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第5話 小休憩

 その後もモンスターに何度か襲われたが、その度に冷静に対処する事が出来た事から想定していたよりも早いペースで山を越える事が出来た。

 ただ、アリスの方を見遣ると既に肩で息をしていた。


 強力な魔法を何度も連発していた事に加えて、山を一つ越えたのだ。人の往来が激しい事からかなり整地されているとは言え、子供の体力ではやはり堪えるだろう。


「この辺で少し休憩しておくか」

 山を一つ越えた事だし、丁度良い。それに現在は草原地帯が広がってる。ここであれば見晴らしも良く、モンスターに強襲されたとしても襲われる前に十分な準備が出来る筈だ。


 俺の言葉にホッとしたように息を吐くアリス。

 しかし、俺の視線に気付いたのか、

「ふっ、我が漆黒の翼を暫し寝かせるとしよう」

 アリスは腕を振り上げて強がるような素振りを見せる。

 どうも意地っ張りな一面もあるらしい。


「休憩するのであれば私、料理作ってきたんですよ! 一つ如何ですか?」

 そう言ってテレシアが荷物から弁当箱を取り出した。


「丁度旬のポイズンリザードが出回っていたのでローストして野菜と一緒にパンに挟んで来ました。結構な自信作ですよ!」

「ポイズンリザードって……、名前から聞くにヤバそうなんだけど大丈夫なのか?」

「勿論です。私が丹精込めて毒抜きしましたから。既に私の愛情しか含まれてませんよ」

 その愛情とやらもそれはそれで怖いんだが。

 毛とか爪とか血とか入ってないだろうな。


 とは言え腹が減っていたのは確かなのでありがたくサンドイッチっぽいそれを口に含む。

 すると、

「うおっ、旨いなこれ」

 香ばしい肉の旨味と野菜のシャキシャキ感をパンで包み込んでいるその塩梅が絶妙で、疲れた体に染み渡るような美味しさが口一杯に広がっていく。


「お褒めに預かり光栄です。ノボル様にそう言って戴けるように特訓していましたから」

 そう言って胸を張るテレシア。大きな胸が強調されて浮かび上がる。

 着痩せするタイプと言っていたが、確かにこれは……。


「ノボル様、もしかして私の胸を見ていますか?」

「……いや、そんな事はないぞ」

「言って下されば揉んでも、それどころか吸っても構いませんよ。ノボル様次第では母乳も出せますし」

「お前は一体何を言っているんだ!?」


 反射的にそう返してしまう。

 お言葉に甘えれば良かったか。いや、それはさすがに……いやでも……。

 こういう時、自らの童貞力の高さが憎らしいところである。


「ほら、アリスちゃんも御一つ如何です?」

 そんな中、テレシアはアリスにそう促した。

 サンドイッチを物欲しそうに眺めていたアリスだったが、テレシアの言葉に肩をびくりと震わせると、またも俺の後ろに隠れてしまう。

 どうやら未だテレシアには人見知りしている段階であるらしい。


「ほら、食ってみろよ。旨いぞ」

 仕方なく俺はサンドイッチを掴んで、アリスへと渡す。

 アリスは警戒するような素振りを見せていたが、やがてサンドイッチを受け取るとその小さな口へと運んだ。

 もむもむ、と租借する中、次第に顔を綻ばせていった。

 どうやらお気に召したらしい。


「あ、アリスちゃん。やっと笑ってくれました!」

 彼女の表情を見てテレシアが嬉しそうに手を合わせた。

 その様子にアリスは少し恥ずかしそうに目線を外すが、すぐに腕を振り上げて、

「ふはははは!! 中々に良い贄よのう! 褒めて遣わすぞ、我らが同胞よ!」

「……えっと」

「旨いってさ」

 アリスの言っている意味がよく分からず首を捻るテレシアに俺は彼女の言っている事を説明してやる。

 俺のその翻訳を聞いたテレシアは嬉しそうに頷いた。


「本当ですか! アリスちゃん、もっと食べて良いんですよ?」

「ふむ。中々に有益なサーヴァントのようだ。良き贄であれば拒む理由はない。戴くとしよう」

 そう言ってサンドイッチを両手に持ちつつ次々と口に含むアリス。

 両のほっぺたが膨らんでいるその様子はまるでハムスターのようでもあった。

 二人のコミュニケーションが危ぶまれていたが、どうやら心配はないようである。


 安心した俺はアリスに倣ってまたもサンドイッチを食べようと手を伸ばすが、

「ノボル様。はい、あーん!」

 気づけば口元にサンドイッチが置かれた。

 テレシアの方を向くと、彼女が楽しそうににっこりと微笑んでいる。


「……いや、別にそこまでしなくとも」

「いいえ、そこまでしたいのです、ノボル様! 是非ともそうさせて下さい!」


 そう言って「さあ、さあ」とサンドイッチは口に近づいてくる。

 いやー……さすがに人に食べさせて貰うってのはちょっと恥ずかしいんだけど。

 そう考えて顔を背けようとするが背けた先、ほっぺにふわりとしたパンの感触が当たる。


「さ、サーヴァントを労うのも主たる我の務めよ。ほれ、贄を食すが良い」

 頬を赤くしたアリスがサンドイッチを持って気づけば俺に手を差し出している。

 なにこれ! どういう状況!?


「む、ノボル様! これはどちらのサンドイッチをお召し上がりになるのですか!?」

「ちょっ、お前、嫉妬とかしないんじゃなかったのか!?」

「そうではありません。勿論、私はノボル様がどんな女の子を好きになったところでその邪魔はしないと誓っております。しかし、どちらが正妻かはハッキリして戴かなくては私としても接し方に困ります! さあ、どちらをお取りになるのですか!?」

「勿論、我の贄であろうな?」


 そう言ってぐいぐいとサンドウィッチが俺に押し付けられる。

 アリスもアリスで一歩も引くつもりはないらしい。どうやら子供特有の真似事というか、対抗意識みたいなものを燃やしてしまっているのだろう。


「ちょ、ちょっと水を飲み過ぎたかな? 俺はその、用を足してくるからそのサンドウィッチは二人各々で食べといてくれ!」

 そう言って俺はその場を後にする。

「ああ、もういけずなんですから! でもそういう所も素敵です!」

 背中にはそんなテレシアの言葉が突き刺さっていた。

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