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第38話 惚れた理由

驚くくらい久々の更新です。もし宜しければ読んでやってください。

 行きで三日、帰りで三日の計六日。


 私がノボル様との時間を断ってまでやって来たレッドドラゴンの巣穴への遠征ですが、何の成果も得られなかった事に愕然としつつ、私達は帰路についていました。



 しかも、私達のような初級冒険者に潤沢な資金はありません。


 中級冒険者ぐらいであれば他に移動手段など確保するものなのでしょうが、私達は基本歩きです。

 それにアリスちゃんの体力に合わせないといけないですから往復で六日でも結構早いくらいなのです。



 それでも二日掛けてようやく帰路の七割ほど進めました。途中、立ち寄った街道沿いの村にて残りの帰路を歩くだけの英気を養いつつ、宿屋で休んでいました。



 お金が無いので三人とも同じ部屋です。ちなみにアリスちゃんは疲れからか夕食を戴いた後、すぐに寝てしまいました。



「テレシア君。一つ、聞いても良いかな?」

 夕食後、戴いたお茶を飲みつつコハクさんが口を開きます。



「何でしょうか?」

「いえね、少しだけ聞きたい事があって。その、今回の事なんだけど」


「今回の事? ああ、レッドドラゴンの事でしたら残念でしたね。……ご期待に沿えず申し訳ありません」

「いや、謝るのはこちらの方だよ。提案したのはボクだし、何よりもボクは失敗が多かった」


「それを言うならこちらも同じようなものです。それに何よりコハクさんには私の我儘に付き合って貰ったのですから文句を言う筋合いには無いですよ。それにアリスちゃんにも。お二人には感謝してもしたりません」


「ふふ……やはりテレシア君は人格者のようだ」

 コハクさんはそう言ってくすりと笑いました。


 私のようなものに無償で付き合ってくれているコハクさんも相当なものだと思いますが……。



「ただ、聞きたい事はそれではないんだ」

「? 一体何の事でしょうか?」

「今回の事。いや今回の事だけじゃない。即ちノボル君への君の恋心の話だ」

「…………はい」

 コハクさんはいつもとは少しばかり違う表情を見せる。


 飄々とした印象の強いコハクさんですが、大事な事や重要な事などはこうして真面目な顔付になります。根は真面目な方なんでしょう。



 そんなコハクさんはこう切り出しました。


「テレシア君はその……ノボル君の一体何処が好きなんだい?」

「何処、ですか……あれほどお優しく慈悲深い、素晴らしい人徳を持った方などそうは居ないと思いますが」

「いや、ノボル君はボクも気に入っている。だからこそ一緒に居るのだからね。悪く言うつもりなど更々ないさ。しかし」


 コハクさんは少しばかり間を開けつつ、そして言った。




「少し言い方を変えよう。では――――ノボル君をどうして好きになったんだい?」

「それは、その……昔……」

 言い淀みながら答えるが、しかしコハクさんは首を横に振った。



「分かっているんだろう、テレシア君。ノボル君はつい最近、この街に来たそうだよ。気になってこの前聞いてみたけれど、彼はそれ以前にこの街に来た事は無いそうだ」

「…………そんな筈は」

「それに君は今までにこの街を離れた事は無いんじゃないのかい? 何せ君は……」

 コハクさんの表情には確信めいたものがありました。


 どうやらこちらの『事情』についてもある程度知っている様子。……さすがはコハクさんです。



 それに隠し通せるようなものでもありませんでしたしね。



「ボクはきっと……いや、間違いなくその『矛盾』こそが問題なんだろうと思っている。そうでなければ彼は――――」

「…………」

「では改めて聞こう、テレシア君。君のその思い出の中のノボル君は本当に彼だったのかい?」

「……分かりません」


 力なく首を振る私に対してコハクさんは息を吐いた。



「いや、すまない。追い詰めるつもりなんてないんだ」

「分かっていますよ。それに相談事までしているんですから。コハクさんにはそれを聞く権利がありますよ。謝る必要はありません」

 しかし、と私は言った。


「あれは……昔見た彼はきっとノボル様でしたよ」

「……本当に?」

「ええ。これでも私は人を見る目がある方だと信じていますから」

 私のその言葉にコハクさんは肩を竦めつつ、そして言った。



「まあ……君がそこまで言うからにはそうなんだろう」

「ええ、そう思います」

「だがテレシア君。それでは質問の答えには足りないんじゃないかい?」

 一転面白そうな様子で尋ねるコハクさん。


 まったく……この人は。ですが、不思議と悪い気はしませんでした。

 その目を見て、私は言いました。




「ノボル様は私の恩人なんです。私のその、……家での事で凝り固まっていた自分を変えてくれた切っ掛けの人なんです。だから、その――――」

「ふふ、それくらいで十分だ、テレシア君」


 コハクさんはそう言って言葉を重ねた。





「それ以上は君のその想いの中に仕舞っていたまえ。ボクはその、君の恋で真っ赤に染まった素敵な表情を見れただけでも相談を受けた甲斐は十分にあったのだからね」

「…………言わないで下さい」

 私は熱が帯び、火照った表情を両手で隠した。



「それで……今回の事も、その……家の事が原因かい? だからボクに相談をした」

「……まあ、その、そうです、ね」

 引っかかりつつも答える。

 ……言い淀んだのはこれ以上、コハクさんに迷惑をお掛けする訳にはいかないからです。


 何故なら私の家は――――



「――――さて。シリアスな会話はここまでだ。今日はもう寝よう」

「コハクさん……」

「ただ、テレシア君。最後に一つだけ言わせてくれ」

 コハクさんは続けた。



「ボクもそしてアリス君も、当然ノボル君ももう君の仲間なんだ。大変な時はボクらを頼ってくれたまえ。それでこそ仲間なんだからね」

「……ええ。その時はその」

 私はそれ以上を口には出来なかった。


 それ以上を口にしてしまえば不義理な事は出来ないから。



 まだ……まだ、私は……。




 ……いえ、まだ可能性は残されています。ノボル様に私の気持ちが伝われば。





 メルエスタに着いた後、コハクさんとアリスちゃんとは別れ、私も宿屋へと急ぎます。


 七日ぶりのノボル様の姿が見れるとあって疲れた身体にも元気が湧いてきます。



 まだ問題は解決していませんが、ノボル様の姿を見てからまた考えるとしましょう。



 そうして足を急がせる途中、一人の知り合いと顔を合わせました。


 眼鏡を介して覗かせる目は何処か怒っているようにも見える気難しそうな方。




「君は、ノボル君のとこの確か……」

「テレシアです。お久しぶりです、ニーグさん」

 帰路の途中で会ったのはニーグさん。


 かつてノボル様と共に私達が依頼を受けた依頼人でした。


 冒険者は横の繋がりが大事です。知り合いであれば顔を合わせての挨拶は基本中の基本。

 しかし、この方はノボル様にとって何かと危害を与える存在のようですから一応の警戒が必要な人物でしょう。



 私は笑顔を見せつつ、適当に場を取り繕う。


「では、その……私は急ぎますのでこれで……」

「ちょっと待ちたまえ」

 その場をそそくさと去ろうとするものの、しかしニーグさんに呼び止められてしまいます。



「君、今日はノボル君と一緒ではないのかい?」

「いえ、その今日は……。私もこれから帰るところなので」

「成程、彼も四六時中、女の子と一緒に居る訳ではないのだね。安心したよ」

 彼は作り笑いと分かる笑みを浮かべて言う。


 ……どうやら私とノボル様が一緒に暮らしている、という事は言わない方が良いらしいですね。



「……ところで」

 ふとニーグさんは思い出したかのように言う。



「君は何処か浮かない表情をしているがどうかしたのかな?」

 眼鏡の奥の瞳がまっすぐこちらを見据えている。


 ……その値踏みされているような目に少しばかり動揺してしまいました。

 


「…………、そう見えますか?」

「何となくだけどね。君はノボル君と一緒に居る時、とても楽しそうに見えたから」

「…………」

 ここはどう答えれば良いんでしょうか。


 黙っていた方が正解なんでしょうか、それとも……。



 少し迷った末に私はこう答える。


「ええ、私はノボル様を愛していますから」

「ほう。リア充を憎む僕を前にそんな事を言うとは言い度胸だ」

「嘘を言っても仕方ないと思ったので。それに、私がノボル様をお守りすれば良いだけの事です」

「大した自信だ。その言葉に免じて今はまだノボル君を泳がせておくとしようか」

 それより、とニーグさんは声の調子を変える。



「前に私は惚れ薬を作っていた、それは知っているね」

「はい」

 以前、ニーグさんは惚れ薬を作る為に私達のその材料を獲ってくる依頼しています。


 それに……私も、その惚れ薬には少なからず興味がありましたし。




「以前は僕も色々あって惚れ薬など要らないという結論に達したのだけれど。この前、その惚れ薬を作ってみたんだ」

 その言葉に私は興味を示してしまう。その様子をニーグさんは目聡くとらえた。



「ほう、やはり興味があるようだね。そこで、どうかな? 一つ、使ってみたくはないかい?」

「……え?」

 思わぬ提案を前に私は疑問の声音を上げてしまいます。


 何故、そんな事を私に言うのだろう。単純にそれが疑問だったからです。




「何故そんな事を言うのか、と言いたげな顔だね」

「…………ええ」

「君が知っている通り僕はリア充が嫌いだ。滅ぼそうと考えている。いつでも彼らを爆発させたい、そんな事を考えながら生きている」

「凄い物騒な考えです……」

 だからこそニーグさんがそんなものを作ってあまつさえ私にそれを提供するのは変だ。


 そんな疑問を掻き消すようにニーグさんは言葉を続けた。



 

「だが、その一方で僕は研究者だ。今までに存在し得なかった、面白いものを作りたい。そして作ったからには使ってみたい、実験してみたい。そう思うのは当然だろう?」

「それが惚れ薬、ですか?」

「そうだ。以前は途中で作るのを止めたが、しかし一度思い付いてしまったものを放り投げるのは少々気がかりだったんだ。だからリア充を爆破したい欲を押さえながら完成させてみたのさ」

 なんて危ない欲望を持っているのか、と問い質したいところですが……、今問題なのはその惚れ薬です。


「では何故、そんなものを私に?」

「別に。理由は特にないよ。興味を持っている人に提供する。試作品だからね、多少のリスクを前にしても使いそうな人に提供した方がこちらとしてもデータが取りやすい、ただそれだけの事だよ」

「なるほど……」


 一応、筋は通っている……のでしょうか。




「それで? 僕の作った惚れ薬、使ってみるかい?」

「…………」

 私はその提案について思考を巡らせます。


 

 私は今、問題に直面しています。だからこそ私はコハクさんに相談し、恥ずかしい恰好でノボル様の気を惹き、レッドドラゴンに挑むという危険さえ冒しました。



 それでも期待したような結果は得られませんでした……しかし、その惚れ薬を使えばもしかしたらノボル様は私に――――




「あの、ちなみに対価とかは? 知っていると思いますが、私達は大した実力のない初級冒険者なので、お望みの対価は支払えないと思いますが」

「そんなのは要らないよ。僕は研究者としてデータが取れれば良いんだからね。なんなら失敗したとすればそれで受けた損害などは全て僕に押し付けてくれて構わないよ」

「…………」

 つまりはノーリスクハイリターンなお誘いです。


 これだけ好条件ならば一度試してみれば良いではないですか。



 私は今までの苦労を思い返します。

 そんな苦労などせずとも今なら対価を得る事が出来る――――



 そこまで考えて、私は首を振っていました。




「申し訳ありません。私はノボル様に惚れ薬を使えません」

「……ほう。何故だい? これ以上の好条件は他にないと思うのだけど」

「とっても魅力的なお誘いなんですけど……その、えっと」

 私は今、考えた事を素直に伝えた。




「今、私はノボル様に振り向いて貰う為に頑張っています。その頑張りを惚れ薬で代用してしまったら、その……ノボル様から言って貰える言葉も嘘になってしまうように感じられるんです。私は私だけの力でノボル様に本当の嘘偽りない言葉で、『好き』って言って貰いたいんです。苦労して空回って、変な事になって……今みたいに落ち込んでしまっても、それでも頑張って伝えた気持ちに正直に答えて欲しいんです」

「…………」

「だから私は……惚れ薬は使えません」

「……成程ね」

 くくく、とニーグさんは笑いだす。


「……どうしたんですか?」

「いや……そこまで言われてしまったらこちらもお手上げだ」

「何の話ですか?」

「いや、騙して悪かったよ。惚れ薬と言うのは嘘だ」

 ニーグさんはそれをさらりと言ってしまった。




「ええ!? 嘘、なんですか!?」

「そりゃそうだ。簡単にリア充共を生み出す魔性の薬なんて考えるのも嫌だ。だれがそんなものを生み出すか、反吐が出る」

 ……以前それを作ろうとしていた人と同一人物とはとても思えません。




「あの、では何でそんな嘘を」

「そりゃ君を試したんだ。君が頭空っぽでウェーイwwwとか言って散々騒いだ挙句、お酒の席でボディタッチをしながら『何だか今日は酔うの早いみたーい……』とかしな作ってギャップアピールしちゃう糞メスと同じような生物かどうかを判断する為にね」

「それはその……偏見に塗れてませんか?」

 吐き捨てるように呪いの言葉を口にするニーグさんの頭の中はリア充達の偏見と憎悪で満ち満ちていた。


 ……それだけの怒りがなければとても本気でリア充を爆殺する、なんて言ってられないのでしょう。ある意味凄い御方です。




 そんなニーグさんは怒りを断ち切るように一度息を吐きながら、そして言う。


「僕が憎悪するリア充は頭空っぽで好きでもないのに好きとか言った挙句に街中で一目憚らずにイチャイチャし始める低能共だ。そんな低能共ならば惚れ薬を目の前に差し出されれば有無を言わずに使っていただろう。……社会の屑共がァ」

 一時前まで自分がそれに該当していた、と言う事を棚上げするニーグさん。


 ……ある意味自己嫌悪のようなものなのでしょうか。


「それを断ったという事は君は少なくともそう言った連中とは違うようだね」

「……分かりませんが、その……そう言うものなんでしょうか」

「ああ。僕が憎むのはリア充。健全で素敵な恋心まで否定しようとは思ってないよ。頑張りたまえ、テレシア君。僕は君のその気持ちを応援しているよ」

「ニーグさん。その、ありがとうございます」

 私はニーグさんに礼を返す。



 ニーグさんは本当は誰よりも純粋な人なのかも知れません。


 その純粋過ぎるが故の潔癖が、怒りとなって表れているだけなのかも。




「ではニーグさん。今後はノボル様には危害を加えないで下さいね」

 良かった。これでノボル様への危害を一つ、減らせたようですね。



 そんな私の言葉を前にニーグさんはこう言った。



「そうだね。君のその恋心を認めるならば、ノボル君へのリア充疑惑も晴れたと言うものだ――――敢えて言おう、それは違う! 違うんだよォ!」

「えぇ!? そんな! 何故ですか!?」


「それは彼が男だからだよ! 古来より男は彼女持ちやモテる男に嫉妬するものだと相場が決まっている! 君のその気持ちは大いに認めるが、しかし彼を赦すかどうかの話は別だ! モテる男は殺す! モテる男など女の子を無尽蔵に喰らっていく畜生だ! そんな悪魔はこの世にはいらない! 葬リ去ルベシ! キヒヒヒヒ!!」

「無茶苦茶です!?」

 なんていう破綻した理論! 


 純粋なんて間違いでした! ニーグさんは倒錯していらっしゃいました!

 倒錯したリア充爆殺悪魔です!




「恋する女の子は許す! 可愛いから! しかしモテるリア充男は許さない! 今後も僕はそのスタンスで売っていく! リア充男よ、恐怖しろ! 貴様らがモテる限り私はその幸せを奪いに現れるぞ! くははははは!!!」

 そう言ってニーグさんは奇声を挙げながら去っていきました。



 ……あの御方、とても常識が通じるような相手ではありませんでした。

 ノボル様を御守りする為にも……どうやら今後ともあの人は強く警戒する必要があるようです。



 私は溜息を吐きながらリア充を憎むばかり悪魔と化したマッドサイエンティストの進む先をただただ見つめる事しか出来ませんでした。





 …………さて。最後の最後でとても疲れる御方に遭遇してしまいましたが。


 私はようやくノボル様と暮らす部屋へと戻ってこれました。

 ノボル様と顔を合わせるのはこれで六日ぶりになります。


 あぁ……ようやく! ようやくです! やはり私はノボル様が居なければ駄目なのです。


 ノボル様欠乏症なのです!



 私は長い遠征でボサついた髪の毛や服装を直しつつ、部屋の戸を開けたのでした――――




「ただいまです、ノボル様!」


 しかしながら……そこにノボル様の姿はありませんでした。

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