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第4話 アリスの実力

 目的である興奮草の採取だが、メルエスタより東に行った草原地帯にて群生しているらしい。草原地帯までは一日あれば行って帰って来るのに十分な距離だろう。

 ただ、草原地帯に着くまでに一つ山を越えなければならず、その山は多くのモンスターが生息している地域だ。距離や労力の関係から迂回は難しいらしいので、避ける事もままならない。



 という訳で、俺達は三人で山を越える為、その麓に居た。

 ここまでは大したモンスターに遭遇する事もなくやってきたが、この山ではモンスターを避けるという事は基本的に難しいだろう。


「ここから恐らくはモンスターに遭遇する事になると思う。そこで戦闘に際し皆の役割を再確認しておこう」

 街から出る前にも一度確認はしているのだが、おさらいという事だ。


「取り敢えず前衛がテレシアで、俺がテレシアのサポート。アリスは魔法での支援が主だった役割だ。そんな感じで良いか?」

「はい、私はノボル様に従います」

「邪神に誓い、盟約を守ろう」

 そんな感じに二人は俺の言葉に頷いて見せる。


 ちなみにこの世界にてギルドに登録している者を総称して冒険者と呼称しているのだが、冒険者として登録する際、その適性、才能に応じてクラスが与えられてる。クラスにより加護や覚える呪文、スキルなども異なるのでこの辺は結構重要であるそうだ。


 前衛であるテレシアのクラスはナイトである。まあ接近戦主体のパワークラスなので前衛という役割はぴったりだ。更に言えばテレシアはこのレベルにしてはナイトとして非常に優秀な方なので、重要な前衛を任せても問題ないと言えよう。


 次にアリスの職業はと言えばハイウィザードであるらしい。彼女の戦闘は未だ見た事がないので何とも言えないのだが、ハイウィザードは基本的には魔法に長けたクラスでその中でも上級職に数えられる。後衛に配置するのは当然だ。


 そして問題は俺のクラスだが実はと言うと未だに適性がいまいちよく分からない。

 何故かと言うと、俺のクラスが『ユニーククラス』と呼ばれる特殊クラスである『マジックソルジャー』だからだ。


 この『マジックソルジャー』、冒険者の中に今まで適性が居なかったらしく、俺がそれを引き当てた時は結構な話題となった。俺も俺で「あれ? もしかしてこれ所謂チート職業なんじゃね?」と高揚したものだった。


 しかし、蓋を開けてみればこの『マジックソルジャー』、どういう職業なのか正直よく分からないのである。

 何故なら今のところ、一つも魔法やらスキルやらを取得出来た事がないからだ。


 マジックというからには魔法の一つや二つ、覚えると思っていたのだが、今のところ何の魔法も使えない。それどころか筋力補正などもないので前衛を務めるにも役不足で、『ソルジャー』クラスよりも役に立たない存在と成り果てている。


 まあいずれは何か覚えるだろ、とそんな感じに思っているが、これで何にもなければ今後のライトノベル入手にも差し支える。

 とは言え、今は自分の出来る役割を全うするしかないだろう。


 ギルドにて聞いたところによると、この山に出てくるモンスターは俺達でもギリギリ対処出来るぐらいの脅威度であるらしいし、強力なモンスターに遭遇しないよう注意しながら進めばそう面倒な事にはならない筈だ。


「じゃあ出発だ。各自警戒を怠るなよ」


 俺はそう口にしつつ、ちらりとアリスに視線を向けた。

 彼女は一体どの程度の強さなのだろうか。額面上のレベルは俺達と大差無いようだが、しかしそれで戦闘面での働きはどうなるのか読む事は難しい。


 歩きながらテレシアに向けてそっと耳打ちする。

「テレシア、良いか?」

「内緒の相談ですか? 本日の夜の予定とかについてでしょうか?」

「本日の夜の予定は上手い飯食ってから疲れを癒す為にぐっすり就寝の予定だ。そうじゃなくて、アリスの事だ。お前は前衛だから気を配る必要はないが、一応アリスについてヤバそうだったら助けてやってくれ」


 基本的には中衛である俺がバランス良く動いてアリスをサポートするべきだが、しかしテレシアにも言っておくに越したことはないだろう。


「大丈夫です、お任せ下さい! 私、この身に変えてでも二人を無事に守ってみせます」

「その心意気は立派だが、一応お前の身も案じてやってくれ」

「なんとお優しい言葉……さすがはノボル様です!」

 身を案じてるのはそりゃあ仲間であるからで、その他にも彼女が傷つけば前衛を務められる奴が誰もいないからっていう実務の問題もあるのだが……これは言わない方が良いだろう。


「まあ、そんな感じだ。宜しく頼むぞ」




 結論から言って俺の心配はどうやら杞憂に終わったらしい。

 何故かと言えば、アリスの能力はそんじょそこらの魔法使い程度のものではなく、非常に優秀な魔法使いと言って良い実力だったからだ。


「無数の灯よ、我に仇なす愚者達に裁きの炎を――――『フレイムランス』!!」

 彼女が呪文を唱えた途端、空中に無数の轟々と燃え盛る炎の槍が浮かんだ。

 その一本一本が襲ってきたモンスターであるゴブリンを八つ裂きにする。


 この世界のモンスターとしても代表格とも言うべき存在であったゴブリンだが、その脅威度は結構高い。基本的には集団で襲ってくる上、武器も持っているので油断していると即囲まれて殺されてしまう危険性も高い。

 ただ、そんなゴブリンも燃え盛る槍にて為す術なくやられていく。


「おぉ……これが魔法か」

 この世界に来てから一ヶ月にもなるが、しかしナイトのテレシアとマジックソルジャーの俺とでずっとダンジョン探索をしていた所為か、まともに魔法を見た事が無かったのだ。

 その圧倒的な力と迫力はさすが魔法と呼ぶに相応しい威力である。



「……と、感心してばっかじゃなくて俺も仕事をしないとな」

 俺は十数匹と集団で襲ってきたゴブリンの内、テレシアが止めきれなかった者を斬り倒す。基本的にはテレシアがカバーしてしまっているので、彼女が漏らしたモンスターを俺が打ち倒し、それでアリスの呪文が準備出来次第、魔法にて大量に殲滅する。

 この方法でどうやら危なげなくモンスターからの驚異を凌げるようだった。


 しかし、魔法職が一人加わるだけでこうも楽にモンスターを殲滅出来るとは……。

 いや、魔法職というよりはアリスが非常に優秀であると言って良いだろう。


 そんなこんなで襲ってきたゴブリン達を殲滅する中、ようやく一息吐く。


「それにしてもアリス、お前ってばすげぇな。正直、まだ小っちゃいから戦力に数えて良いものかと思っていたけど、どうやらそんな心配はしないで良いみたいだ」

「我を下級な悪魔と一緒にするでない。我は深紅の魔術師にして高貴なる闇の眷属であるぞ。このような下賤なる使い魔、我の敵ではない」

「おう、よくやったぞ。助かった」

 俺は手を伸ばしてアリスの頭を撫でる。


 ……しまった。ついつい彼女を子供扱いしてしまった。

 そう思って彼女を見るが、どうも嬉しそうに頬を染めている。

 どうやら子供扱いされるのは好きでないが、甘やかされる分には構わないらしい。


「うむ、よきにはからえ!」

 そう言って満足そうに年齢相応に育った胸を張る。


「あ、ノボル様ノボル様! ずるいです、私も褒めて下さい! 私だってゴブリン一杯ぶっ殺したんですよ! それくらいの権利があって良い筈です!」

「ぶっ殺したとかそういうえぐい表現は使うなよ、お前……って! ゴブリンの返り血で汚れてるじゃねぇか! ちょっとタオル貸してやるからそれで拭け!」

「汚れてる? そんな事どうでも良いのです! それよりも大事なのは私がノボル様に頭を撫でて貰う事です。それ以外の一体何が大事だと言うのですか!」

「他にも色々大事にするもんがあるだろ! 清潔感とか乙女の身嗜みとか!」

「乙女の身嗜みなんてノボル様あってのものですよ! 私は気にしません!」

「俺が気にするわ! ちょっと、そこに川とか流れてるだろ。少し洗い流して来い」

「むぅ……ノボル様がそう言うなら仕方がありませんね。後で一杯なでなでして下さいね」

 そう言ってテレシアは俺が貸したタオルを持って川のほとりへと向かう。


 ようやく落ち着いた……そう思っていたが、暫く経ってから川の方から声が聞こえてくる。


「ノボル様ノボル様! 私、今裸なんですけど、覗きに来なくても良いんですか!? 私、これでも結構着痩せするタイプなんですけど!」

「少し汚れ落とすってだけで何で裸になってんだよ! 良いからさっさと汚れ落としてこい。置いてくぞ」

「あっ、ちょっと待って! 私、ノボル様に千回はなでなでして貰う予定なんですから!」

「そんなにやったら俺の手擦り切れるわ!」


 その後、驚く程早くに帰ってきたテレシアが満足するまで頭を撫でてやったが、それだけで結構な時間を費やした。その内、アリスも催促してきて、またもテレシアが――――ってそんな感じに終わらない無限なでなでを強いられた。

 無限ループって怖くね。という言葉を俺は思い出していた。

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