゅ! やったにゅ!」


「あっ。つい……この人。大丈夫かしら?」


倒れた夢田はピクリとも動かない。


「大丈夫にゅ。ほうっておけば勝手に目覚めるにゅ」


「そう。でも、シーたんが無事でよかった」


教諭としての本能か。

子供を守ろうとした少女の力。


「変な夢だけど……うん。やっぱりわたし子供が好き。だから幼稚園の教諭になりたい」


その言葉に少女の身体が白く発光する。


「えっ? なにこれ? どうなってるの?」


光るのは少女だけではない。


周囲全て。日ノ本幼稚園の建物が。庭の遊具が。

全てが白い光を放ち、粒子になり消えていく。


「目覚めの時間にゅ。夢を忘れずがんばるにゅ!」


消え去ろうとする光に手を振る珍獣。


「……うん。ありがとう……」


微かに聞こえる声を最後に光は消え去り、後に残るのは、地面に倒れ伏す夢田と珍獣2人。

周囲一面は再び荒野に戻っていた。


「ふいにゅ。どうにか少女の夢を守れたにゅ」



ジリリリリ


 ……もう朝か。


目覚ましの音にパチリ目を覚ます。


 俺の名前は、夢田 太郎。17歳。

 市内の権道高校に通う2年生。


 しかし、昨晩は変な夢を見たもんだ……

 しかも、もう少しでエロイ夢が見られるというところで目が覚めるとは……

 惜しかった……


 いや! 違う。断じて惜しくなどない!


 品行方正。真面目で清廉潔白。

 学校では生徒会に所属するこの俺は、エロイ行為など欠片も興味はない。


 それがあのようなエロイ夢を見ようとは……何かの間違いである。


ふんぬ。気合一発。

掛け声と同時に布団を跳ね上げ飛び起きる。


「にゅー!?」


 ……なんだ? 幻聴か?


 夢を見るときは、眠りが浅いと聞く。だからだろう。

 寝た気がしないどころか逆に疲れている気もするが……

 だからといって学校を休むわけにもいかない。


着替えのためパジャマを脱ごうとした夢田だが──


「んん? ……なに?! これは怪しげなパワーストーンブレスレット!?」


自分の腕に妙なブレスレットが着いていることにハタと動きを止めていた。


「むむ……夢で見たブレスレットがなぜ今も俺の腕に……」


「それはお前がヒーローになったからにゅ」


 なに?

 すでに2度も声が聞こえるとなれば、これは幻聴ではない。


「なにやつか! 姿を見せい!」


 声の源を探さねばならない。そしてそれは──


「そこだ!」


夢田は華麗にベッドの下を覗き込む。

が、何者の姿もない。


「……ぜんぜん違うにゅ」


声はベッドの上。

跳ね上げた布団がゴソゴソ動き、その下から妙な生物が現れた。


「な……な……」


20センチほどの全身が真っ白な毛でおおわれた珍獣。


「んにゅ? どうしたにゅ?」


ちょこちょこ夢田の元まで歩み寄る。

その姿は、2足歩行するぬいぐるみサイズの子羊にも見える。


「ば……化け物!」


「誰が化け物にゅ!」


スパーン。子羊の手が夢田の頭を打つ。


「痛い……」


 だが、この珍獣。

 夢で見た覚えがある。しかし──


「俺はまだ夢を見ているのだろうか?」


「もう夢世界じゃないにゅ。現実世界にゅ」


 夢ではないという。

 だが、常識的に考えてこのような珍獣は存在するはずがない。


「シーたんはお前が気に入ったにゅ。パートナーにしてやるからありがたく思うにゅ」


 存在しないはずの物が存在するという、この矛盾。

 コーナン君全巻読破の俺の知能を持ってしても、解決の難しい問題。


「……そうだな……見なかったことにしておこう」


ピョコピョコ物珍しそうに周囲を見やる珍獣。

その頭の上からシーツをかぶせて


「にゅ? にゅにゅーっ?!」


ポイと窓の外に放り投げる。


「よし……学校へ行くとするか」


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