4 『束の間の安息』
あと2日……
今日は学校は休みだ。部活に加入していない学生にとって1週間に1度の安息日だ。と言っても土曜日もあるのだが、最近土曜出校が続いているのだ。
と、まぁ今日は休日な訳で特に何もすることがないので俺は先輩方の体験談でも読んで勉強することにした。
――先輩って言っても実在しないんだけどな
ライトなノベル的なやつに綴られている先輩方だ。
朝食を取り終え一念発起した俺は早速自室に籠もりテレビの前に炭酸飲料、軽食用のスナック菓子、ウエットティッシュを準備した。
「――ちょっと散歩してくるからね、あ!スカウトされちゃったらどうしょっかな〜」
全く、見た目はいいのに頭の中身はお花畑かよ。
「お前他人に認識されないんじゃなかったっけ」
そう溜息混じりに言うと見事に不貞腐れてしまった。そして今に至るのだ。
「さて、1話からいきますか!」
25話を1日で見終えるには時間がもう僅かだ。順調に言っても深夜コースは間違いないだろう。
「――ここまでくると俺もメンタルがやられるな。そんなに立ち上がれないし……」
残り話数も5話程とかなりのペースで見てきたが、いざ自分がこのようになると考えるとゾッとする。この作品は以前はアニメ文化というものに批判的立場にいた俺がアニメにハマった切っ掛けとなったものだ。
「正直、死ねば何度でも復活しやり直せるなんてチートにも程があるが、死にたくはないよな……」
当時は憧れさえ抱いていたがいざ自分が、となると気が引ける。正直普通に強い装備、安全なチート能力を頂きたいところだ。あと迷惑な駄女神様もお断りだな。
――バフッ
背後で散歩帰りのフランが力尽きたのかもはや定位置と化した俺のベッドに飛び込んだ。丁度感動の最終回を見終えた俺はベッドに転がるフランに
「どうやらスカウトの、スの字も見当たらなかった様だな」
「あたしの事を認識できる分かってる奴はいなかっただけだし」
「――ありがとう」
「一誠は例外だから!大体1日部屋に籠るなんてニートにも程があるでしょ!」
おっと、先程まで枕に顔を埋めていたがようやく顔を上げた。
「私をそんなに可哀想な人を見る目で見ないでよ」
ようやく俺の視線に気づいたがそう言って再び倒れた。
そんなやり取りがあって1時間程だろうか。OVA、短編も見終えた俺は未だベッドで爆睡しているフランを見て
「本当にコイツが召喚特典なんてないだろうな。」
今日1日かけて見た作品とは別のものだが、召喚特典に見事なまでの駄女神様を授かった気の毒な転生者の話にふと思い出して、つい心の中の声が漏れてしまった。
正直、正体不明なままだし女神なわけではないだろうが俺は恐らく後者の立場に近いだろう。
確かに見てくれはいいのだ。正直超美人だし。と、彼女の側に座り眺めていたのだが今日の異世界予習の成果を頭の中でまとめようとしたがこれが、多くを得たようで実は何も得ていない。つまり行ってみないと分からないお楽しみってやつだ。
と、こんな感じに今日1日を纏めてみた。
「――おいフラン、どけよ」
いつまでも俺のベッドの上で眠りこけているフランに声をかけた。反応こそしないが確実にコイツは起きている。
「返事がない。ただの屍のようだ」
超有名RPGの名台詞を呟くと
「ねぇ!屍ってなに!もしかしてアンデッドのこと!?あんな奴らと一緒になんか――」
突然フランが飛び起き少々焦ったが再び寝始めたので放っておこう。
「仕方ないな、今日は布団か」
ボソボソと言いながら布団を引き俺はようやく眠りについた。
――その部屋には一筋の月光が美しい金色に射しこんでいた。僅かに乱れた金色の髪はまるで黄金の様に白銀の月光を反射していた。
「――よく寝てる。もう君はこの生活には戻れないなんて知らないのに。まぁ精々束の間の安息を満喫するといいよ」
そう薄ら姿の見える少年に呟き月光を弾く金髪は闇に消えた。