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第8話 アリスの休日①

「の、ノボル……わ、我とその……添い遂げてはくれぬか?」

 ある日、俺は頬を真っ赤に染めたアリスよりそんな事を言われた。



「え、い、良いのか? ……俺が付き合っても」

「う、うむ……ノボルじゃなきゃその、嫌なのだ」

「そうか……分かった。付き合おう」

「な、なんと……我は邪神の祝福をその身に感じるぞ」

「おう、俺も楽しみだな。アリスとこれから一緒なんて……」






「では、我と一緒に冥界への取引へと向かおうぞ!」


 翻訳すると「私と一緒に買い物に行こう」である。

 つまり「付き合って」ってのはそういう意味である。

 いや……知ってたよ? ロリ系ラノベは大好きだけど俺、ロリコンじゃないし。

 


「我の召喚に瞬時に応えられるとはさすがはノボル! 我と契約を交わしたしもべよ!」

 アリスを連れて往来を歩く俺。

 隣を歩く彼女はと言えばご機嫌な様子でウキウキしながら歩いている。


 今日はいわゆるオフ。アリスを加えてのダンジョン攻略にも精を出していきたいところなのだが、アリスが加わった今、あまりに過酷なスケジュールを組むのは難しいという判断で、今日くらいは休みにする事にしたのだ。


「楽しそうだな、アリス」

「うむ。我の呼び掛けに応える事の叶うサーヴァントは数少ない故。特にこのような取引の際は艱難辛苦をこの身に感じてしまうものよ」

 つまりいつもは言葉が通じずに苦労するが、今日は俺が居るから安心して買い物出来る、という事だ。


 ……いっつもその調子で買い物にも行ってんのか。

 そりゃ苦労するわ。


「と言うかアリス。お前、一応普通に喋れるんだろ? 必要な時くらい普通に喋れば良いんじゃないのか?」

「無礼者! 我の真言は魔力を帯びているのだ! 魔力を持たぬともがらへ向ければ彼らに災いが降りかかろうぞ!」

 アリスは更に「それに……」と付け加えた。


「飾らぬ真言で想いを口にするには我の魔力が足りぬ故……」

 つまり普通に喋るのは恥ずかしい、という事か。


 ……いや、そっちの方がむしろ恥ずかしいと思うのだが。

 

 とは言えその辺は人それぞれ。それに俺だって邪気眼とは言わないまでも厨二病を経験した身。

 彼女の言っている事が一切分からないという訳でもない。

 アリスはまだほんの十二歳なんだ。彼女がそう言うからには彼女の好きにさせるが良いのだろう。


 そんな訳で今日はアリスの通訳として一緒に出掛ける事になった。





 まずアリスに連れられて俺は魔法具店へとやって来ていた。

 雑多に並べられた棚の上にはよく分からない液体が入った薬瓶やお札やペンダント、他にも多くのよく分からない物でごちゃごちゃに埋まっている。

 店内の薄暗い雰囲気が如何にもな様子で、何というかお化け屋敷みたいな印象だった。


 一方店内に入ったアリスはと言うと、

「地獄の門が開いたか」

 と口にしつつ目を輝かせ、吸い込まれるようにして店内に入っていった。

 この辺は正に十二歳の子供らしいと言える。


 だが暫くすると、

「……ノボルぅ」

 と一言言いながら俺へと抱き着いてきた。


「どうした? さっきまであんなに楽しそうだったじゃないか?」

 理由を聞くとアリスは無言である場所を指す。

 そこにあったのは、

「……ドクロ?」

 アリスが指出した先にはドクロの形に型取られた水晶があった。


「むしろああ言うのは邪気眼であるお前の領分じゃねぇのか?」

「……かのモノとは相容れぬ」

 以前クエストで遭遇した土蜘蛛のようにどうやらこういったモノの苦手であるらしい。

 実力はあっても苦手なモノは多いと言う事か。

 パーティメンバーとして記憶しておいた方が良さそうだ。


 暫くすると復活したアリスはまたウキウキとした表情で店内を散策し始める。

 手持無沙汰になった俺も俺で店内を何となく回る。

 すると、とある物が目に映った。


「……これは」

 俺はそれを手に取るとレジへと持っていった。






 その後、暫くの時間が経ってアリスはどっさりと魔法具を持ってくる。

「ノボルよ。このアーティファクトを託そうぞ」

「……これ、全部買うのか?」

「うむ」

 アリスはそれを即答した。

 どう考えても彼女一人で持ち運べるような量ではないだろう。

 

 ……こいつ、もしかして俺を荷物持ちだと考えてるのか?

 いや、勿論荷物くらい持つつもりだったが……、こいつ、以外と食えないな。


 そんな感じで魔法具店で買い物を済ませた俺達だが、続いて布地を買いにいきたいとの事で、次の店へと梯子した。


「布地? 何に使うつもりなんだ?」

「身に纏う闇の衣を地獄より召喚する為の媒介として用いるのだ」

 成程。こいつ、服は自分で作っているらしいな。

 確かにアリスの着ている黒いドレスのような恰好は、この世界においてもかなり特殊だ。

異世界とは言え、自分で作らないと手に入れる事は難しいか。


 と言うかそんなに沢山の物買って金は持つのだろうか。

 それを聞いてみると、アリスからは、

「我の制作せしアーティファクトによる対価はそう低くない。そこよりもたらされる故、仔細ない」との答えが返ってくる。


 整理すると彼女はどうやら趣味で自作の魔法具を作成しているそうで、それをギルドや魔法具店などに卸して生活費を得ているらしい。

 ……どうやら彼女は俺が思っている以上の天才魔法少女かも知れない。



 そうこうしている内に布地を置いている店へとやって来る。

 どうやら服屋であるらしい。コミケ会場でコスプレイヤーさん達が来ているような服ばかりが並んでいて、ここが異世界である事を痛感する。


 アリスはすぐに黒っぽい布地のある棚へと向かっていった。

 ……やはり厨二病。考える事は世界が渡っても一緒なのだろう。

 

 俺はまたも手持無沙汰になって店内を回る。


 すると、

「これは……水着か?」

 珍しいモノを発見した。


 水着。それはラノベで言う所の記号、またはサービス回を成り立たせる為の装置だ。

 さすがラノベの街、メルエスタ。聞けば元々水着は無かったがラノベが流行るに従って需要が高まって作られたらしい。

 

「……ほう、ウンディーネの衣か」

「うお、アリス! いつの間に……」

 俺が水着を見ていると、気付けば後ろにアリスが立っていた。

 彼女は俺と水着、交互に見つめた後、俺をじっと見つめてきた。


「どうした、アリス?」

「……うむ。ノボル、お主に問おう」

「ん?」

「尊大なる神の宿りし体躯と矮小なる妖精を思わせる胸、お主はどちらを選ぶ?」

「それはどういう――――」


 そこまで言ってハタと気付く。

 成程。アリスは身体の成長を気にしているのか。

 ラノベ的に考えれば……胸、か。

 ここはどう返すべきか。こいつ、子供扱いされるの嫌いだしな。ここはフラグになるやも知れない重要な分岐点になりかねない。

 俺が好きな作品の主人公だったらこういう時確か何て返してたっけ? えーと……。




「大丈夫だ、アリス! 大きい胸もちっさい胸も俺は両方好きだぜ!!」





 ――――攻撃呪文を唱えられた。

 そういやあの主人公もハーレムな中でそれ言って全員にボコボコにされてたような……。

 失敗した。ラノベの主人公も真似して良い奴とそうでない奴が居るのか。勉強になるな。


「ノボル!」

 若干のダメージを抱える中、アリスの声が聞こえる。

 俺は彼女に謝るべく、声の方向に振り返った。

 すると、

「……どう、かな?」

 そこには黒色のセパレート水着を着用したアリスの姿があった。


 しかし、

「その……アリス、お前、その胸……」

 アリスの胸はこの数分で有り得ないくらいの成長を遂げていた。

 いや……成長した訳じゃないだろうけど。


「ぎ、疑問を呈すか? 我に歪みがあると言うなら……も、申してみよ」

 ……どう考えても歪んでいる箇所が一か所あるんですが。

 とは言え、彼女にそれをストレートに言って良いものだろうか。

 いや……ここは甘やかす方法で行こう!




「アリス、お前のその水着、最高に似合っているぜ! 俺はもう興奮してきた、今にも鼻血が止まらなくなりそうだぜ!」




 ――――攻撃魔法で殺されたかけた。

 いや、ブレーキを掛け間違えた。十二歳を相手に何をやってんだ、俺は。

 多分、世が世なら捕まっている。ここが異世界でホント良かった……。


「ノボルはその……色欲の大罪に侵食されておるな」


 アリスは顔を真っ赤にしてそう言った。

 恥ずかしそうに言っている辺りラノベヒロインだったらポイントが高いと思うが、相手は十二歳、これ以上何かしたらホントにヤバい気がする。


「それよりアリス、お前はそろそろ水着着替えないのか?」

「ふむ。ウンディーネの衣はそろそろ魔力切れか――――」


 その時だった。

 ――――彼女の胸から、大きな詰め物が落ちた。

「ふぇ!? あ、あ、あああぁあああ!!!! 理想の具現化が!」

 アリスはそれを見た途端、耳まで真っ赤にして大声を上げ、慌てて理想の具現化パッドを拾い上げようとしゃがみ込む。

 しかし、その瞬間、詰め物が無くなった水着はズレてしまい――――


「きゃぁああああ!! 見ないでノボルぅううううう!!!!」

「いや、待って! これ以上、攻撃喰らったら流石に死ぬから! 死ぬから!」



 三度目の攻撃魔法、しかもこれまでよりより一層高い攻撃力の攻撃魔法をギリギリで避けた俺は、こんな状況に置いても基本的に生還するラノベの主人公ってやっぱり凄いんだなぁと改めて尊敬するのだった。

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