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第37話 対話

「つまりかの紅き龍は我々の存在を忌避しないものぞ。終末を望まぬ平和を求めし、かの龍と我々は誓約を結び、そして盟友として召喚に応じるものとしよう――――そう言う事ぞ!」


 恐ろしげな唸り声を上げるレッドドラゴン。しかして、それは敵対している訳ではない――――そこまでは分かりました。



 しかし……非常に残念な事ですが、唯一レッドドラゴンの言っている事が理解出来るアリスちゃんの言葉を何となくでしか理解出来ない私達。


 身振り手振りを使って一生懸命レッドドラゴンの言葉を翻訳してくれるアリスちゃんんですが、そこから可愛らしい以外の情報が伝わってきません。



 なんて……なんて勿体ない状況でしょう。ここにノボル様が居れば、そう思わずには居られません。


 アリスちゃんも何とか私達に伝えようと懸命に頑張っていましたが、やがてがっくりと肩を下ろしました。


 そんな中、レッドドラゴンはアリスちゃんに目を向けると唸り声を上げます。

 それを聞いたアリスちゃんはトテトテとレッドドラゴンへと近づきました。


 そんなアリスちゃんを前にレッドドラゴンは前脚を上げて、アリスちゃんに向かって下ろしました。



「あ、アリスちゃん!?」

 その様子にアリスちゃんが攻撃されたと思い、慌てる私のその頭の中に声が響きました。


『慌てるな、人間』

 頭に響いた声。それは続けざまにこう言ってみせる。


『我は今、この者を通じ直接頭の中に話しかけている。この者の言葉がいまいち理解出来ていないようだったのでな。この方法が手っ取り早いだろう』

 その言葉に私はレッドドラゴンを見遣る。レッドドラゴンは目を細めると、グルル、と呻き声を上げた。


「『念話』か。高い魔力を持つモンスターであればそれも可能と言う話だったけれど……やれやれ。まさか本当に出来るモンスターが居るとはね」

 コハクさんが驚きの声を上げた。

 私もまさかドラゴンと会話する事になるなんて……驚きです!



『さて……まず主らの要求を言え。何故に我の眠りを妨げた』

 頭の中に響いてくる声は威厳たっぷりの口調で聞いてきました。

 しかしながら……その質問に素直に答えて良いものかどうか……。


 何故なら私達の目的はレッドドラゴンの尻尾です。

 レッドドラゴンにとって自身の身体を傷つけられるのですから、寝込みを襲われるに等しいです。


 それを言った途端、我々はレッドドラゴンの吐く息によって塵に還ってしまうのではないでしょうか。

 そう考えて答えを躊躇する仲、コハクさんが口を開きます。



「レッドドラゴン君。ボク達は君の尻尾に興味があるんだ」

「ちょッ、コハクさん!?」

 コハクさんは理由を素直に言ってしまいました。


「そ、そんな正直に答えてしまって良いんですか!?」

 私はコハクさんに駆け寄り、耳打ちする。コハクさんもまた、小声で答えた。


「不味かったかい?」

「勿論です! このままじゃ……」

「では言い方を変えよう」

 コハクさんは息を吸い込み、そして言って見せる。



「我々は君のお尻に興味があるんだ」

「コハクさん、言い方!?」

「君のその大きなお尻にボクの短剣をぶち込みたい」

「何を言っているんですか!?」

「うむ。嘘は言っておらず、言葉を濁している。実に上手い言い方だ」

「言葉は濁せてますが、他の大きな誤解を生んでしまいますよ!」

 私は大声でコハクさんを咎める。……アリスちゃんも居る手前、この言い方は非常に宜しくありません。


「さて、冗談はこのくらいにしておいて」

「冗談に過ぎますよ……」

「レッドドラゴン君。問わずともボクらの目的はお見通しになのだろう?」

 そう言ってコハクさんはレッドドラゴンを見上げます。



「え、お見通しなんですか?」

「ああ。そりゃあ念話の出来るドラゴン君だからね。どうせボク達の頭も覗き込めるのではないかな? どうかな、レッドドラゴン君」

 コハクさんの言葉にレッドドラゴンはその大きな鎌首を上下させた。



『勿論だ。ただ……問わねば頭の中を覗けぬ故』

 当然とばかりの口調。念話とは凄い技術のようです。

 しかし、問題はそこではありません。



「ええと……その、怒ってらっしゃいますか?」

 私は恐る恐るレッドドラゴンにそれを尋ねた。

 緊張の一瞬です。次の瞬間、炎を吐かれて塵に還ってしまう事すら考えられます。


 しかし、レッドドラゴンは大きく首を振った。



『否。我は怒りを覚えてはおらん』

「え? 本当ですか?」

『うむ。我の尻尾は他の龍とは違い、神経が通ってはおらん。貴様ら人間で言うところの髪の毛のようなもの。斬られても痛くも痒くもないのだ』

「ええと、……では?」

『貴様らの目的、果たしてくれても構わんぞ』

 私達が思っていた以上に温厚で寛大なドラゴンのようです。

 私はほっとして大きく息を吐きだしました。



「では、何故ボクを攻撃してきたんだい? お陰でほら、ボクの防具がボロボロだよ。これで合法的にボクはエロい恰好で居られる。ホントにありがとうございます」

 痴女(痴男?)発言しているコハクさんはさて置き。

 レッドドラゴンはコハクさんに言葉を返す。


『起きた途端に見知らぬ者が居れば驚いて撃退しようとするのは人間とて一緒であろう』

「成程。それはそうだ」

 どうやら反射的に攻撃してしまったらしい。


 これは私も全然歯が立たなかったとは言え、剣で斬りかかってしまった事を謝らなければいけませんね。



『ところで人間よ、尻尾を持ち帰るのは良いが――――訪ねたい事がある』

 レッドドラゴンは私達に話を切り出しました。



「何でしょうか?」

 こちらは尻尾を戴ける立場です。友好的なドラゴン相手、私達で答えられる事があれば答えるつもりです。



『貴様ら、いずこかに我の同胞を見掛けなかったか?』

「同胞、と言うとレッドドラゴンですか?」

「如何にも。我は早急にレッドドラゴンに会う必要がある」

「必要、ですか? あの……それはどうして?」


 私は何の気なしに尋ねたつもりだったのですが……しかし、レッドドラゴンはその質問に対して、

『貴様らには関係のない事。妙な詮索をするな。我の気分次第でこの場より飛び立つ事も出来るのだぞ』

 とその背中の羽を大きく広げて見せる。

 その動きに私は慌てるようにして先の言葉について頭を下げます。



「あ、す、すいません! 何もそんなつもりでは!」

 私の必死の謝罪にレッドドラゴンは羽を畳んで見せた。



『良い。他意が無かった事は分かっている。それよりも我以外の我が同胞を見た事があるのか?』

「ええと……すいません。私は見た事がありません」

 レッドドラゴンの問いに私は偽らざる答えを返す。



 続いてアリスちゃんもまた、

「主の同胞を我は主以外に視た事は無い」

 と答える。


 

 その質問にレッドドラゴンは悲しそうに息を吐いた。

 ……なんだろう。何かよっぽどの事情でもあるのでしょうか。



 私が疑問で首を傾げる中、隣に居たコハクさんがぽん、と手を叩いた。


「成程。女、か」

 その言葉にレッドドラゴンがビクついた――――ように見えました。



『貴様……何を考えているか手に取るように分かるぞ。しかし、否。断じて否だ。我は雌など求めてはおらぬ。出逢いなど要らぬ。我は独りが好きなのでな』

「……童貞、か」

『ど、どどどど童貞ちゃうわ!』

 頭の中にキィィン……と大声が響き渡る。


 その動揺の伝わる響きこそが、その言葉を頭から否定してしまっていた。



『…………ふっ』

 自嘲気味の笑い。それを引き金にレッドドラゴンは語り始めた。


『そうだ。そうだよ……我は童貞。ドラゴンという頂点に属する種族にして清らかなる肉体を持つ個体……敢えて言おう。我は童貞ではなく、童帝であると』

「そんな童帝である君でも、出逢いは欲しいものなのかい?」

『当たり前だ!』

 レッドドラゴンは叫んだ。


 人間味のある口調で、叫んでいた。



『我はこの歳まで童貞……いや、童帝であるが故に他の個体よりも強い魔力を得た。どうして彼女が出来ないんだろう、と苦悩する余りに枕を濡らし、考え続ける中で気付けば高い知能まで得ていた。故に我は念話が出来る。貴様らと会話が出来る……しかし、しかしだ! それでも彼女が出来んのだ!』

「だから出逢いが欲しい、と」

 コハクの言葉にレッドドラゴンは更に加速する。


『そうだ! 貴様ら人間には分からぬだろう。そこかしこに同種が蔓延り、気軽に合コンなど開いてウェーイwwwなどと奇声を発し続ける貴様らのような、金さえ払えば異性と交わえるような貴様ら人間には決して分からぬ境地! 

 それが我々、レッドドラゴンだ! 

 強い魔力? 高い知能? それで雌と交わえるのか!? 

 そんな事はない! それは何故か! こんな穴ぐらの中に居るからだ! 

 貴様らの概念でいう所の自宅警備員に甘んじているからだ! 

 だが我は童帝! 出逢いだ! 出逢いさえあればセック〇に興じる事が出来る! 

 セッ〇スさえ出来ればこんな能力などなくても良いとすら思える! 

 だから我は聞いたのだ! 貴様ら人間などという下等生物にモノを尋ねたのだ!』


「中々ぶっちゃけるねぇ。そう言う必死さは嫌いじゃないよ」

「……出来ればその……小さい娘も居るのでそういう直球な物言いは控えて戴けると嬉しいのですが」

 私はアリスちゃんをちらりと見遣る。

 だが、一方のアリスちゃんは何を言っているのか分からぬ、とばかりに首を傾げています。



『心配するな、人間よ。そこの小さき者には表現規制を行っておる。セッ〇スなどの人間尺度の教育に悪かろうワードには独自のプロテクトが掛かる。〇ックスもきっと〇〇〇〇と聞こえている事だろう』

「そ、それは親切ですね……」

 どうやらこのレッドドラゴンは配慮の行き届いたドラゴンであるらしい。



『我の尻尾は幾ら持って行っても構わない。だから人間よ、この先同胞と出会った時には我を呼べ。童帝である我とは違い知能なき故、奴等は貴様らに牙を剥くだろう。それを撃退する事にとやかく言うつもりはない。それは防衛上仕方のない事だからな。だが、落ち着いたところで我を呼べ。呼ぶ方法は…………うむ、これを渡しておこう』

 レッドドラゴンは鱗を一枚器用に破ると、それを差し出してきた。

 その鱗を代表して私が受け取る。



『これを手に以て我を呼ぶように念じるだけで良い。そうすれば我はそこに飛んでいく』

「あの……落ち着いたところ、と言いましても……こういう言い方はどうかと思いますがその……かなり傷ついていたりしたら……その、どうなんでしょうか? その姿を見て、その、怒ったりとかしませんか?」

 もしそうなってしまえば私は殺される為にレッドドラゴンを呼ぶ羽目になってしまいます。


 しかし、レッドドラゴンは首を横に振る。


『構わん。それは人間とその同胞とで争った結果、仕方のない事』

 とレッドドラゴン。……どうも割り切りが良いような気がしますが、そういうものなのかも知れません。


『それに我は莫大な魔力を手にしている故、治癒魔法もお手のもの。傷ついたレッドドラゴンを治療すれば我はその同胞にとって白馬に乗った王子様そのものよ。きっとベタ惚れして股くらい簡単に開いてくれる事であろう。楽なものよの』

「…………」

 前言撤回です。そういうあくどい計算あってのもののようです。


 ……女としてそう言う計算はどうか、と思うのですが。しかし……このレッドドラゴンとてそれだけ必死、という事なのかも知れません。



『それはそうと、人間よ。貴様らはどうだ? こう……異性と交わる為のアドバイスとかはないのか?』

 とうとうレッドドラゴンは私達に恋のアドバイスを求めてきました。

 ……いえ、まあ良いんですけど。しかし、人間である私達に上位の存在であるところのレッドドラゴンへのアドバイスなど出来るものなのでしょうか。



 そんな中、コハクさんがこう言ってみせた。


「レッドドラゴン。アドバイス……と言うより一つ忠告しておこうか」

『聞こうではないか。話せ人間』


「ボクは君のようなヤリたいだけの雄は決して嫌いじゃない。嫌いじゃない、が……しかし、雌と会った時はそのヤリたいだけ、みたいな思考を表に出す事は止めたまえ」


『何故だ……。それに人間と違い我々は隠し立てするような真似はしない。常に真実のみを語り続ける』


「それがいけない。女の子と言うのは常にムードや駆け引きを大事にする。そんなヤリたいだけの恋は上手くいかないのさ」


『そんなのは面倒だ……。レッドドラゴンは希少なる存在。雌とて交わる機会を求めている筈……我もヤりたい、雌もヤリたい……目的は一致しているはず。なのに迂遠な言い回しをしろ、と言うのか』


「男は身体だけでも女の子は心の繋がりを求めているものなのさ」


『否。身体が繋がれば心も自然と繋がるもの。まずは一度交われば良いのだ……我はそれを父から教わっている』


「父から? ……そのお父さん、お母さんと別れてなかった?」


『若い頃にな。……しかし、それは不運であっただけ。男は強ければそれで良い。我はそれに加えて高い魔力を要し、そして知恵もある。またドラゴン界ではそれなりにイケメンの自負もある。そんな我が童帝である事自体がおかしい。雌と会えばそれだけで万事が上手くいく筈』


「そんな事は決してありません!」

 コハクさんがレッドドラゴンと言葉を交わす中、私は我慢出来ずに割り込んだ。



「女の子はいつでもトキメキを求めているのです! そんなムードもへったくれもない、身体だけを求めた物言いでは決して振り向いてはくれませんよ!」


『……何を馬鹿な。貴様に何が分かると言うのだ』


「分かります! 私とて女の子の端くれですから!」


『……ドラゴンと人間はやはり相容れぬものらしいな』

 レッドドラゴンは羽を広げると、そのまま羽を羽ばたかせました。



『きっと証明してくれる。優秀な我であればムードなどという小細工は無用であると――――では、さらばだ。人間よ』

 頭の中にそう言い残し、レッドドラゴンは空中へと躍り出る。



「え!? ちょ、ちょっと待って下さい! 尻尾――――尻尾は!?」

『気が変わった。雌を見つけたその時こそ我は貴様らに尻尾をやろう。それまでこの尻尾はお預けだ! ……雌を見つけたその時は失礼ですが、どうぞ宜しくお願い致します』

 最後に丁寧な口調でお願いをした後、レッドドラゴンは吹き抜けになった天井より外へ出て行ってしまいました。



 ただの初級冒険者である私達にレッドドラゴンを止める術などなく、どうする事も出来ずに外に出るのを見送るより他になかった。




「……テレシア君」

「……はい」

 こちらを見ずに呟くコハクさんに私は言葉を返す。


「今回の事で一つだけ分かった事があるよ」

「……何ですか?」

「いい歳まで童貞だった奴に正論をぶつけるのは駄目らしいね」

「……そうですね」

 私達は茫然と立ち尽くしたまま、肥大した自尊心を持つ方の扱い方について学んだのだった。



「テレシアよ。かの紅き龍は何故なる言葉を?」

 飛んでいったレッドドラゴンを見ながらしきりに首を傾げるアリスちゃんに、レッドドラゴンの会話の内容が殆ど伝わってなかった事だけが幸いでした。


 私はレッドドラゴンの鱗を握りしめながら、雌を見つけたらきちんと呼ぶか否かについて頭を悩ませるのでした。

色々忙しくて更新サボってました。楽しみにされていた方、申し訳ありません。

今後暫くはマイペースの更新を行うことにします。宜しければどうぞお願いします。

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