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12. デブリ


 そこは、オレンジ一色で創られたモノクロの世界。

 秋の夕陽が染め上げた、思い出の中にある世界。

 

 俺、八重洲やえすともかは確かに、この場所を後にしたのだ。

 本来ならば不可能な過去の想いを成就し、精算する事が出来た。

 ……ハズだった。



「出た出た、お得意のキモイ解説。

 何でそう、毎回毎回浸れるのかねえ」


 出た出た、葉月さん。

 何でそう、毎回毎回言わせるのかねえ。


 俺はひたってなんかないの! 普通なの! キモくなくって大人なの!


「だってもう夕焼け背景でも霧の中でもないじゃない。

 あんたがオセンチに浸っているだけなんでしょう?」


 んむむむ……

 まあ、否定は出来ないが。

 ほんとお前は乙女じゃねえなあ。


「あんたに合わせてあげてんの」


 へいへい。

 ご親切にどうも。


 それでどうだい? 

 11月にも入って、俺、そろそろ男に戻れそうかな。 


「うん、大丈夫。もう準備万端整ったって」 


 おおっ、そうなんだ。

 じゃあ、早速明日から?


「う、うん。それなんだけど……」


 ああっ、まだ何かやんの?


「いえ、それはないんだけど。

 ただちょっと話しておきたいって、お母さんが」


 なつきが?


「ええ」


 何を?


「あんたさあ、その、宇宙ゴミって知ってる? 

 ん~と何て言ったっけ、ジ……ブリ?」


 デブリだよ。

 シャトルとか、人工衛星のゴミだっけ?

 衛星軌道上をゴミが高速で回ってるんだよな。

 危険だとか何とか。


「そうそう、それそれ。

 その宇宙ゴミってね、元から宇宙に存在してる物じゃないのよ。

 人間が宇宙に出なきゃ生まれなかったゴミな訳」


 まあ、そりゃそうだわな。


「それとおんなじ理屈が時間にも当てはまるのよ」


 んん?


「つまり、宇宙に人が行かなきゃゴミなんか出来ないって事でしょう?

 だから人が時間、つまり過去に行き来したりする事がなければ……」


 俺がゴミを出したって事か?

 いやいやいやいや、おかしいだろう。

 歴史改変しない様、あの方だって手を貸してたんだろ。

 今回だって俺は必死んなって気を付けたし!


「じゃあね、あんたを5分前に戻すとする。

 んで、まったく同じ行動を取って今に帰って来れる?」


 そんなの、5分位出来る……ん?

 いいや、それは……出来…………ない。

 歴史は変えないだろうけれども、全く同じってのは無理だ。

 

 そうか、呼吸するタイミング、右手足数ミリの位置、心臓の拍数、まばたきの量その他その他。

 厳密には変わっているんだ。


「そう。

 それらほんの僅かな差異が重なり、歪みになって、事象として現れるの」


 事象?


「あんた心当たりない?

 普通じゃない、歪んだ、狂った様な出来事」


 そりゃあるさ! 刺されたよ! 腹!

 四谷先生を狙ったイカレ女だ。

 それにあの痴漢スクーター野郎も。

 確かに精神状態の異常な、歪んだ思考の奴らだった。


「心の不安定な人や、元々そういったのある人は歪み易いのかも。

 あんたの行動が大きければ大きいほど歪みも大きくなるのかもね」


 そうかもな。

 アイドルコンテスト出場なんて、思えばよく地球割れなかったよな。

 まあ、反動で俺の腹が割られちゃうんだけど。


「お母さんのお蔭でギリギリ歴史改変しなかったんでしょうね」


 宇宙ゴミ(スペースデブリ)ならぬ時空ゴミ(タイムデブリ)、か。 


「今迄にこんな事した神様はいなかったらしいの」


 俺を過去に戻した事か?


「ええ。

 それ程珍しいんだって、他世界に同じ行動を取った異性の自分がいる事」 


 シンクロニシティ……かな。

 偶然に同じ行動を取っていた、別世界の女の俺。


「だから、そのタイムデブリ? 

 そんな現象をお母さんも予測出来なかったんだって」


 ああそうだったな、神様は万能じゃなかったもんな。

 んで、なつきの言いたい事ってのは、そんな言い訳みたいなもんじゃないんだろ?


「ん? あ、まあね」


 それで俺は何をすりゃいいんだ?

 お前の顔に書いてあるぞ。


「プフッ、そう?」


 結局何かやんなきゃいけね~んだろう?

 まあ、今すぐじゃあないってとこか。

 さしずめデブリが溜まって歪みが出たら対処して、かな。

 いや、出る前だといいんだろうが。


「もう、分かってんじゃない」


 仕方ねえなあ。

 俺も元の時代に帰れないからな。

 何かミッションがあった方がいる意味があっていいさ。


「それなんだけど」


 ん?


「お母さんの話がまだあって」


 な、何かな?

 悪い事なのかな。


「あのね、分かりにくいと思うけど」


 うん。


「あんたはね、思い出なんだって」


 なぬ?

 

「あんたのメインの意識はお母さんの命日に戻ってんの」


 ハア? メイン?

 じゃあ予測通りに帰れてんのか、ほんとは!


「メインの意識が思い出す記憶が、あんたの行動なんだって」


 おいおいおいおい、じゃあ俺ってコピーみたいなもんか?

 俺が今から行動すんのが記憶?

 どういう事?


「コピーとは違うと思うけど……

 たぶん、あんたは普通に人生歩んでもらって、あるところで意識が合流する感じ?」


 う、う~ん。

 じゃあ30年位経って、俺が思い出す素振りを見せたら……

 あ、思い出した!

 って俺が記憶になんの?


「たぶんね。

 じゃないと、魂上書きされたのに、オレンジの日から先が30年抜けちゃうでしょ」


 そりゃそうなんだろうけど。

 俺の存在が無くなる訳じゃなくって、そうか、合流ね。


「それでその間、タイムデブリを注意してて欲しいのよ。

 怪しい人物や物事を見つけたら、歴史改変しないように処理してほしいの」

  

 うう、30年かあ。

 長げえなあ。


「頑張ってね」


 ほんと他人事ひとごとだよな。実際に働くのは俺だけだから仕方ないけどさ。

 だがまあ長丁場、これからもよろしく頼むな。


「それがそのう……」


 え?


「ごめんね、ともか。

 私も帰っちゃうの」


 えええええー! そんなあああああ!



久々の葉月さんとのお喋り回でした。

今回そう目立たなかったヒロインさん。

僕は2人のお喋りが結構好きなんですよねえ。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

次で番外編1話、最終回です。

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