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第11話 ノボルは限界

「依頼だ。依頼を受けるぞ」

 宿屋の一室、俺はテレシアに淹れて貰ったお茶を啜った後、開口一番にそう言った。



「そうですか。やはり私はノボル様のお役には立てなかったのですね……。仕方ありません。役立たずの私めを是非ノボル様の手で処分為さって下さい」

「そう言うのじゃない。というかそのネタはホントもう良いから」

 テレシアが懐から取り出した短刀を仕舞わせると、再び話に戻る。



「一週間前、俺達にはアリスという頼もしい戦力が加わった訳だが……しかし、やはりというか何というか……今のままではダンジョン攻略なんぞ夢のまた夢という事がまたも判明した」

 俺達はアリスが加わった事によりダンジョン攻略が出来るのではないか、と再びダンジョン攻略に乗り出したのだが、結果は推して知るべしという奴だった。



「階級は未だ十を刻むか否か。彼奴らの鼻先に喰らい付くのは未だ先という事よ」

 俺達の横でゆっくりと寝そべっていたアリスがすっくと立ち上がり、そんな事を言う。


 パーティの平均レベルが十以下では未だダンジョン攻略は難しいだろう、という事らしい。


 ちなみにこの世界では所謂『レベル』と呼ばれる概念が存在する。

 ここで言うレベルとは一重に魔力総量の話だ。

 この世界の生き物は大なり小なり魔力をその身に宿している。そして魔力が多い程に強力な魔法を行使出来る他、身体能力その他にも影響を及ぼしてくる。


 つまり生き物が活動するエネルギー源という事だ。


 本来、生き物の持つ魔力総量は一定で、増減する事はない。そこに多少の大小はあれども、魔力総量に成長という概念はない。


 ただ、それは普通の人間や生き物に限っての話だ。

 俺達のような冒険者にそれは当て嵌まらない。


 俺達、冒険者はギルドに登録する際、『魔力の開通』と呼ばれる儀式をその身に施される。

 それは本来、『魔法使い』や『仙人』とか呼ばれる連中が伝えてきた秘術であり、現在では技術として人間にそれを施す事が出来る。


 その儀式を施された人間はモンスターなどを狩る事によって、そのモンスターから少なからず魔力を吸収出来るようになるそうだ。

 そうして吸収し増加した魔力の総量を『レベル』という指標で測っているという事だ。

 モンスターを狩る程に魔力総量であるレベルは上がり、段々と強い冒険者として仕上がっていくという訳だ。


 ちなみにレベルだがテレシアが十二、アリスが九、そして俺が八レベルである。


 何故俺が彼女らよりもレベルが低いかという事についてだが、俺の役回りは彼女らのサポート言う所が大きく、止めを刺すのは主に彼女らの役回りだからだ。

 魔力の吸収は主に止めを刺した者が多く貰える。故に俺は伸び悩むという事だ。


 まあそれで進歩が無かったかと言えばそういう訳ではないのだが。


 端的に言うとマジックソルジャーとしてようやく一つ、魔法を覚えたのである。てってれー。



 ただ……どうも使い勝手が悪いというか、「これ、一体何に使えるの?」と言わんばかりの糞魔法だったのがネックではあるのだが。

 やはりこのクラスはユニーククラスとは言え外れクラスなのかも知れない。早々にレベルを上げてクラスチェンジしなければダンジョン攻略は難しいのだろう。



「アリス。そう言えば最近は頻繁にこちらに遊びに来てくれていますね」

 そんな中、ふと思いついたかのようにテレシアが口を開く。

 彼女の言うようにアリスは暇さえあれば俺達の住む宿屋の一室を訪れてくれていた。

 今日もこうして寝そべりながら時折テレシアから出されるお茶を飲んでいる。


「それは主への侮辱であったか?」

 迷惑だった? と聞いているのだろう。

 アリスの言葉を翻訳してやるとテレシアは「いえいえ」と首を振った。


「単純に嬉しいのですよ。随分と心を開いてくれたなって」

「…………ただの無聊の慰めよ」

 どうにも照れた様子で頬を染めるアリス。照れ隠しに持っていた枕で顔を隠す。


「い、否。問うて良いか? 何故に貴様らは同じ部屋で暮らしておるのか? よもや既に番となった仲という事なのか?」

「ふふ、実はそうなんですよ。私達は事実結婚しているようなもので――――」

「ただの経済的事情だ」

 アリスの言葉に便乗しようとするテレシアの言葉を即座に遮る。


 ここは冒険者向けに賃貸されている安価な部屋の一角だ。

 安価とは言え賃貸なので、その出費は馬鹿にならず俺はテレシアと一緒に住む事でその出費を出来るだけ抑えている。


「狡猾よ! テレシアだけノボルと同じ刻を刻んでいるというのか! 我も、我も共に!」


 どうやらアリスはそれが自分だけ仲間外れのようで気に入らないらしい。

 しかし、そうは言われてもこれ以上人を増やす事なんて出来る筈もない。そもそも男女が二人同じ屋根の下で過ごすっても相当おかしな話なのである。


「駄目ですよー、アリス。私達だって仕方なく一緒に寝てるってだけの話なんですから。そりゃあいつでもノボル様の布団に入り込んでの既成事実が作れるって状況は中々に便利なものなのですが、しかしちょっとばかり手狭ではありますね。早く我々の庭付きの新居を手に入れたいものですよ」

「ちょっと待て。お前、今なんて言ったよ」

 こいついざとなったら強制的な既成事実の作成なんて恐ろしい事に打って出ようとしていたのか……。

 これは可及的速やかに新たな生活拠点を探さないといけないな。当然、二人別々の。


 ――――とは言え、それは後回しである。

 なにせ、そろそろ限界だからだ。何が、と聞くのは野暮だろう。


 それは勿論――――ラノベ欲が限界なのだ。


「俺のライトノベル欲がもう限界の値まで来ている。そろそろ何か読まないといよいよ何するか分からん」

「理性を保てなくなるなら、それはそれで良いですよ。望むところですから」

「さっきも言った通りダンジョン攻略は後回しだ。今は依頼を優先して少しでも早いライトノベルの獲得を目指したい」

 テレシアの言葉をスルーしつつ、宣言する。


「つう訳だが、今はおあつらえ向きな依頼の伝手がない。ギルドに行って何か目的に沿った依頼が無いか探しに行くぞ」

 そう言ってギルドに赴く為に立ち上がる俺だったが、その裾を後ろから引っ張られた。


「ん? どうしたアリス?」

 後ろを振り返るとアリスが何やら聞きたそうにこちらを見ていた。


「うむ。ノボル、一つ問いたい」

「何だ? 急いでるから早めにな」

「その……『きせいじじつ』、とは何故なる物?」

 物凄い説明しづらいその質問に俺は時間を取られてしまうのだった。




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