7 『ナニヲシテイル』
「なん......だ、これ」
駅の改札を駆け抜け階段を上り、ホームに出るとそこには数人の駅員や駐留警備員が何かを話しているが、まさか人が上がってくるとは思っていないのだろうか物陰に隠れる俺に全く気付いていないようだ。
「どうにか電車内への被害は免れたがこれは酷いな」
「ああ、電車に乗り込まれるとこれだけでは済まなかっただろう」
「しかしこれは単独での犯行ではないだろう、もう警察には通報してあるが厳重警戒しておこう」
俺は盗み聞きを中断し周りを少し見ようと立ち上がり一歩踏み出し目から伝達されてきた情報を整理し終える前に再び元の隠れていた状態に戻り。
「――ぁ、――――あぁ、うわああああああ!!」
そこに広がっていたのは両手では数えきれないほどの老若男女の遺体が転がっていた。完全に思考が止まり、声を上げてしまっていた。
「おい、誰かそこにいるのか!」
先程話していた警備員達が駆け寄ってくるが腰が抜けてしまって逃げることは不可能だった。
「お前がこれをやったのか!」
「おい待てよ、こいつ様子がおかしいぞ。もし犯人だったらこんなに状態にはならないだろう」
駅員に連れられ事務室でようやく落ち着いた俺は、こんな状況に飛び込んだ原因について尋ねた。
「ここに俺と同じような制服を着た女の子はいませんよね、上にはもちろん......」
「申し訳ないが私にはわからないよ、何せあの状況は私にはかなりきつくてね」
最初に悲鳴を聞いた時感じた悪寒がきえない。
「もう一度上に上がらせてもらってもいいですか?警察の方が来るまででいいので」
「君は何を言ってるんだ、もし仮に君の言う女性が被害にあっていたとしてもこの状況だ。一般人を事件現場に入れることなんて有り得ないだろう。もうそろそろ上に残った警備員と駅員達が返ってくるからその時また心当たりがないか尋ねてみるといい」
そう説得され、もはや何もできることはないと諦めかけたが
「おい、ちょっと来てくれ」
俺の傍で話を聞いてくれていた駅員が別の駅員に呼ばれた。 好機だ。
「ああ分かった今行くよ。お前はここにいるんだぞ」
俺にしっかりと忠告し部屋を出ていき一階の広間でまた話し合いを始めた。
ここにいる間も香澄が危険な目に合ってるかもしれない、そう思うと居ても立っても居られない。
――こっそり部屋を抜け出し再び二階に上がった。
「――っ」
先程とは反対側の階段から上がったのか俺の隠れていた場所がかなり遠くに見えるが、階段を上り終え目の前に広がっていた光景は以前の比ではなかった。
灰色の地面に真紅の華が散らばり所々に人間だったものが所狭しと転がっている。
「おいおいおい、なんだよこれは」
卒倒しかけたが、頬をおもいきり叩くことで暴力的に呼び戻し最優先事項を完遂せんと一歩一歩、歩みを進めた。
靴裏には常に不快な音が纏わりついてくるが既にそんなものは俺の耳には入ってこない。何より早く香澄を。ここにいないことを信じてみて回るんだ。
――なん、でだよ。何で、ここにいるんだ!どうしてこの駅に!!
ようやく全景を確認し終えようとしたとき見てしまった。見つけてしまった。ホームのちょうど中央、もっとも紅に染まる場所に彼女はいた。心臓を一刺し、一瞬で命を奪われ抵抗したとみられる様子もない。
俺はその場に崩れ落ちもう温まることのないその手を強く、強く握りしめ自己を罰するように肌に爪を突き立てた。
その直後、背後に感じたことのない二つの狂気を感じ即座に振り向くと
「おや、なんでまだ生きている奴がいる?」
「本当だ、殺し損ねちゃったみたいだね。やっちゃおっか!」
落ち着いた雰囲気で漆黒のロングコートを纏った身長の男とその脇には子供のようにはしゃぐ小さな男の子がいた。だが、明らかに他の人間とは違いその二人は濃密な死を纏っている。それに、その両手には鋭利な短剣が握られている
「ああ俺たちを見てしまったならしょうがない、好きなようにしていいぞ」
「かしこまりー!」
猛烈な勢いで迫ってくる死に成す術を見いだせなかった俺は無心で傍にある冷え切った手を握り覚悟を決めた。
「――うわああああああ!」
「な、なに!どうしたの一誠!顔が真っ青だよ」
――俺の部屋.か、全くなんなんだ......
俺の意識は闇に沈んだ。