3 『過ぎ行く日常』
――重い。
普段から1人、ベッドで寝ている俺にとってこの感覚は異常そのもの。ましてや温もりのある重さなんて感じる筈がないのだ。
「――重い!!」
ようやく声を上げた俺は腹の上を横断する長い脚を払い除けた。
ドン。と、彼女は床に敷いてある初期位置へと転がり落ちた。まだ意識が完全に覚醒しきってないのか呆然とした表情で遠い目をしている。
「どうした!」
階下から父が猛ダッシュで駆け上がってくる。
全く、過保護なものだ。
……しかし思春期真っ盛りの男子高校生の部屋にこんな黙れば美人がいれば流石の父も慌てふためくだろう。
――バタン。
そうこうしている内に父が俺の部屋の扉を開けた。慌てはしなかったものの呆然としている様子だった。
「お前……なんで布団まで敷いてんだ?何が重いんだ?あぁ、おはよう息子よ」
本当に会話の順序が全くもって合ってない。
「おはよう父さん。ええと、布団が敷いてあるのは……あれだよあれ。もし転がり落ちても良いように保険ってやつだよ。それに俺、重いなんて一言も言ってないよ?」
「そうか。ならいいけどな!てっきり俺の夢を見て俺の存在が重いなんていいだしたのかと思った!」
そう父が俺に笑いかけてきたがまぁ間違ってはいない。重いとも思う。
「なんだその目は!父さん悲しいぞ!親父を虐めてないでさっさと飯食ってこい!」
と、俺に告げると俺のベッドの上に父が座った。
――まずい。そこにはフランがいたはず。
案の定まだ寝惚けて俺のベッドの隅でゴロゴロしているフランにあと少しで触れそうだった。
『おい、フラン何やってんだ。早く行くぞ』
心の中で彼女に訴えてみた。思念波とか言う如何にも特殊能力といった力を行使しようと試みたものの当然の如くそんなものはできない。
――もう最悪ばれてもいいや。
そう半ば諦め俺は朝食をとりに1階に降りた。
「――父さんはどうしたの?」
「父さんなら俺のベッドで二度寝でもしてるんじゃない?」
冗談っぽく言ったつもりだったが母、楓はこれを真に受けスタスタと2階に向かおうとした。
流石に2人にバレるとなると収集がつかなくなる。
「待って待って!俺が飯食べ終わったら起こしてくるから。どうせ上にまた行くんだし」
「そお?なら、いいけど」
母は若干納得のいかない様子だったが特に気にすることなく家事に再び取り掛かった。
『しかし、上で何事もあってなければいいんだけどな』
俺は、そう淡い期待を抱きながらパンと味噌汁に目玉焼き、と何とも和洋混合な間宮家伝統の食事を手をつけた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――全くこの頃の一誠は可愛かったよなぁ」
「きゃー!これがあの一誠!?可愛い!」
「全くこの頃に戻って欲しいもんだよ」
「うんうん。今となっては普通そのものだからね」
――あれ、なんだこの会話。内容も変だし話している人間も変だ。
いや、話のネタは俺の卒アルだろう。そして話をしている2人は父さんとフランだろう。あぁ、なんだ簡単な事じゃないか納得……
「する訳ねーだろ!!」
あ、やってしまった。心の声を盛大にぶちまけてしまった。
当の本人達はキョトンとした顔で俺を見ている。愈々危ない人を見る目だ。
「本当にどうしたんだ一誠、俺は1人でただお前の卒アルを見てニヤニヤしてただけだぞ?」
「もう一誠ってば焦んないの!ただ一誠のちっちゃい頃の写真をお父さんと見てただけじゃん!」
おい、明らかに矛盾しているよな。なんで父さんは1人で見ててフランは2人で見てたって言ってるんだ?
フランはスッと立ち上がり俺をほいほいと隣の物置部屋と化した空き部屋に押し込んだ。後ろでは父がうんうんと唸っている。
「前いったじゃん!君以外に私は見えないんだって!あ、でも私からは見えてるんだけどね」
俺はハッとした。それと同時にあの父の視線の意味がよくわかった。成程俺は父1人しか相手にいない状態で『お前ら』と、口走ったのだ。
「お前そういうことはちゃんと言っとけよ。家ん中だったから良かったものの外でこんなことすれば職質もんだぞ!?大体いつ言ったんだよ」
「覚えてなーいな」
可愛らしく舌をだし誤魔化すフランを尻目にとっとと部屋に戻り、父を追い出し、ようやく落ち着けた。
――しかしまぁ俺の平凡な日常は何処へいったのやら。あの日常を返して欲しい。
だが、この後4日間フランに振り回され、無事外で変態扱いされ、職質を受け、大変な目に会ったのだった。
――5日前フランに告げられた猶予期間期間は後2日……
更新遅れ申し訳ありません!
次回よりサクサクとストーリーを展開して行こうと考えておりますので是非ともお楽しみに!