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第15話 更なる決意

『皆様、お待たせしました! 美少女コンテスト後半戦、水着審査の部スタート致します!』

 後半戦のスタートを引き続き司会が場を盛り上げながら宣言する。


 会場中のテンションも前半戦から引き続き盛り上がっており、水着なのも相まってか既に最高潮に達している。

「水着だ! 水着ぃ!」「女の子の白い肌が拝める。ありがたや……ありがたや……」「Fカップだ! Fカップ以上の胸を見せろ!」「馬鹿野郎! 巨乳になんの価値がある! ひんにゅーこそが正義よ!」などと言った欲望渦巻く会場中の声は町の住人に対する不信感を募らせるには十分である。


『えー……ここで皆さんに私から残念なお知らせをしなくてはいけません。前半戦にて皆さんから高い支持を集めていたテレシアさんですが、途中棄権される事になりました』

 司会者のこの発表により会場の声は一転してブーイングの嵐へと変わる。



「テレシアちゃんの水着姿が……おがめ、ない……」「畜生! 俺は何のために生きていたんだ!」「待て、よく考えろ! 水着で肌を晒せないその処女性こそ、真の美少女じゃないか!」「うるせー! 今後一生見る事の出来ない最高の美少女の裸、処女性とか関係なく見てみたいのが男心ってもんだろうが!」

 会場からの予想以上の反響に司会者も困り顔だ。……しかし、お前ら相変わらずひっどい煽りだな。



『申し訳ありません。……しかし! 他の女の子達の多くが恥を忍んで水着になってくれています! 今はその娘たちの姿を期待しておきましょう!』

 そんな司会者のフォローに会場は一転して水着、水着の大合唱。手首が柔らかそうでホント扱いやすい観客である。


『尚、ここからは特別審査員としてこの方をお呼びしております! こちらです!』

『どうも、儂が此度の美少女コンテスト、スポンサー兼特別審査員を仰せ付かった長老じゃ』

 長老を名乗る特別審査員は腰まで届きそうなくらいに白く長い顎髭が特徴的な老人だった。年季を感じさせる白髪に、顔に刻まれた皺が威厳を醸し出している。

 見る限りにおいてどうもオーラのある老人だ。もしかすれば会場の雰囲気とは違ってコンテストは比較的格式の高いものなのだろうか。


『本日は老い先短い儂が若い子の肌を合法的にジロジロ見れる絶好の機会を作る為にスポンサー兼特別審査員を引き受けた。萎えた儂の息子に立ち上がる勇気を下さる。そんな子の登場を心待ちにしておりますぞ』

 ……どうやら見た目と違ってかなりのアホのようである。

 だが、ラノベを懸けた祭典、これくらいの方が丁度良いというものである。



『さすがは長老! いっそ清々しい程に下種な挨拶、ありがとうございます! では会場も温まってきたところで早速女の子に登場して貰いましょう! エントリーナンバー一番! アリシアさんからご登場をお願いします!』

 そんな司会の紹介からアリシアと呼ばれる女の子が舞台の壇上へと上がっていく。

 登場した途端、男達の歓声が中央広場に響き渡った。


『これはまた最初からかなりの美少女です! 長老、如何ですか?』

『うむ。熟れた肉体、中でもボンと突き出した巨乳はポイントが高い。儂の愚息も元気を取り戻してきそうだと申しておる』

『これ以上なく危険なコメントをありがとうございます! そして会場中の皆さんも同意するようにしきりに頷いているのが見えています。このコンテスト、次の開催が危ぶますね!』

 そんな風な掛け合いの中で会場中が前半戦同様の熱気を取り戻していく。



『――――続いてはエントリーナンバー七番! 後半戦から飛び込みで参加して戴きました! 前半戦の遅れを取り戻せるか!? ノエルちゃんの登場です!』

 俺のエントリーネームである『ノエル』の名前が呼ばれ、俺は舞台上へと登場する。


『おお――――ッ!! これはまた凛々しい感じの娘の登場だ!』

 短髪黒髪で身長は男としては低めだが女子としては高めの俺だ。

 どうやら中性的な女の子という所で取ってもらったようだ。


 ただ、

『しかしチョイスした水着は顔に似合わずというか少し恥ずかしかったのか? ワンピースタイプの水着でのご登場だ! しかし、彼女の印象とはギャップがある様子が見て取れて、その可愛らしさを一層引き立てております!』

 司会の言葉に俺は笑顔を浮かべながら内心では「しまった」と考える。


 良いように受け取って貰えたが、しかしやはり水着のチョイスミスは否めない。この身長でワンピースタイプの水着を選ぶのはチグハグさを見せてしまっている。

 ただ、身体の線を隠し、所々をふわふわの飾で隠せるこの水着は男である俺が着るには最適だったのだ。



『ではノエルちゃん! 飛び込みという事でまずは自己紹介などを含めたアピールを行って貰っても良いでしょうか!』

『は、はい。えと、その……ノエル、です! 今日はあの……だい、すきなライトノベルが欲しい、ので……ええと、がんばりたい、とおもいます! みずぎ、とか普段はその……着ないんですけど、今日はがんばりました……』

 声を潜め、ウィスパー気味にしながら『大好きなライトノベルの為に頑張る普段は奥ゆかしい文学少女』っぽいキャラを作る。


 俺はラノベ好きのラノベオタクだ。

 だからラノベ好きの奴らがどんな女の子が好きかを知っている。

 同じ趣味でこういうおとなしい系の女の子を嫌いなラノベ好きはいない、というのが俺の持論である。

 また、キャラに合わせて小声にする事によって声を変える事による違和感を抑える事が出来る。これは非常に大きい。

 そして俺が用意した策はこれだけではない。


『身長は結構大きい方、ですよね? 体格とかもガッシリしているように見えますが、お身体を動かすような事をやってらっしゃるんですか?』

 間違いなく突っ込まれるであろう痛いところを司会に質問された。

 俺は男としては比較的小さい方だが、しかし女の子としては当然大きい方だ。

 性別が違う以上、この差は埋めがたい。本来はマイナスとなる部分である。


 だが俺は司会のこの質問を待っていた。


『え、あ、そ、その……なにも……は、恥ずかしいです……』

 俺は真っ赤な表情を浮かべて俯くようにして手で顔を隠す。


 その反応に司会は少し悪びれた様子で、

『ああ、お気にされている所でしたか。すいません無神経でしたね』

 と謝ってくれたが、会場中は「大丈夫だよ!」「可愛い! むしろご褒美だ!」などと言ってくれた。そんな様子に俺は内心ほくそ笑む。



 ――――計画通り。



 ライトノベルに置いてキャラクターを構成する要素、引いては読者がキャラクターに惹かれる要素としてこんな言葉がある。


 ――――弱味を魅せるは魅力なり。コンプレックスは勝利の鍵。


 キャラクターにおけるコンプレックスは重要だ。何故なら羞恥心を引き出せるからだ。

 男の俺が水着を着ればその体格の良さを隠すのは限界がある。


 それを逆手に取っての攻め手だ。司会がそれに関連する質問をしてくれるかどうかが勝負の鍵だったが、序盤でやってくれたのは非常に良かった。


『いや、しかしそれにしてもスタイルはバッチリですよ。脚線美などの美しさは他の出場者にも引けを取りません! どう思いますか、長老?』

『うむ。ペッタンなのもまた良し! 儂の愚息も喜んでおるわ!』

『これまた下種な返しをありがとうございます! おっと、会場中の皆さん、ペッタンペッタンと大合唱するのは止めて下さい! ノエルちゃんが困ってますよ!』

『……いや、えっと、その……ありがとう、ございます』


 顔を赤くしながら言う事によって会場中が更に「ペッタンペッタン」とヒートアップしていく。相変わらずノリの良さとゲスさとバカさ加減は中々の客層である。


 しかし、中々のアピールは出来たのではないだろうか。

 ラノベの為なら何だってやる。策だって用意しよう。

 その覚悟が俺を男でありながら美少女コンテストに出場させ、女物の水着を着せている。


『では、ノエルちゃんでした! 皆さん、盛大な拍手を!』


 大きな拍手を受けながら俺はそそくさと袖に退場する。

 やり切った筈だ。これで前半の遅れを取り戻した。

 そして袖に退場した後、俺は次の出場者と擦れ違う中でさっと振り返る。


 次の出場者は颯爽と舞台上へと躍り出る。会場中が今までにない沸き立ちをみせた。

 あいつは――コハクは俺と擦れ違う時にこう言ってみせたのだ。


「中々やるね。しかし……踏み込みが甘い」――――と。


『では次の方、エントリーナンバー八番! コハクちゃ――え、うぉおおおおお!!』


 司会が本来の役割を忘れ、驚きのあまり叫んだ。

 その後、続く男共の喜びの歓声から俺は自分を容易く超えられた事を即座に理解した。


「あの水着は一体……ひ、紐?」

 俺はコハクの着用した水着を見て思わず口に出してしまう。


 彼女の着ている水着は――いや、最早着ていると言って良いのだろうか、布面積が極小、ギリギリで秘部が隠れていると言っても良いそれは正に観客の度肝を抜いていた。


 ……踏み込みが甘かった。俺はそれを痛感せざるを得なかった。

 男とは言え、俺は躊躇してしまったのだ。


 勝負事においてブレーキ、それを踏まないどころか更にアクセルを踏むかのような暴挙。

 そんな禁じ手をコハクは平然と用いたのである。


 このままでは――――負ける。


 何か手を打たなければ……、俺はそう考えざるを得なかった。

 どうすれば良い? どうすれば……。俺はまたも思考を巡らせていく。

 そして思い付く。


 ――――自らを高めるのではない。相手の足を引っ張って同じ土俵まで下げる事を。


 下種が何だ。ラノベを手に入れる為に俺は修羅へ足を踏み入れる。

 脚光を浴びる彼女を見て、俺はそう誓ったのだった。

冷静に考えてこの一連の回は不味かったのではないだろうか(真顔)

まあ楽しそうだしいっかな(思考の放棄)

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