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20/63

ー3ー 夏休み1週間前の友

ー3ー


 俺、八重洲ともかの朝は早い。


 AM5時には起きてランニング。

 最近はついでに新聞配達のバイトも兼ねる。

 同じ走るならと、家でずっと取ってる地方紙のおっちゃんに頼んで、

近場だけ回らせてもらっているのだ。

 俺はもう20年、トラックでコンビニに弁当を配達するバイトを続けている。

 毎日4時半起きだったので、5時前には勝手に目が覚める。

 体は子供なのか、夜は9時にもならずに寝てしまうが、

休息の取れた朝は精神のほうが勝るらしい。


 ランニングから帰ると、体が温かい内に柔軟。

 その後腹筋、側筋、背筋を100づつ。

 腕立て伏せ100とスクワット100は1日置きに交互で。

 どれも大変そうだが、そうでもない。

 全部浅く、早くやる。

 腹筋は背中をちょっと浮かすだけ。

 腕立て伏せは膝を着けてもいい。

 役者の筋肉は見せる筋肉ではないので、それほど効いてなくてもいいのだ。

 遅筋より速筋を鍛える。

 あとは、インナーマッスル、体幹を鍛える。

 内腿はかなり重要。

 これらを終えて、30分以内に朝食を摂る。

 プロテインなんか、そこいらには置いてない時代。

 母ちゃんに頼んで、毎朝ゆで卵を食べるようにしているが、

食べ過ぎると、おならが超臭くなるので1個だけにしてる。

 それだけやってから、なつきが来るまでゴロリ。


 今俺は役者でもないのに、なぜ鍛えているのか。

 それはこの世界に来た初日、長坂下の力に何の抵抗も出来なかったからだ。

 スクーター野郎の時もだが、掴まれたら最期というのは、かなり怖い。

 せめて手を振りほどく程度のパワーは欲しいのだ。


 小6初日の翌朝から、ほぼ毎日やっている日課だ。

 この3ヶ月で結構筋肉がついた。

 さらに嬉しい副産物も……

 スタイルが良くなりました。

 今日から体育で水泳が始まるらしい。

 あらいやだわ、みんなを悩殺しちゃうかも。

 おほほほほ……



 ーーーーーーーーーーーーーー


 

 4時間目は体育。

 水泳なので、水着の入ったバッグを持って、みんなでプール脇の更衣室へ。

 ワイワイキャッキャと着替え始める。

 見た感じ、修学旅行の時から成長した子はいないらしい。

 まあ、ふた月じゃあ、そう変化は無いだろうな。


「ヤ~エちゃん! 着替えた?」


 おお、とん吉ヤスコがいたな。

 あいつはスタイルだけなら、17、8才って言っても分かんないぞ。

 見ないと思ったら、真後ろだったか。


「ううん、今脱ぐとこ」

 振り返る。


「んな!?

 ヤスコちゃん、その胸……」

 デーンと効果音が着きそうな巨乳が、ブラからはみ出そうに収まっている。


「そうなの……大きくなっちゃって。

 ヤエちゃんもブラ着けてるから私もね」


 大きくなっちゃったのは一目で分かるけど、そんな急に……ハッ!


「何っ! ヤスコちゃん、その腹っ!」

「いやあっ! 見ないでえっ!」


 ヤスコは胸が成長したんじゃない……太ったのだ。

 必死に腹を引っ込ませても、そう隠せるもんじゃない。


 高校で痩せて、女にモテるようになってからずっと、

スタイルのいいとん吉しか見てなかったんで忘れてた。

 中学では俺とポッチャリ仲間。

 ほんとは太りやすい体質なんだった。

 だからって、ここ2、3週間でそんな太るかね……


「何やってんだヤスコ!

 せっかくスタイル維持、出来てたじゃねえか!」


「分かってるわよっっ!」


「もったいねえなあ」


 カチン。そんなヤスコの顔。


「何よ、その言い方!

 誰のせいだと思ってんのよ!」

 

 久しぶりに、とん吉がキレたな。


「俺のせいかよ!」

「そうよっ!」


 言った途端、ヤスコの目から大粒の涙が、ポロポロとこぼれ出した。


「だって、最近、ヤエちゃん、冷たいんだもん……

 全然、かまってくれないんだもん。

 ムシャクシャしていっぱい食べちゃうんだもん。うっうっ……」


 ストレスで過食しちゃったんだな。

 こないだ説明したくらいじゃ、すぐには納得できないだろう。

 葉月との約束を破る事になるけど、仕方ないよな。


 俺はヤスコをぎゅーっと抱きしめた。


「ごめんな……冷たくしたんじゃないんだよ。

 俺はヤスコが大好きなんだよ。

 でも最近キスしたりとか、ちょっと度が過ぎて来たから、

お互いに良くないと思ってくっつくのを止めたんだ。

 前にも言ったろう?」


「……うん」


「俺はね、ヤスコとこの先20年、30年、いや、死ぬまでずっと、

親友でいたいと思ってるんだ。

 よぼよぼの婆さんになって、2人でお茶飲みながら、

あの時ヤスコは滝に落ちたねって昔話して笑ってさ」


「うん……」


「恋愛とかは多分、燃え上がったらさ、後は冷めちゃうもんだと思う。

 でも本当の友情は永遠に続くと思うんだ。

 ヤスコとは恋人よりも、旦那さんよりも、もっともっと強い、

友情の絆で一生繋がっていたい」


「うん……」


「一生仲良くしてくれないか」


「する……一生ね……ずっとだよ」


 何か周りの子達までしんみりしてる。

 よし、気持ちを入れ替えて。


「さあ、水着に着替えて、水泳エクササイズだ!

 ビシバシ鍛えてやる」


「ヤエちゃん、人の事言えるの、このおなか」

 ヤスコが俺の腹をポンと叩いた。


「んん!? 固い」


「わ、わりい」

 俺は上着を脱いだ。

 前よりちょっと胸が小さくなったが、全体的に引き締まっている。

 腹筋はうっすら割れているくらい。


「「「おおーーーーっ」」」


「裏切り者お~~~」


「まあ、まあ、俺が責任もって痩せさせてあげるから。

 とりあえず明日の朝5時に迎え行くからね」


「5時いーーーっ!?」


「美の道は険しいのだ」


「は、はい……」


「うまく痩せたら、夏休み、海キャンプ行くよっ!」


「海キャンプ!

 行きたーーーーいっ!」


「じゃあ頑張ろうね」

「はいいっっ!」



ー 3 おわりー

ありがとうございました。

ー4ーもよろしくお願いします。

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