3. 焦燥
1年以上空けての番外編ですが、多くの方に覗いていただいて感謝しかございません。
今読んでいる、あなた。
本っっ当に、ありがとうございます。
今回も短いですが、ゆっくりしてって下さいね~。
なつきは泣き崩れ、俺の側に蹲っている。
夕陽は世界を染め上げて、俺達ふたりは未だ想い出深きオレンジ色の中にいた。
いや違うな、それは俺だけの話だ。
彼女にとっては傷として、たった今人生に刻み込まれた事だろう。
俺は酷い男だと思う。
いい大人が、初恋を永遠の別れに変えた少女に対して、ズケズケと土足で心に上がり込んだのだ。
そっとして欲しかっただろうに。
出来れば、愛した人と同じような顔には、さっさと退場願いたかったと思う。
そんなこた十分承知の上だ。
俺だって似たような心境だ。
だがそれは許されない。
俺の胸が早鐘を鳴らして報せてくるからだ。
何を警戒しているのか解らない。
だがこうなる原因は分かる。
自身の経験ではないが知識で勘づく。
(大丈夫だ、葉月。何とかする)
試しに強く、自分の内に向かって語りかけた。
相変わらずの焦燥感に、一瞬安堵の感情が混じる。
やはり。
今、俺の魂に葉月が寄り添っているのだ。
前に葉月が言っていた。
なつきの魂に寄り添って強く思うと、なつき自身もその感情を抱くのだと。
俺はそれに対して、守護霊みたいだと揶揄した憶えがある。
が、なるほどこれは守護霊というよりは地縛霊みたいだな。
霊感の全くない俺だが、古びた神社や心霊スポット等へ行くと、
「これはイカン奴だ」
と稀に思う時がある。
そんな意味不明な、出所のない感情を何倍にもした感覚だ。
葉月がかなり焦っている。
それがビンビン伝わってくる。
こりゃ相当だ。
「あの方」も一緒なのかもしれん。
あいつ等、おそらくは親子なんだろう……
電話の事。葉月が娘だと発想すらしなかった事。
葉月の入院生活、そして手術。
俺が歴史を変えない為の準備の事も考えれば、何となく答えは見えてくる。
その神様がついてて、何でそんなに焦っている?
さすがにそれは分からんが、尋常じゃないって事は想像がつく。
だから今は、なつきを思いやれる余裕はそれほどない。
「おーい、なつきちゃん……ともかさん……」
俺の背後。
なつきの家の脇から、遠慮気味な声が届く。
何とも懐かしい声音。
かつては毎日聞いていた、今では少しオッサン臭くなった声。
振り返らずとも分かる。
後のとん吉、渡邉コジローの声だった。
「……なつきちゃん。
じゃあ、やっぱりヤエなんだな」
そうか。
俺が気掛かりになって、平川達と途中で別れて引き返してきたな。
それで今のなつきを見れば、俺が未来に戻ったと思っても仕方がない。
「いや、違うんだよ、とんき……」
俺は簡単に説明しようと、とん吉の方へ歩もうとした。が……
(ダメ! 振り向いちゃダメッ!!)
瞬間、声と化してない意思の叫びが魂に響いた。
「え!?
ともかさん?」
ヤバイ!
これはかなりヤバイぞ!
俺の本能も魂に同調する。
「と、ともかさん……おんな……」
とん吉が呟いた瞬間だった。
裏山の抉れた斜面が
ドザザアッ!
と崩れた。直後ーー
足下が消えた気がした。
グワラグァラグワラグァラグワラグァラ…………
立ってられない!
震度いくつか分からない揺れが3人を襲った。
これか!
これが葉月たちのっ!?
ゴガアーーンッ!
一際大きな音がすぐ側で聞こえた。
家が……なつきの家が倒壊した。
「いやああああーーーーっ!
おばあちゃーーーーんっ!」
なつきと俺の曾祖母が廃材と一緒の塊となった。
このままでは日本が、いや、地球が滅ぶ。
かつて造物主を目にした俺には、それが容易く起こりうる事だと分かっていた。
本編では現代に戻って分からなかったのですが、とん吉は江藤家に向かってたんですね。
勿論、ヤスコも同じ行動を取ってるはずですよ。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




