プロローグ & 第一話 深酒した朝は、あまりいい事起きたためし無し。
初投稿です。
お手柔らかにお願いします。
挿絵つきました。テイク・イトイジさんです。
両者共々よろしくお願いします。
ープロローグー
そこは全てが、オレンジ色の世界。
秋の夕陽が染める濃淡のみで表現された、モノクロの世界。
その中に、君はひとり立っている。
あの日の微笑み、そのままに。
何十、何百回と、この光景を見たのだろう。
想いを君に伝えたい。
あの時言えなかった一言を。
だけど、今夜もそれは出来ないだろう……
言ってしまえば、もう君に会えなくなってしまう、そんな気がするから。
夢の中だけでも、また君に会いたいから……
だから俺は立ち止まっている。
このオレンジの世界の中で。
だから俺はずっと……
君に恋し続けている。
ー1ー
春にしては暑すぎる土曜日の夜。
明日は仕事が休みなので、日が高くなるまで寝てやろうと、
しまっておいた芋焼酎のいい奴を押入から引っ張り出した。
仕事帰りに買った、スーパーの半額やきとり3本だけをつまみにしたせいか……
それとも、氷も無いのでラッパ飲みしたせいなのか……
720ml瓶を半分空けた辺りで意識を失ってしまった。
随分弱くなったものだ。
歪んだ世界で、どっちが上やら下やら分からなくなる。
酔いにまかせて目を閉じると、光に包まれるように意識が薄れていく。
やがて世界は真っ白になり、かつ真っ暗にも感じてくる。
光とも闇とも言える中で、身体は溶けたように漂っていく。
すごく気持ちがいい。
(たしか、やけ酒飲んでた筈だよなあ……)
飲む切っ掛けすら忘れる。
意味の無い幸福感に包まれていると、ふいに喉の渇きと蒸し暑さを感じた。
同時に意識が覚めかけて、寝ている敷布団の感触も甦る。
水を飲みたいが、起きるのが面倒臭い。
う~ん、もうちょっと寝ていたい……
「とも、ともちゃん……」
薄闇の中で、誰かが俺を呼んでいるようだ。
「ともちゃん、起きなさい!」
それは実家の母の声だった。
20才に福岡の片田舎から、声優を志して上京。
この川崎のボロアパートに住んで、はや20年。
独身。彼女もなし。
芸名は使わず本名の「八重洲ともか」で活動……して、いる?
籍だけ残っている劇団は肩書きにはならず、世間一般的には只のフリーターって扱いだ。
よって今、実家にいるはずの母がモーニングコールって事は、全くもってあり得ない。
これはまだ夢だ。
夢の中で夢だとわかる、明晰夢ってやつだ。
俺はよく小6の頃の夢を見る。
20代はたまにだったが、30過ぎた頃から回数が増え、ここ数ヶ月ではかなりな頻度だ。
んなもんで最近は、実家=あ、小6の夢みてる……
てな感じで夢だと気付いている。
「ともさん! 起きなさい!」
(でも今日はオレンジの夢じゃないな?
ま、どうせ小6時代の夢だろうけど……)
「とも、いい加減にしなさい!
なつきちゃん、向かえ来たわよ!」
母ちゃんの声が怒気を帯びて来た。
おっとりタイプで、近所でものんびり屋さんで通っているが、
子供の躾には厳しい方で、口ですむうちに行動しないと実力行使が待っている。
昔はよく竹尺や布団叩きで、ふとももをバチーンとやられたもんだ。
なつきーー向かえに来た、江藤なつきは、いわゆる幼なじみ。
お約束みたいだが、校内一の美少女(俺基準)で、気弱な引っ込み思案タイプ。
背は低く、スレンダー(特に胸)な体型だが、運動神経はすごくいい。
可愛さでは高校の時、他校の俺の耳にまで名が届いていたので、ルックスはかなりなもんだ。
そんな子が小学生の時、ほぼ毎日向かえに来てくれていたなんて……
当時の俺は、ラノベ主人公みたいなシチュエーションだ。
が、あの頃ラノベなんて単語は世の中に存在してないから分からんし、
自分の環境が当たり前だとも思っていた。
う~ん、もったいない。
そうだな、こんなシチュエーションの明晰夢は初めてだ。
とりあえず急いで用意して、なつきとの懐かしの登校を楽しもう。
母ちゃんが怒ってやって来る前にと、部屋を跳び出しダッシュで居間に向かった。
ん、今日の夢は、何だかおかしい。
いや、おかしくない、のが、おかしい。
このクリアーな感じ。
夢の中の、ふわふわした様な不安定さが、まるで無い。
そう、リアルすぎるのだ……
部屋を左に出て、廊下を5mほどで居間。
居間に入るドアの手前、廊下は右に折れて3mほどに玄関がある。
俺は違和感を感じつつ、居間に向かって廊下を駆けた。
「うわっ! と、ともちゃん!」
玄関に立っているなつきがビックリして、可愛い、くりっとした目をさらに大きくしている。
なつきと目が合った。
いや、よく見ると合ってない。
目線がちょっと下。
(ハッ! そうだ、俺、パンイチだった……)
昨晩、酒で意識が朦朧としていた時、暑くて服を脱ぎ捨てたんだった。
ひょ、ひょっとして、ぱ、ぱ、パンツも……
いや、トランクスを履いてる感触はある。
ちょっと安心しつつも、美少女の前にパンツ一丁はさすがに……と、俺は視線を自分の体の方に移す。
あれ?
何コレ?
俺の体に見馴れぬ物が……
俺は小6の頃、ぽっちゃり体型だった。
デップリではない。あくまで、ポッチャリ。
だが要らないお肉で、こんな形のいい双丘が出来る筈はない。
色白の俺の体が、朝日を反射して……
小6にしては大きな、けっこう大きな胸を特に反射させて、キラキラ輝いている。
「ギャーッ! 何でやー!」
俺は豊かな乳房を乙女のように両手で隠し、おやじのような叫びで居間の扉に飛び込んだ。
でも発した、その澄んだ叫び声でもわかる。
俺、女になってる。
ー2ー
「な、何て格好してんの!」
上半身裸で居間に入りかけてた俺に、一瞬母は間を空け、それから叱りつけた。
開いた口がふさがらないとは、こういう顔か……
勉強になる。役者的に。
「珍しく、なつきちゃんが大きな声出してると思ったら……
あんた! 女の子でしょっ!」
母の説教を聞きながら、混乱しつつも回りを、情報を整理する。
居間では父と弟が朝食を摂っている。
小3の弟、英次がゲラゲラ、こっち見て笑ってる。
また父ちゃんの車に乗っけてもらうのだろう、のんびりと食っている。
こいつは中学でヤンキーになり、21才で出来ちゃった婚する運命にある。
だが今のこいつは、何とも幼く、可愛い気があって……
ずっとこのままならいいのに。
父ちゃんは、エロい目でこっち見ながら、
「朝からサービスいいじゃねぇか」
などと言って来る。
こいつは、ちっとも変わらねぇ。
……でも、両親とも、若い。
俺より。
夢に出て来る親は、常に親だ。
昔の頃の夢だからといって、親を若く感じるのはどうにも気持ちの収まりが悪い。
違和感だ。
この細かな所までの設定のリアルさ。
まさかとは思うが、これは……現実?
小6に時間が巻き戻って、しかも女になって……
もしそうならやはり、ここんとこ頻繁に見るオレンジ色の夢のせい?
「とにかく、早く服着て、学校行きなさい」
母がテレビの上に積んである畳んだ服を指差して、クルッと背を向けキッチンに戻る。
かなりイラついているのが見てとれる。
俺は廊下から居間にちゃんと入って扉を閉める。
居間は6畳ほどあり、入ってすぐ右脇にテレビ、中央に座卓。
向かって正面奥に父ちゃん、座卓の右に英次があぐらをかいている。
母ちゃんのいる4畳のキッチンは入って左側。
居間との区切りはないが、奥に庭に出る勝手口がある。
父ちゃんの背にある、ほぼ壁全体となる大窓も、まあ勝手口みたいなもんだ。
俺はテレビの上の着替えに手を伸ばす。
着替えの一番上には、ブラが乗っていた。
参ったなあ、着けた事無ぇ。
何となくは分かるけど、ホックとかあんだよな?
う~~~、母ちゃんにとめてもらうか?
いや、イラつきゲージMAXだろうし、もめたらやだな……
あ、そうだ!
なつきに手伝ってもらおう。
あいつはまだ使ってないだろうけど、2人でなら何とかなるだろう。
俺は廊下の角から玄関に向かって、ヒョコッと顔を出した。
ちょっと照れ気味に、
「なつきちゃん! ブラ着けるの、手伝ってえ」
と声をかける。
「ええ~~~~~!
ぼ、僕、そんなの、わかんないよ~~~!?」
え? ボク?
「あんたっ、何やってんの!
いくら可愛くても、なつきちゃんは男の子なのよ!
そんなからかい方、絶対駄目でしょ!」
あ、ヤバい。
「この、バカちーーん!」
ゴスッ!!
うぐうぅぅぅっっ……
結局、ゲンコツを食らってしまった。
頭を抱えてうずくまる。
超痛いいいっ!
夢じゃない、確実に。
だが俺は頭の痛みより……
なつきが男だって事の方に一番ショックを受けたのだった。
ー第一話 おわりー
ありがとうございました。
次話も、よろしくお願いします。
イトイジさん、挿絵ありがとうございました。