第7.5話 世界の成り立ちについて~ダンジョンを攻略したらラノベが手に入る理由~
タイトルで予想付くと思いますが、説明回です。
ダンジョン攻略したらラノベが手に入る理由について長かったので独立させました。
特に気にならない方は飛ばして戴いて結構ですので、次話に行って大丈夫です。
そんな感じで宜しくお願い致します。
俺はふと浮かんできた疑問を丸テーブルの対面に座っているテレシアに問いかけてみる事にした。
「なあ、テレシア。ちょっと良いか?」
「良いですよ。そもそも私はノボル様の為の私なのですから。ノボル様が私にタイミングを尋ねる、なんて事をする必要はありませんよ」
「いや、さすがにそういう訳には……」
「あれですよ、あれ。例えば私がご飯を作っている最中、ノボル様がその……致したくなった時とかは、普通だったら『晩御飯の後で』って止めると思いますが、私の場合はいつ何時でも応えますよ。むしろ望むところですからね!」
「…………」
「いや、もしかしたら『ちょっと……今、晩御飯作っている最中でしょう?』とか言いながら実のところ満更でもない私のその困りながらも受け入れている感じを楽しみたいのかも知れないので、私はそういう風を装うべきなのかも知れませんけど。ノボル様はその……どっちの反応が好みですか?」
「どっちの反応でもねぇよ! 止めて! 変な気分になるかホント止めて!」
何その日常的に俺がテレシアの事を襲っている風に誤解されそうな言い草!
俺、まだ純正の童貞だからね!? しかもちょっと顔赤くして恥ずかしそうにしつつ、それでも言うの止めないとか何なの!?
……ホントこの生活、神経使うなあ。
俺は理性を保ちつつ、先の疑問に立ち返る。
「いや、何でダンジョン攻略したらライトノベルが手に入るのかってちょっと気になってな」
転生してから一ヶ月が経った今、俺にとっては『ライトノベルを手に入れる方法』さえ分かっていれば他の事は特に知らなくても良いと思っていたのだが、ふと疑問に思ったそれをテレシアにぶつけてみる。
今はテレシアの作ってくれた晩御飯を二人で食べている最中だ。
だからまあ、言うなれば世間話程度。それくらいなら聞いて損な事もないだろう。
「それを教えればノボル様のお役に立てるのですか!? なら私の全身全霊全てを賭してお教え致しますよ!」
そう言って張り切った様子で、説明し始めるテレシア。
いや……ホント世間話程度に教えてくれれば良かったのだが。
まあ張り切って貰う分には損は無いのかも知れない。
テレシアの張り切った様子の説明を、俺の知識も交えつつ要約するとこんな感じだった。
この『世界』で言うところの五十年も前の話だ。
この『世界』ではそれまで「本」と呼ばれる類のものはその存在自体が許されていなかったらしい。
「本」が存在を許されていない理由はただ一つ。
この世界は文字が魔力を持つ世界だったからだ。
文字が魔力を持つ――――魔力を持てばその魔力を源として、魔物が沸き立ち、魔力を持った文字の周囲一帯はたちまち危険地帯と化してしまうのである。
「文字が魔力を持つ? ……でも普通に街中で文字とか見かけるぞ?」
テレシアの説明に思わず異を挟む。
街中にはいわゆる商店街のような場所もあり、そこでは食材やら日用雑貨やらを買う事が出来る。
しかし、その店では看板やら立札やらに普通に文字が使われている。
それももしかして魔力を持っているのだろうか?
「いえ、どんな文字でも魔力を持つ訳ではなく、基本的にはよっぽどの『意思』を以て書かなければ魔力は持たないですよ。それに持っている『魔力』の低い者が書いた文字ではどれだけ意思を込めようが魔力は持ちませんし」
その説明に一応の納得を覚える俺。
つまり書いた文字全てが魔力を持ってしまう訳ではないらしい。
俺が納得したのを確認しつつ、テレシアは説明を再開した。
書いた文字全てが魔力を持つ訳ではない。
だが、「意思」が介在するしないに限らず、文字が魔力を持ってしまう場合もあるらしい。
それは意味を持った文字の集合体。すなわち「本」だった場合だ。
文字の集合体である「本」は数万文字、数十万文字規模ともなれば筆者の「意思」など関係なく魔力を持ってしまう。
力を持ち、魔力を発し始めた文字の集合体である「本」はそれ単体が強い魔力を生む。力場を形成した文字の集合体の元にはそれを求めるモンスター達が集い、更にはダンジョンを形成してしまう。
だからこそ、この世界ではそれまで「本」と呼ばれる類のモノはその存在が許されていなかった。
度々その知識を残す為に危険を知りながらも「本」を書いた者は居た。
しかし、その度に災いの温床となった「本」を作成する事はその世界最大の禁忌であるとされ、そして本を書いた者はその都度厳しく罰せられてきた。
だからこそ、五十年前の時点で「本」など何処にも存在していなかったのだ。
そんな世界に五十年前、一人のラノベ好きが現代の日本より(テレシアは『ニホン』という見知らぬ場所と言っていたが、当然の事ながら俺はそこが何処か知っていた)空間や時間を越えて転生を果たした。
そのラノベ好きはこの世界に来て、そして当然のように絶望した。
ラノベどころか「本」ですら存在しなかったのだから至極当然の事である。
――――しかし、そのラノベ好きの馬鹿はラノベを読む事を諦めなかった。
「この世界には本が無い!? 世界の禁忌!? そんな事は知った事か! 俺は俺の為にラノベを書く! 魔物が沸こうがダンジョンが沸こうが知った事か! 俺は俺の為にライトノベルを書いて死ぬ! それだけだ!」
……などと言ったかどうかは定かではないらしいが、そんな大馬鹿野郎により、この世界の禁忌は盛大に破られたのだ。
驚異的なペースでラノベを書いてはその結果としてダンジョンを次々と作り、その都度驚くべき逃げ足で逃亡。
役人に捕らえられるまでの間、その男は数にして百六十八冊のライトノベルを書いてしまった。
そして、百六十八ヶ所のダンジョンもまた形成してしまった。
その世界の常識で言えばこの男の罪は人を殺すより重いモノだった。死刑どころかその首を街中に晒されたとしても何らおかしくはなかった。
しかし、それまでに書かれた「本」とその男が書いたラノベで違うところがただ一つだけあった。
――――その男の書いたライトノベルが面白すぎたのだ。
そのラノベ好きの馬鹿野郎はただのラノベ好きではなく、書き手として天才的な技量を持っていたのだ。
しかもジャンルを問わずあらゆるライトノベルを男は執筆した。
ラブコメ、ハーレム、ファンタジー、現代モノ、ロボットモノ、ミステリー、SFなどなど……どのジャンルも平等に愛した彼は偏る事なく、全てのジャンルを執筆した。
そしてその全てのジャンルに置いて高いレベルで、最高に面白いライトノベルを執筆してしまったのだ。
元々本などに限らずあらゆる娯楽に飢えていた世界だ。その男の書くライトノベルはこの世界の住人にとってあらゆる意味で刺激的過ぎた。
そうして世紀の大馬鹿野郎として指名手配されながらも次々と新作を書き上げていった彼は犯罪者となりながらも、一方で『伝説の作家』として知られるところとなり、ファンを着実に増やしていった。
晩年では彼の逃亡に協力していたファンも多くいたらしく、それどころか役人の中にもファンが居て彼の逃亡を手助けしていたらしい。
そんな彼だったが、遂には捕まってしまい投獄される事となる。
その後、彼は『ラノベ万歳! 俺はラノベに生き、ラノベに死んだ!』などと抜かした挙句に牢屋の中で滑って転んで死んでしまったらしい。
その死は一部の好事家には大層悲しまれたそうだ。
こうして彼は伝説となりながらも、その死によって事態が収束するかに思われた。
――――だが、話はそこで終わらなかった。
その後、その男が作り出したライトノベルに影響された人々の中に『俺も書いてみたい! 捕まっても良い、知るもんか! 俺は人々に楽しんで欲しい!』という欲求を抑えきれなかった奴が何人も居て、それぞれがそれぞれに好き勝手ライトノベルを書き始めたのである。
そうやって作り出されたダンジョンを攻略してはライトノベルが手に入ると言うイタチごっこを繰り返す内に、その冊数は次第に増えていき、そしてライトノベルファンも同時に増えていく。
次第に『作家』は建前上指名手配こそされながらも、誰一人として積極的に捕まえなくなっていった。
代わりに作家の書きあげたライトノベルの形成するダンジョンを攻略する為、それ専用の職業が成り立ちつつあった。
『ライトノベルが大好きで、ライトノベルというお宝の為なら命を懸ける事すら惜しまずダンジョンへと挑み続ける大馬鹿野郎達』――――それこそがその世界で言うところの『冒険者』であった。
魔力の温床となるライトノベルも一度その魔力を出し切り、ダンジョンを「攻略」されれば魔力を持たない通常の本として取り扱う事が出来る。
そうして『作家』がライトノベルを描き、『冒険者』がダンジョンを攻略し、本を入手する――――この一連の流れこそがその世界に「ライトノベル」が存在し、そしてダンジョンを攻略すればライトノベルが手に入る理由である。
「――――と言う訳です」
「……すげぇ奴だな。すげぇ馬鹿野郎だ」
だが、それは俺にしてみれば愛すべき大馬鹿野郎である。
俺だってその状況に立たされれば間違いなく禁忌など関係なくライトノベルを書き始めていただろう。
そういう意味ではその男には共感すら覚える。
「その男の書いたラノベ、世界を変えるほどに面白かったんだろ? ……一度読んでみたいなぁ」
「その方の書いたラノベ、存在はしているそうですがプレミアが付いているお陰か最早国一つ変えそうなくらいの値段が付いているそうですよ」
「……マジか」
だが、俺はその話を聞いて益々その男の書いたラノベを読んでみたくなった。
なにせ世界を一変させてしまった程のラノベだ。
それがどんなものか、一度お目に掛かりたいものである。
この世界に置ける目的がまた一つ増えてしまったようである。
……だが、今はまず何でも良いからラノベの一冊を読まなくては。
俺は今後の決意をまた強く固めるのだった。




