表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/63

ー2ー あの時こういう選択したら失敗(?)した

ー2ー


 燐光寺(やすみ)の家は寺である。

 本来は違う苗字らしいのだが、何代か前の人が役場の届けをまちがえて、

寺の名前を苗字に登録してしまったらしい。

 気付いた時に変えればいいのに、

「どうせうち、燐光寺じゃんって、そのままにしたんだって」

 と彼女は笑いながら教えてくれた。


 小学校低学年の時、俺をいじめたリーダーは長坂下だった。

 だが奴は、別に仲間を率いて攻撃しようとしたのではなく……

 俺の事が目障り、気に食わない、いけ好かない、だからグーパンチ。

 てな訳で、実際グループ化して仕切っていたのは燐光寺だった。


 俺は、とにかく彼女が苦手で、平川たちとつるむ様になった後は、

なるべく近づかないように避けていた。

 それが高校が同じで、最初のクラスも同じになったその時、


「八重洲、せっかく一緒になったんだ、避けんなよ」


 とズバリ言われ、気まずさと、新天地での心細さもあって仲直りした。

 それからは今までが嘘の様に、どんどん距離が縮まっていく事に。


「お前さ、考えすぎて動かないのはさ、出来てない事と同じだかんな!」


 やすみの誘いで入った演劇部で、よくあいつに怒られた。


「どけよ、どんくせーな!」 すぐ蹴飛ばす。

「全く、何やってんだよ!」 小突かれる。

「おい、どこ見てんだっ!」 殴られる。


「やすみの横顔だよ!」


「ば、ばか……じろじろ見るなよなぁ」  


 思い出すと、ホントに俺はツンデレに弱いのかもしれん。



 なつきは初恋だ。

 あのオレンジの日の思い出だけを大切に、一生一人で生きて行きます……

 なんて事はある訳もなく、普通に二度目の恋をした。

 そういうときはオレンジの夢は全く見ないし、思い出す事もない。

 役者人生に熱中してた時もそう。


 大抵、一つの恋が終わって、虚しくなった時に思い出す。

 役者の先が知れて、挫折した時もそうだ。

 ああ、あの時うまくいってたら、違った幸せな未来があったのでは。

 そんな身勝手な、ご都合な妄想で、また、オレンジの夢を見始める。


 まあ、所詮人間なんてそんなもんでしょ。

 忘れなきゃ、人生やってられないし。

 でも、忘れられない想いってやつもやっぱりあるし。

 みんな自分で、上手いこと折り合いをつけて生きて行くしかないもんね。



 燐光寺休はツンデレだった。

 ツンデレは最初の方は確かに最高だ。

 だが、付き合いが長くなるのに比例して、デレの度合いが減ってくる。

 本当のマニアなら、ツンの期間の長さが逆にデレの破壊力を強化して、

その分、快感度が増すのかもしらんが、俺はだんだん辛くなっていった。

 あいつも俺の行動のひとつひとつが気に入らなくなり、自然と心は離れていった。


 なぜ、そんな思い出話を今?

 それは、あいつの性格の事だ。


 小4になって、平川が守るような形で、俺はやすみから距離を取った。

 その時になって、あいつは俺への気持ちに気付いたとの事だ。

 それから高校で付き合う様になるまで、離れてずっと見ていたらしい。

 もちろん、高校が一緒なのも偶然じゃない。

 当時、そんな言葉、存在してなかったから気付かなかったけれど……

 これってやっぱりストーカーだよね。


 多分やすみはストーカー体質だ。


 一見さばけた様に感じるが、結構ねちっこい性格だった。

 帽子の一件をとってみても分かる。

 男の子のイタズラというより、ダンスシューズに画ビョウって感じ。

 そのくせ、俺の事を引き合いに出してサラリと謝ってしまう。

 なつきへの加害者から一転して、友情恋愛ドラマの主役格になってしまった。


 ここ数日、他クラスの女子が遠巻きにヒソヒソやってるのは知っていた。

 その内容はこれだったのか。

 前のスクーター野郎諸々の事だろうか、女子がそんなに興味あるのか?

 などと不思議に思っていたのだが、なるほど、合点がいった。


 とにかく、燐光寺休、彼は要注意人物だ。

 そんな言い方すんの、複雑な心境なんだけどね……



 ーーーーーーーーーーーー



「2組のみなさん、先日は言い過ぎました。申し訳ありません」 


 4時間目の授業直後を見計らって、俺は2組の教壇横でみんなに頭を下げた。

 ひとみちゃんと田辺先生には、朝一でお願いしておいた。

 2人とも快諾してくれた。


「みんな、時々遊びに来ますので、よろしくです」


 葉月との約束通りに、2組に堂々と行ける準備をした。

 ひとまずこれでよし、3組に戻ろう。


「ねえ、八重洲さん」


 女子が2人、にまにまと笑顔でよって来た。


「うちのクラスに来るって、誰かに会いたいって事?」

「それって、やっぱり、なつきくん?」


「え!? いや、まあ、そう、だけど……」

 あー、捕まっちゃった。


「や~ん、やっぱりそうなんだ~」

「リンくん可哀そ」

「そっか~、しゃ~ないなあ」


 いつの間にか女子に囲まれてる。


「ねえ、八重洲さんはどう思ってるの?」


「え? なにが?」


「もぉう、燐光寺の告白よう」


 まあ、そうだろうな。

 上手く切り返して、この変な話題をこの場で根絶したいのだが。



「みんな、やめてくれよ」



 くそっ、張本人が出てきた。


「そういう事は自分で直接言いたいんだよ……」


 んん?


「八重洲さん、俺の発言のせいで騒ぎになってるみたいだ。ごめん……」


 なんだこいつ、キモいな。

 まるで、舞台の台詞まわしを上辺だけ真似た様な胡散臭さ。


「でも、なつき君へ正直な気持ちで謝りたくって……」


 すごい違和感。


「だってそうだろう、生半可な理由でごまかそうったって、

 あの、なつきくんへの仕打ちは説明出来ない」


「おい、何だよ、お前そんなキャラじゃないだろ!」


「キャ、キャラって……

 俺は君となつき君に悪い事をしたと思って」


「だから、その言い方やめろって、気持ち悪い」


「「何それ、ちょっと非道いんじゃない」」


「いや、いいんだ。悪いのは俺だから。俺には責められる理由がある」


 自分のセリフに酔うんじゃねーよって、てめえが言ってたくせに……


「てめえ、折角下げた頭、無駄にさせんなよな」


「ごめん。怒らせた?

 そんなつもりはないんだ。俺は」


「もういいよ!」


 俺の思い出のやすみを汚さないでくれ。


「俺は君が本当に好きなんだ!」


「「「きゃーっ! 言っちゃった!」」」


「愛してる! 君の為なら身も心も全て捧げます!」


「やすみ! てめえっ!」

 限界だ!


「何が身も心もだ、ふざけんな!

 1年付き合ってキスしかさせなかったくせに!

 威勢がいいだけのヘタレお嬢様がっ!

 どんだけ身持ちいいんだっつーの!」 


 ハッ! しまった!


「「「えーーーーー!」」」


「あんた達付き合ってたの?」「別れたの?」「何で?」「キスしたんだ!」

「ヨリ戻したいの?」「別れた原因は?」「さっきのヤスミって言い方慣れてたねえ」


 ダメだ……

 こりゃどうやっても収拾つかん……


「お、俺は、そんな事、してない……」


 そりゃそうだわな、悪りぃ。


「俺は、付き合いたい、だけなのに、そんな事に」


「うわっ、最低」

「あんたが甲斐性無かったんでしょ!」

「付き纏うのやめなさい!」

「そうそう、男らしく」

「八重洲さん、大丈夫よ!」

「なつき君と今度は」


「「「「ファイト~!」」」

                      

 何か、凄く、変な方向に落ち着いたが、結果オーライか?


「あ、あの……その、みんな、ありがとね」


「んで、なつき君とどこまで進んでんの?」


「なつきとは付き合うとか、まだ全然だから、そっと見守っててほしいな」


「そっか、うん! 頑張ってね!」

「応援してる」

「いつでも遊びに来てよね」


 な、何とか騒ぎも収まりそう……

 つ、疲れたーー



 ーーーーーーーーーーーー



「なつきちゃん、燐光寺君の事だけど」


 帰り道、学校から離れて2人だけになってから話しかける。


「どうせ、ほんとは付き合ってなんか無かった、でしょ」


 なつきはこちらにニコッと笑顔を見せる。 


「え? 何で分かったの?」


「そんな事あったら、すぐに気付いてたよ」


「そりゃそっか」


 そうだった。

 お前は結構鋭いんだった。


「燐光寺君を牽制してくれたんでしょ」


 言いながら、俺の顔を少し上目遣いに覗き込む。

 ほんとに鋭いな。

 

「ああ、思ったのと全然違ったんだけど」


「でも、本当にありがとう。

 いつも助けてもらってばっかりで」


 そうか、気にしてたのか。

 俺がなつきの為にと思えば思うほど、勘のいいこの子は気遣ってしまう。

 子供はそんな事気にしなくたっていいのに。

 

「バカだなあ、助かってるのはこっちの方だ」


「え?」


「こうやって、穏やかな気持ちで、お前と一緒に歩いてる。

 こんな幸せな時間を貰ってるんだからな、ありがとう」


 そう。

 何気ない日常の有り難さ。

 こういう時間の価値が分かるのも、大人になった特権なのかもな。


「そうだね。お父さん!」


 なぬ!?


「うっ、くそ~」


 つい、オッサンが出ちまうな。


「あははは」


 そうだな。

 とりあえず、このなつきの笑顔を手に入れた事、それだけでも大成果だな。

 この先どうなるのか不安は沢山あるが、今はこの小さな幸せに浸っておこうかな。


 あ、そうだ。

 

「もう連休だね。どっか遊びに行こうか」



ー第七話 2 おわりー 





 



 

 

 

 



ありがとうございました。

ー3ーもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ