9-1「弱者は強者の足元に沈む」
昨年年末に更新して、年明け早々風邪をひいたり親戚巡りしたりして執筆が遅れかなり間が空いてしまいすみません。
正月早々感想、レビューを多々頂いたこともあり、投稿一か月にしてPV1600達成し本日で既に12月のPVをこしました!本当にありがとうございました!
――急げ、急げ急げ急げ。
俺はジャックと遭遇し交戦、というより一方的に嬲られていただけだったがフランの思いがけない助力によって命辛々その場から離れることができた。だが、決してこのまま家に帰るわけではない。香澄をもう一人の通り魔、キールから助け出さなければならない。
しかし、どうやって助ける?俺には戦闘能力なんて欠片もないし異世界転移予備群とはいえ魔法を教えてくれる美少女とも出会えていない。そもそも今いるのは間違いなく日本だ。
――待てよ、フランのやつ魔法使ってたよな?
「とにかく今は香澄を助けないと!」
全力で駆け回ってようやく一階の開けた場所にたどり着いたが俺の足が止まった。
――止められ、動かなくなった。
周りには俯き下を向いている人、うつ伏せになっている人が多々居るが全く生気が感じられない。
『取り敢えず、ちょっと話を聞いてみよう』
四、五人でかたまって座っていた人の同じくらいの年齢の男子に声を掛けることにした
「すみません、大丈夫ですか」
その人の肩を叩くと、囲んでいた人々も一緒に仰向けに倒れ......
「――う、うわああああああ!!」
目の前に転がった五人は既に塊でしかなかった。体の前面を切り刻まれ無惨な姿を晒していた。平凡な生活を送ってきた俺には刺激が強すぎた、ただ卒倒しなかっただけましだろう。
「そう騒がないでもらいたいのだが」
俺が先程降りてきた階段に黒装束、高身長の男が少女を隣に寝かせ声を掛けてきた。
通り魔のもう一人キールだ。
「キール......!お前なんてことしてるんだ!」
「そう簡単に感情を昂らせるのは相手に自らの余裕がないことを晒している様なものだぞ。
落ち着きが重要だぞ。私からのアドバイスだ」
こんな殺人鬼と平気で会話するなんて想像もしていなかったし日頃あまり感情を表に出さない俺がこうも激昂するとは......悔しいがあいつの言う通り落ち着く方が今は得策だろう。
だが、そんな俺の考えは視線の先にいた少女によってあっさりとかき消された。
「おい、その隣にいるのは誰だよ。誰だって聞いてるんだよ!」
「まったく、今忠告したばかりだというのに。まあいい、この子はたまたま事後に構内にいたんだよ。死んではいないよ?」
そう言って、狂気に満ちた笑みをこちらに向けた。
「――放せよ、早くその子を放せよ!」
「まったく、君は傲慢という言葉を知らないのかい?まさに今の君はそれだよ。自分の欲しいものは自力でどうにかするのが当たり前じゃないか」
「くっ......どうしたらいいんだよ」
『そもそもただの高校生が交渉なんてしたこともないし、ましてや相手は殺人鬼だ。完全に相手のペースに乗せられている。くっそ、こんなときフランがいれば......』
だがこんな他力本願な姿勢じゃ香澄が危ない、とにかくあいつから早く遠ざけないと。
「そうだね、別にこの子を今すぐに殺してもいいんだけど、君の必死さもなかなかのものだったからね。私を追い払ってみたらどうだい?私もあっさり仕事が済んで暇なんだよ、それに上でジャックも楽しそうに遊んでいることだしね」
そう言ってキールはゆっくりと立ち上がりどこからともなく、漆黒の刀身の剣を引き抜いきこちらに切っ先を向けた。
「さあ、いくぞ」
まずい、せめて武器があれば......
――待てよ、もしかしたら俺もフランの使っていたやつを......
「ライトニングセイバーッ! ――あ、あれやっぱり無理なのか。ならどうすれば......」
異世界転生物お決まりの魔法を見様見真似とはいえ行使したが結果は中二病発言して終わった。
「お前が魔法なんて使えるわけがないだろう、さあそろそろ私も動かせてもらおうか」
そう一言俺に言いった直後、腹部が燃え上がるような激痛が走り、気付けば壁にめり込んでいた。目を開けるとこの数秒でこの状況を作り出した張本人が正面に立ちこちらを見下ろしていた。
「――ううっ、なんだよそれ勝てるわけないだろ......」
「ああその通りだ、力のないものは何もできない。まして他人を守るなんて不可能だ。それが力無き者の宿命だ」
――か、すみ......俺が無力なばっかりにすまない。後はフランに......
「気を失ったか、本当に力のない者は大切なものを何一つ守れない。力こそが正義だ......
だが少年よ私に立ち向かおうとするその意気を認めこの娘は返してやろう。それでこそ己の真の無力を実感するだろう」
「いたっ!ここは......っ!あなたは!!」
一誠を一撃で沈めたキールは階段に気絶させたままの香澄を起こし、すぐに香澄は目を覚まし即座に距離を取った。
「そうあからさまに避けられると私も傷つくのだが、仕方ないか。今日はもう十分に楽しんだ、きみは早くここを立ち去るがいい。ジャックに見つかると君も仲間入りだからね」
おもむろにキールが指さした方には一目では数え切れないほどの死体が積み重なっていた。
「うっ、なんてことを...... ――一誠、一誠はどうしたの!まさかあの中にいないでしょうね!」
最悪の状況を把握し最悪の場合を想像した香澄はすぐにキールに問いかけた。
「勇ましい娘だ、安心しろその一誠だったか?少年は向かいの壁で気絶して......
――おいなぜ貴様は立っている、それになんだその禍々しい形相は。復讐にでもきたのか」
目の前のキールが質問にも答えずに突然背後に向かって話始め不思議に思いキールから目を離し同じ方向を見ると、そこには同じ学校に通い誰よりも大切な少年が立っていた。
だが、そこにいたのは私の大切な少年ではない。背後の殺人鬼すら凌ぐ殺気を放つ少年がいた。
さて、今回と次回はキャラサイドを分け9-1,2と分割させていただきました。
次回投稿は9-2話となりますのでお楽しみに!