魔人たちは邪神へ挑む
魔界。
何時発生したかは不明だが、その世界からは空気に混じって瘴気と呼ばれる、生物の魔力を暴走させて殺す概念があった。だが、マグマだらけだった地球にも生命で満ち溢れたように、生き物が住めるような所では無かったはずの魔界にも、今は生物が存在している。
それを、人は魔族と呼んだ。
魔界の瘴気から生まれた、魔の属性そのものである存在。世界に破滅と混沌をもたらす破壊の化身。魔法を操り、呪術を司る魔族は、魔族以外の生物に対して強い敵意を持っている。と言っても、それは自らの本能すら理性で押さえつけられる事の出来ない低級魔族、俗に言う魔物が主である。
中級魔族である魔人ならば、敵対心はあるが会話できる程度の知能があり、上級魔族の魔紳にもなれば、大抵の場合暇つぶしに虐殺するか無関心かのどちらかである。
もしかしたら、魔人にも人間側に協力的な者がいるのかもしれない。
だが、町一つを一人で制圧できる強さを持つ魔人を、人間が警戒しないはずが無い。魔人は基本何処の里でも出入り禁止だし、迫害の対象にも多々なる。
それが原因で人間に憎しみを持つ魔人も少なくは無いのだが、そこら辺はどちらが悪いとも言えない。自分たちを易々と殺せる相手を、何も警戒しないなんてそれこそネジが飛んでいる。
そんな事を言っても魔人と人間との溝は埋まらないし、きっとこれからも埋まらないままなのだろう。
それこそ、世界のあるべき姿なのである。
そしてここは魔王城。
城の至る所を執拗なほどに黒塗りし、それを満月が神々しく照らしている。魔界には昼と夜という概念が存在しておらず、いつも夜なのだ。そのため人間界よりも気温は低く、冷たい空気が漂っていた。
周りには砂漠。滅びと破滅を象徴している魔界には相応しい、まるで崩壊した世界のような広大な砂漠が広がっている。勿論オアシスなどこの世界には存在しない。というか、水自体この世界には存在しないのだ。
これが生物が魔界で生存不能だと言われている理由の一つである。命の源である水が存在していないなど、魔族はどうやって生活しているんだ?と疑問を持つだろうが、そもそも魔族は水を必要としていない。魔族が誕生した時もこの世界に水など存在していなかったのだ。
代わりに必要となるのが、瘴気である。これは人間でいうところの酸素に匹敵する、重要な要素だ。これを三日に一度は摂取しなければ、魔族の身体はボロボロになって崩れ落ち、最後には灰となって消滅するだけだ。それでも二日程度ならば、魔人は難なく人間界でも活動できる。
ちなみに昼と夜の概念が存在しないこの魔界では、月が二つ存在している。
この月はちょうど対極の位置で魔界の上空を回っており、紅い月『明月』が出ている間は昼、白銀の月『夜月』が出ている間は夜、となっている。
そしてその魔人。魔王軍第4部隊隊長アンドロは、膝をついて跪いていた。
雪のような白い肌に薄暗い赤のタトゥー。血のような赤い瞳は地面を見ている。耳と首には金の装飾品をジャラジャラと身に着けている。服装はボロ雑巾を縫い合わせて作ったような、ちゃんと大事なところを隠してはいるが、人間から見たらこの気温でこんな服では寒いのでは?と思えるほど、布面積が少ない。そしてその身体は小刻みに震えていた。
その前にはもう一人の魔人がいた。
アンドロと同じく白の肌、しかしタトゥーはアンドロの倍はあるであろう。そして明らかに体格が良い。アンドロの体長が185センチだったが、この魔人は2メートルを超えている。筋肉質な体には豪華な金の装飾品を幾つも身に着けており、身じろぎ一つで月の光を反射し輝く。腰まで伸ばした白髪に、右目が紅く、左目が紫、所謂オッドアイと言うやつである。
その魔人は金で造られた玉座に居座っている。まるでそこに座るために生まれて来たかの如く、自然に座っていた。そして口を開く。
「今日貴様に来てもらったのは他でも無い、貴様に命令がある」
「ハッ」
大きい方の魔人の声に、アンドロは完璧な返事をもってして答えて見せた。その様子に大きい魔人は満足げに首を縦に振る。その仕草はとても優雅で、アンドロはこの魔人が神の様に見えた。いや、その魔人こそが、魔人にとっての神、魔王なのだ。
自然と体が震えてしまう。それが恐怖から来るものか、喜びによるものかは分からない。だがしかし、この間に来た事だけでも、この魔界の魔人からすれば大変名誉な事であることは変わりない。そこまで魔王の前に跪く事は名誉なのだ。
魔王のプレッシャーが肌を撫でる。
冷たい冷気のようなそれは、アンドロに歓喜と恐怖の感情をさらに増幅させた。勿論ここに来ることが嫌だなんて死んでも思わない。こんな名誉なことは他にはないのだ。しかし、この魔王自身が放つ強大な魔力が、アンドロの生存本能を刺激しているのだ。この存在は危険だと。
アンドロは身体の奥からマグマのように沸き上がるそれを、鉄の理性で抑える。魔王の前で無様を晒す様な無礼を、ここでするわけにはいかないのだ。そんな事をしたら、目の前の魔王によって認識する事すら出来ずにアンドロはその一生を終えるだろう。
だからこそ、ここは聞く事に徹する。そうやって何かに集中しなければ、アンドロは精神が押し潰されると感じたのだ。
「貴様は邪神という者を知っているか?」
「……邪神、ですか」
知らない――わけでは無い。
むしろ知っている。魔人の中では有名な『おとぎ話』だ。
その昔、魔界が存在していなかった時代があった。初代主神オージンによって世界が一つになっていた、神代と呼ばれている時代である。この頃は神と巨人しか種族は存在せず、秩序によって平穏な時が流れていた。
しかし、その平和は永久に続かなかった。邪神の登場である。
邪神はその強大な力をもって、自分以外の存在を殺し回った。邪神が通った後には草木一本残らず、邪神の進行方向にあった物は例外なく消滅した。
その存在を、主神オージンは脅威として認識した。
その戦いは天地を割り、一つの世界を複数に分断するほどの激戦だった。そしてその結果、主神オージンは邪神を討伐。邪神の亡骸は魔界の地中に封印されたという。
しかし、地中に埋められていたなら我々魔人が発見できたはずであり、そもそもその頃は魔族が発生していない時期だったため、他の神が魔界を『邪神が封印されている世界』として蔑むための、ただの作り話だと思っていた。
魔王は話を続ける。その顔は何かに苛立っているようでもあった。
「邪神は生きていたのだ。いや、邪神が本当に主神に敗れたのかどうかは分からない。もしかしたら邪神が勝手に姿をくらましていた可能性がある。だが、そんな事は関係ない。邪神が存在している。その事自体が重要なのだ」
どういう意味だ?とアンドロは疑問を抱いた。
「邪神が存在している。それすなわち、我々と同等もしくはそれ以上の存在がいるのだ。それを黙って見過ごすわけにはいかない。だからこそ、我々はその存在を排除する必要がある」
アンドロはこの次に何を言われるかを察した。自然と体が引き締まる。
「伝承では、邪神はとても凶悪にして強大な存在だ。だからこそ、その亡骸の利用価値は高い」
死霊術によって死体を操り、戦争に利用するもよし。細胞を複製し、クローンを製造するもよし。何でもありの宝の山だ。仮にも神を名乗るぐらいなのだから、その実力は相当なのだろう。だからこそ得る収穫も大きいのだ。
「なに、第四部隊だけで行けとは言わない。第一部隊と第二部隊は人間界にて戦争中、第三部隊は魔界の防衛に専念、他の五部隊では力不足だが、魔王軍の戦力は十の部隊だけでは無い。魔王城の地下深くに存在している地下牢にも、魔王軍を凌ぐ実力者は多数いる」
アンドロが目に見えて動揺する。それも無理はない。
魔王城の地下牢。それは通常の罪を犯した魔人が収容されている所では無い。幹部クラスの力を持った凶悪な魔人を、魔王自らが倒して結界を貼る。そして様々な封印を掛けることでやっと沈静化している、魔界の地獄と呼んでも過言ではない場所なのだ。
魔王軍が新たに開発した新型魔物や新薬等の生体実験を毎日のように繰り返した結果、魔人を超える戦闘力を持った魔族まで誕生する事もあるらしい。
そんな危険人物たちを、邪神討伐に同行させるというのか?
アンドロの心臓がこれ以上無い程鼓動する。それほどまでにあの連中が恐ろしいからだ。
アンドロが第四部隊の隊長に主任した時、たまたま地下牢を覗く体験があった。「隊長なのだから、貴様も知っておくべきだろう」と魔王様に言われ、あまり気は進まなかったが命令ならば仕方ないと、多少気だるげながらも行ったのだ。
結論から言えば舐めきっていた。
地下牢はアンドロが真っ向から認識できるような、生易しい場所では無かった。そこらの影からじっと覗く赤い目。床から生える植物たちは全て食人植物であり、収容されている魔人をどうにか喰らおうと、根を伸ばして待ち構えていた。
そして収容されている魔人と目が合った時、アンドロの精神が凍り付いた。
完全なる捕食者の眼だった。ギラギラと宝石のように光る目玉。それに見られると体中の細胞全てが震え、脳が認識する事を拒もうとする。しかし、それでも認識する事が脳の仕事だ。何とか生き延びる手は無いか、魔術によって封印されている事すら忘れて、取り乱す寸前の状態で何とか意識を現実に引き戻した。
赤い目は、何時までもアンドロを見つめていた。
アンドロにとって、あの体験はトラウマ以外の何物でもない。今でも夢に出てくることがあるし、書類仕事をしているとふと思い出してしまい、判子を押せない状態になる事もあった。
それがまた始めるというのか?またあそこに行かなければならないのか?アンドロは地下牢に行かない言い訳を必死で考える。頭の中に恐怖と義務が延々と回り、パンク寸前にまで追い詰められたその時、
「地下牢に行く必要はない。もう来ている」
魔王が放った一言で、魔王が座っている玉座の反対側、4メートルはある門が開いた。
正確には、蹴飛ばされた。外れた門は魔王まで直線で飛んで行き、アンドロにぶつかる直前で空中に停止した。
魔王が魔法を発動して、門を空間に固定したのだ。
「おおー」
間延びした幼げな声が響く。どうやら門を蹴飛ばした張本人らしい。アンドロは襲い掛かってきた反逆者を相手に身構えようとするが、魔王はいつもの自然体で「止めておけ、貴様では相手にもならん」と制止される。
それでもアンドロは警戒を解くことが出来ない。警戒を解いたら、その場で死んでしまうような錯覚に陥ってしまっていたのだ。魔王の言葉は耳に入っていないようである。
魔王がもう一度アンドロに声を掛けようと口を開きかけたその時、門を蹴飛ばした張本人が近寄ってきた。
魔人特有であるらしい白髪をボサボサのまま腰まで伸ばし、前髪で顔を隠している。その髪の隙間から覗く病的なまでに紅い目は、魔王だけを凝視していた。そして口を半月型に歪める。魔王の放つ魔力が、彼女の興味を引いたのだろうか。ぼろきれの様な囚人服を羽織り、まるでアクセサリーだと錯覚するくらいの、様々な形の鎖が彼女の至る所を貫通していた。
地下牢の住人に共通するのだが、その身体には魔王が直々に埋め込んだ、力を封印する鎖を持っている。それがある限り全力を出すことが出来ず、地下牢を脱出される心配もない。今ここで魔王と戦えば、魔王に傷一つ付けることなく死ぬだろう。
彼女はジャラジャラと音を鳴らす鎖を引きずりながら、狂気的な笑みを深める。
「久しぶりだねー、まおー」
「貴様のふざけた喋り方も久しいな。およそ五十年ぶりか?」
「んー、大体そのくらい?ちかろーじゃ時間が分からない」
二人はアンドロを間に挟んだまま会話を続ける。アンドロは魔王の命令で立ち上がる事すら出来ず、かといって地下牢の住人に対して、座るという隙の生まれる行為をすることも出来ない。結果、中腰の辛い体勢のまま、魔王と少女のプレッシャーに板挟みされていた。アンドロの精神がすり減っていく。若干涙目になっているが、彼に救いの手を差し伸べる者はこの場にいない。
「それで、聞いてはいるのだろう?」
「いちおーね、あたしをちかろーから出してくれるんでしょー?」
「そうだ、貴様にとっては吉報だろう」
「そーでもないかも、ちかろーにだって友達はいたよ。まあ、出れるなら出るけどさ」
その瞬間、少女の身体を貫いていた鎖が砕けた。
散らばった破片を少女は踏み潰し、跡形もなく消失させる。
その瞬間、ダムが決壊した様に魔力が噴き出す。その邪悪な魔力を感じたアドロスは、一瞬だけ部屋が真っ黒になったような気がした。
「さて――それでは早速行ってもらおうか。『ヴォラク』」
「あれ?名前覚えてたの?」
「当り前だろう。地下牢において残虐性ならば貴様の右に出る者はいない」
「ふーん、そりゃどーも」
枷が完全になくなったヴォラクは、魔王に負けず劣らずの魔力を放ちながら謁見の間から立ち去る。ストレッチをしながら歩く姿はまさに子供だが、纏う魔力のせいで強大な化け物にしか見えない。廊下の奥に消えていくヴォラクを見て、アンドロの意識が戻る。
このまま町にでも行ったら、「食べ物が欲しかったから」なんて理由で殺人も犯しかねない。それだけは絶対に阻止しなければならないのだ。
気を抜くと歯がカスタネットのように、カチカチと鳴ってしまいそうになる。だが魔王の御前だ。今更だが慌てるわけにはいかない。なるべく優雅に冷静に対処するのだ。
「そ、それでは失礼!」
「うむ」
アンドロはそれだけ言って、なるべく優雅に謁見の間から退出する。
ゆっくりと閉じていく門が完全に閉じた瞬間、アンドロはヴォラクを追うために全力で廊下を駆け抜けるのだった。
◇
「あのな、この作戦ではお前は私の部下なのだ!」
「あーもーうっさいなー、消えてよ」
「ひっ、じゃなくてぇ!わ、私の命令には従ってもらいたい!そして命令だ!これ以上食べるのを止めろ!」
「しょーがないでしょ?美味しいんだから」
「せめてお前の金で払え!」
「お金持ってないよ?」
「だったら食うな!」
魔王城を中心に建設されている魔王街。
水が一切存在しない砂漠にひっそりと建てられているそれは、夜の暗闇の世界で唯一輝いていた。空には飛行系魔物が旋回し、地中にはモグラのような魔物が地下要塞を築き、そして地表には魔族たちの町が暮らす。
戦闘種族ともいえる魔族だが、ちゃんと生産的なこともやっている。外の世界からは全く見れないだけなのだ。商店街のエリアでは夜の静寂とは真逆の喧騒が鳴る。アンドロはこの景色を気に入っているのだ。暇さえあったら買い物でもしていたかもしれない。ただしヴォラクがいなかったらの話である。
魔王城から出て行った二人だが、今すぐ部隊を集めて邪心を討伐しようとするアンドロの意見と、まずは空腹を満たそうとするヴォラクの意見がぶつかった。勿論アンドロの意見の方が爆発四散した。睨みつけられてはトラウマが再発してしまう。
そして食用魔物ガエルの串焼きを10個以上平らげ他のはいいものの、ヴォラクがお金を持っていないことが判明。アンドロがおごる事態になってしまった。更にヴォラクは奢られる事に快感を覚えたのだろうか、調子に乗って商店街の店を全制覇しようと目論んだ。アンドロもそれを予感で察知。どうにか今月の給料に影響が出ない程度に済ませようと阻止を決意。怯えながらも勇気を振り絞ってヴォラク言い争うのだった。
無論、アンドロが言い負かされて敗戦を重ねるだけなのだが。
「邪神かー、強いの?」
「知らん、だからお前を連れてきているのだ」
「ふーん、そっかー、ふひひっ」
アンドロは背筋が氷に当てられたような悪寒が走った。
ヴォラクはどう考えたって危ない声を出している。またトラウマが再発しそうだが、ここは商店街、人がたくさんいるのだ。そんなところで無様を晒せない。
泣け叫びたい気持ちをぐっと抑え、代わりにうめき声。それだけでも周囲の人には不気味に思われているのだが、悲しい事にアンドロは気付いていない。
「とにかく、これを食べ終わったら作戦開始だ」
「はいはーい」
そして二日後、アンドロ達は部隊を揃え、古城へと攻めて来たのだった。
◇
一方、古城の面々は、
「え!?え!?どこどこ魔人どこ!?」
「バッカあそこだよ!ほらなんか月が紅く光ってるだろ!?そこの真ん中辺にホラ!」
「ん!?……ああ!いたいた!やっべーめっちゃ緊張してきたー」
「いやいや、俺たちは非戦闘員だから戦ったりしねーよ」
「それもそうか!――ん?」
「「「「「キタ―――――――――」」」」」
男子校の文化祭で女子高生が来たレベルの大騒ぎが起こっていた。小学校の校庭に野良犬が迷い込んだ時に起こる、小学生たちのざわめきにも近いかもしれない。
危機感もなにも存在しない。邪神教徒たちは窓やテラスから月をバックに転移してくる魔人たちを前に、自分たちの服装や髪形を意識し始めた。ちなみに邪神教では制服的な者は存在せず、邪神教徒全員が私服であり勝負服であった。髪形も自由だ。中にはモヒカンにしてきた邪神教徒もいたが、エマに「風紀が乱れてます!」と説教され、丸坊主にされた者もいた。坊主頭の邪教徒は今現在涙目であることは、描写するまでも無いだろう。
魔人たちは古城から少し離れた所から転移してきた。きっと転移してきたと同時に、モグラ叩きのように先制攻撃されることを恐れたのだろう。その判断は悪くは無い。ただしそれは、邪神教に時間を与える結果となった。
ほとんどの邪教徒は魔人たちを見物にしているが、幹部クラスの邪教徒と夜市だけは、広間で作戦会議を行っていた。
「魔人見に行きてぇぇぇええええ――――!」
否、幹部たちは他の邪教徒と共に悪魔を見ようとする夜市の首根っこをエマに捕まえられ、叱られた猫のような状態のまま喚いていた。
幹部たちとしても、夜市がいても邪魔なだけなのだが、それでもこの戦いにおいて総大将と呼べるのは間違いなく邪神教の象徴である夜市だけである。そんな夜市が魔人を見に行って作戦会議に出席しないなど、世間体を考えると論外だ。もし魔人たちの襲撃を受け、万が一、億が一にも死亡されたりでもしたら、そのまま邪神教は消滅。邪教徒たちは散りじりにになってしまうだろう。
それでもひょっこり生き返ったりするのが夜市なのだが。
「おっほん!」
古臭い老人のような咳をエマがした所で、作戦会議が始まった。
作戦会議などと称してはいるが、要は防衛エリアを決めるだけである。
そもそも幹部クラスの大半が個人戦闘のエキスパートだ。広範囲の攻撃を扱う者にとっては、味方など攻撃の的になってしまうだけだし、早さを生かして戦う者にとっても、味方の存在は動きを阻害するものだ。それを何とかカバーして戦うのが本来の戦争という物なのだが、生憎と邪神教には孔明ポジションなど存在しない。大抵が個人戦闘しかやったことが無いのだ。
そんな邪神教が考え付いた作戦など、至ってシンプル。
――各自防衛エリアで待機し、攻めて来たらぶちのめす!
最早作戦と呼んでもいいのか疑うような作戦内容だったが、幹部たちにはこれだけでよかった。無駄に細かい作戦では、自分勝手に暴れられないからだ。
要は防衛エリアの範囲内だったらどれだけ暴れようと「魔人がやりました。悪いのは魔人です」で通るのだ。間違ってはいないのが巧妙である。
幹部たちは魔人たちとの戦闘に備えて椅子から立ち上がる。
「まず言っておきますが、この戦闘はあちらから仕掛けてきたものです」
エマが口を開く。その言葉の内容自体は幹部たち全員が知っていた事ではあったが、それでもエマの話を聞いている。無視してお仕置きを食らうのが怖いのも若干理由に入ってしまうが、それ以上に幹部たちも魔人が攻めてきたことに対して、それなりに怒りの感情があったからだ。だからこそ、自分たちのもう一人のトップの話を聞いている。
「だから、遠慮する事なんて一つもありません。思う存分虐殺してください。気が済むまで惨殺してください。それでこそ邪神教なのです!」
エマの言葉に、幹部たち全員の顔に笑みが零れる。エマからの許しは完全に得た。確かに言ったのだ、攻めてきた奴らが悪いのだと。幹部たちの枷は完全に外れた。もう言い訳の理由を考える必要性が無くなったのだ。
「はぁ、なんだか面倒なことになってしまいましたね」
集まった幹部の中で唯一あまり乗り気では無い、古城唯一の料理人。
かつて邪神に半殺しにされ、堕天してからは邪神教に入信、半ば邪神と友達と化している堕天使。
ツッコミ担当、オロバス。
「まったく、実験の最中だったのに、間が悪いわね。腹いせに新魔法でも奴らに試してみようかしら?」
仮面を付けた大書庫の司書。
その知識欲と頭脳は、日夜様々な魔法を生み出し続ける。
ドS系悪魔、ルキヘラ。
「魔人が攻めてきた――庭園の危機、という事ですね。だとしたら、それはボクの命を奪うのと同義です。そんな事は容認できません。抵抗します」
古城の中庭で農業を営む、邪神教徒の胃袋を実質支配している農家。
無表情ボクっ子の美少女妖怪。
クールビューティー園木。
「悪いのはあっちなんですよぉ、だったら――ブチコロシマス」
なんだか危ないことを口走る、邪神教の教主。
邪神の加護自体は受けているが、その身体は純人間。
恐ろしさだったら邪神教一、エマ。
「え?戦うとか嫌だよ?そんなめんどくさ――イタタタタタタっ!」
参戦をナチュラルに拒否してエマからお仕置きを受ける、史上最恐(?)の邪神。
尊厳が皆無でありながら邪神教の神。
身体は中学生、頭脳は幼稚園児、その名は夜市。
邪神教現最大戦力のオンパレードである。
これから世界征服を始めると言っても、世界中の人が信じてしまうであろう光景が、そこには広がっていた。
人間であるエマは強いのか?という意見はあるだろうが、幹部たちはエマの恐ろしさを身に染みて感じた事がある。
邪神の加護があるため、人間であるにも関わらず邪神の力の一端を使用でき、勝利のためにはウサギを全力で狩るライオンの如く、圧倒的な差を見せつけて精神を折った上で倒す。
邪神よりも邪神らしい人間だ。本人は否定しているが、これは邪神教徒全員の共通認識である。本当はエマが邪神なのでは?という噂が邪神教内で真剣に流れた事すらある。しかし、そんな噂は夜市の本気を見ればすぐに否定できるのだが。
オロバスは古城の一番高い塔を守る。
魔人側から見たら右の方向に設置されており、それを倒せば瓦礫で回りの建物も崩せるだろう。魔人は転移魔法で移動できるため、古城内であればどこにでも出現できる。だからこそ重要な地点から重点的に守る必要があるのだ。
ルキヘラは大書庫で研究をしながら、もし魔人が来たら迎え撃つ程度である。
大書庫には様々な魔導書や歴史書が並べられており、オークションで売却すれば周辺国家の総資産にも匹敵する貴重性である。それを守るためには、大書庫にいた方が都合がよい。――という建前で、単にルキヘラが研究をなんとが続行したいだけなのだ。
園木は庭園を守る。
庭園も大書庫に並ぶ重要地点だ。もしもそこを燃やされたりでもしたら、邪神教の食糧難は避けられないだろう。もしかしたら夜市が何とかしてしまうかもしれないが、やる気を出さない場合もあるため、念のため防衛する――というのもやっぱり建前で、やはり園木は庭園に居たいだけだ。
エマは教会を守る。
邪神教の祈りの場はやはり守らなくてはいけない。唯一と言ってもいい割れていない窓ガラスは、ここの教会だけなのだ。エマは何とかここだけでも守りたいと思って、教会を守る事となった。
夜市は自由に動き回り、見つけた魔人から倒す事にした。
夜市を一つも場所に留まらせておくのは実質的に不可能だ。だからこそ、夜市を自由に動き回らせて魔人を倒させた方が、効率がいいとエマは計算した。
実際、その方が夜市としても楽だった。万が一魔人が来なかったら、自分は貴重な時間を待つだけで過ごす事になってしまうからだ。
「よーし、そんじゃ戦争だー!」
夜市の間抜けな声と共に、各自配置についた。
そして同時に攻撃を開始する魔人。
邪神教対魔人の戦いが、幕を開けた。
◇
「まあ、この塔は一番高いから眼につきますよねぇ。だからって、これはアリですか」
塔の上に立つオロバス。
彼はすでにエプロンを脱いでおり、今は黒いコートを着ている。
そして背中には堕天使の象徴である黒と白の翼。オロバスの右手側にあるのが白い翼であり、これによって天使の力を微弱ながら扱える。そして左手側にあるのが黒い翼、こちらは悪魔の力を扱うために生えている。どちらの翼も堕天使の戦闘には欠かせない武器であり、誇りでもある。
ポケットに手を突っ込みながら静かに佇むオロバスを囲むように、魔人の集団が空中で立っていた。空歩と呼ばれる魔人の種族スキルの一つだ。これによって翼が無くても空中を移動できる。
ざっと見ただけで五十体。
それなりに魔人の勢力は大きいらしいとオロバスは分析する。かといっても、オロバスは自分の勝利に疑いは持たなかった。
翼を広げる。
自分の身長ほどもある巨大な翼は、普段は小さく折りたたんで服の中に隠しているが、この時だけはのびのびと開く。
まるで天空の支配者であるかのように、威圧感を伴って舞い上がる。
その衝撃だけで音速を突破し、塔にダメージが入らない程度にソニックブームを発生させた。
同時に天使が扱える天法と、悪魔や魔人が扱える魔法を同時発動する。
背後には白く輝く魔法陣と、黒く輝く魔法陣が浮かび上がる。魔人たちはその光景を見て冷や汗を流す。
魔力の桁が違う。魔人たちの魔力保有量を一だとすると、確実に百以上の魔力を魔人たちは感じ取った。だが、こちらは五十の仲間たちがいる。単純に考えるとそれでも二倍の開きがあるが、数の多さで有利になる事はそれだけでは無い。自分が敵に狙われる可能性も五十分の一になり、手数は五十倍になる。自分たちは数で圧殺すればいい。魔人たちは高を括ってそれぞれの武器を構え、魔法を発動する。
オロバスはその様子を冷静に観察する。
兵の練度は悪くない。威圧してみたが一瞬怯んだだけで、その後は動揺する事無く武器と魔法を発動したのは高評価である。隙も少ない。一人でも邪神教に入れば、戦闘力でそれなりの上位に食い込むだろう。とは言っても、それは「まあまあ強い」程度なのだが。
魔力を個体化して武器を作った。
右手には白い槍。左手には黒い大鎌。
オロバスは魔人たちを見下しながら話す。子供に言い聞かせるように、ゆっくりと丁寧に、穏やかに囁いた。
「さて――降伏するなら言ってください。無抵抗な者を殺す趣味は無いですからね」
◇
「何ともめんどくさい事になったわね」
「そう言わないでくれるかい?僕だって、上司の命令でここに来ているんだよ?」
「上司に恵まれなかったわね」
「本当にそう思うよ。上流貴族である僕が、ちょいと実力があるからって第四部隊の隊長に任命されたあいつに命令されなきゃいけないなんてさ。知ってるかい?僕って実家ではプリンスって言われてるんだぜ?王子様のように美しいって意味だ。僕にぴったりだろう?」
「わたしも対戦相手に恵まれなかったわね」
「ハッ、辛辣だね。でもそういうのもいいよ。屈服する姿が楽しみだ」
「残念。あんたは豚のコスプレをして、私の椅子として余生を謳歌するのよ」
「言葉遣いに気を付けろよ。君が魔族とは似て非なる存在、悪魔だからこそ希少価値とかを考えて、特別サービスで優しくしてあげてるんだぞ」
「ああごめん、私はあなたに希少価値なんてこれっぽっちも感じてないから」
悪意が大書庫に充満する。
会話をしている人物の一人はルキヘラである。
何時もの様に仮面を付けて、余裕の様子でドS発言をかましている。
もう一方の人物はエーミルという魔王軍第四部隊副隊長だ。
白い肌に赤い目。白い髪はパーマでもかかっているのか、くるくると肩程度まで伸びている。まるで音楽室に飾ってあった音楽家の肖像画のような髪型だ。確かアレのほとんどはカツラだと聞いている。
魔界の上流貴族に分類される魔人であり、実力も知れなりにあるのだが、いかんせんプライドが高い。これは貴族ならばエーミルに限った事では無いのだが、エーミルは輪にかけてひどいのだ。
自慢らしい巻き毛の白髪を指に絡みつけ、足を組んで魔法によって出現させた椅子に座る。身から滲み出る傲慢さえなければ、それなり美青年なためそれなりに絵になるが、ルキヘラにとって重要なのは、目の前にいる生物が興味深い物なのか、それとも平凡な俗物なのかだ。
実のところ、もうすでにルキヘラはエーミルに見切りをつけている。身体から無意識に放出される魔力は決して平均的な魔人の魔力を下回る事は無いが、逆に言えばそれまでだ。特出して優れたものなど一つも無く、その口から吐き出されるのは自分の家の自慢ばかり。もう少し知性的な事でも話してみたらどうだ、とルキヘラは思う。
まあ、それもこいつからしてみれば無理な話なのだろうか。だとしたら失礼なのはこちらなのかもしれない。獣に礼儀を要求するなんて、考えてみればとても非生産的な事だった。
ルキヘラはそう結論を出して、ソファーから立ち上がる。
エーミルはやっと戦いが始まると思ったのだろう。端正な顔に凄惨な笑みを浮かべ、魔法を発動する準備をする。
そして自分に絶対の自信を持つエーミルは、余裕の表情で火ぶたを切る。
「この僕に向かって不敬を働いたこと、死んで後悔させてやる」
「この私に向かって不敬を働いたこと、生きたままモルモットとして人体実験して、生まれてきたことを後悔させやるわ」
若干ルキヘラの方が恐ろしい事を言いながら、大書庫は閃光に包まれた。
◇
「ボクの相手はあなたですか」
「アア、だけどイガイだったよ。まさかオマエみたいなヨワッちそうなヤツが、オレサマをトめられるなんてオモってるコトがよぉ」
庭園、園木が守るエリアには、巨木のような魔人が佇んでいた。
ガンベルと呼ばれる、自称魔王軍第四部隊切り込み隊長だ。本当はただの隊員であり、役職などは無い筈なのだが、ガンベルは「ナニカ、オレサマにふさわしいナがヒツヨウだろ?」という理由で切り込み隊長という架空の役職を自称している。
白い肌に白い髪。短髪に刈り上げた頭には生々しい火傷や切り傷の後が残っている。それなりに歴戦であることの証明なのだろう。それとも、何も考えずに突っ走ってその結果刻み込まれた、恥に等しい傷なのだろうか。園木としては判断しかねるが、どちらかというと後者の方が確率が高そうだと思った。人の上に立つような人材にはとても思えないからだ。
筋肉質な体はグロテスクなほどにピクピクと蠢いており、オイルでも塗っているのかテカテカと太陽の光が反射する。肌が白い事も相まって、鏡のようである。
正直言って、非常に気持ちが悪い。邪神の方が見た目が良いだけまだマシである。
園木の汚物を見るような目に気付いていないのか、ガンベルはボディービル選手の様に筋肉自慢のポーズをとり続ける。そのたびに踏まれ続ける草を見て、園木の怒りが爆発した。
「……それ」
「あ?、クサ?これがナンだってんだよ」
わざとなのか、それとも天然なのか、更に草を踏みつける。草は茎からぽっきりと折れており、回復は不可能だと思われた。
園木の額に青筋が浮かび上がる。妖気が溢れだし、緑色のオーラが園木を包む。
「踏みましたね?折りましたね?殺しましたね?ボクの子供たちに許可なく危害を加えるなんて、殺されたって仕方ありませんよねぇぇぇ!」
園木は刀を抜いた。銀色に光る刃先はガンベルをまっすぐ捕らえており、園木のガンベルによる殺意が伺われた。なぜ怒られたのか理解できなかったガンベルだが、攻撃される一歩直前ともなれば、戦闘態勢に入らざるを得ない。
両手に魔力を集めて強化する。魔力を扱うものならば出来て当たり前のスキルだが、ガンベルはこのスキルに特化した才能がある。普通は握力が強くなるだけの強化は、肌を硬化して斬撃を防ぎ、骨を硬化して打撃を防ぐ効果を得た。
ガンベルはそれを全身で発動する。瞬く間に鉄壁の防御力を獲得したガンベルは、またもやボディービルのようなポーズをとって構える。そのたびに踏まれ続ける草花たち。園木の怒りメーターはとっくに振り切っていた。
「殺す!」
「イイねぇ、オレサマをタノしませてくれよ!」
園木はガンベルに向かって、銀色の刃を振り下ろした。
◇
虹色のステンドグラスが太陽の光で輝く。醜悪な怪物を表した銅像がぽつんと置かれている教会には、跪いて銅像に祈りを捧げている少女と、それを不気味そうに眺めている青年がいた。
言うまでも無く、エマとアンドロである。
エマは両手を絡ませて銅像に向かって祈っている。この部分だけを切り取れば、信心深い美少女が祈っているだけの光景なのだが、銅像の方はまるで肉の塊のような怪物である。何ともアンバランスな光景だとアンドロは思った。
だがしかし、この祈りを邪魔するのも相手に悪いとアンドロは思った。戦う相手にもそれなりの敬意を示すのが、アンドロの戦闘スタイルである。そしてこの場での敬意とは、この祈りを邪魔しない事だ。アンドロはひび割れた壁にもたれかかって、エマが祈る光景を眺めていた。
エマは魔人であるアンドロから見ても、絶世の美少女である。その少女を手にかけるとなると、軍人としてのプライドと、生物としての良心が痛まないわけでは無いのだが、この作戦での目標は邪神教の殲滅である。魔王の指示もあるため、教主であるエマを殺さないわけにもいかないのだ。
どうやって苦しまずに殺してあげるかを考えていると、エマの肩がピクッと動いた。どうやらアンドロがいた事にすら気付いていなかったようである。それほどまでに祈りに集中していたのだろう。なんだか不憫な気持ちになったアンドロは、せめてもの情けで遺言でも訊こうとした。しかし、アンドロが口を開いた瞬間、エマの身体から莫大な邪気の爆発的な放出を感じた。
その邪気を感じた瞬間、アンドロから心のどこかにあった余裕の感情が消え去った。心臓をひと掴みされたような感覚に陥り、一気に冷や汗が噴き出る。邪気を視認できてしまったアンドロは、一瞬だけ視界が黒く染まり、目の奥が抉りだされる様な痛みを感じた。
だが、それも一瞬の事だ、歴戦の戦士としての誇りと矜持が、アンドロが痴態を晒しそうになる感情を押さえつけた。
こちらも魔力を放出して対抗する。エマから噴き出る邪気には遠く及ばないが、それでも軽減する事はできる。先程のままでは冷静な思考が出来ない。それは死へと直結する事は、人間との戦争で嫌というほど理解している。
まずは冷静な思考をして、気合を入れる事こそ重要なのだ。魔法を付与した剣を抜く。紫色に輝くその魔法剣の効果は、保有者の精神を落ち着かせ、外部からの精神干渉を遮断する事である。これによって冷静な思考を取り戻したアンドロは、エマを何とか直視できるほどにはパニックから回復した。しかしそれでもエマの危険度が下がったわけでは無い。むしろエマの邪気は秒刻みで増大している様だった。
「ここは邪神教の教会です。そこに土足で立ち入るなんて、許されると思ってるんですか?」
言葉遣いこそ丁寧だが、その言葉の裏に隠された憤怒は隠しきれていないようだった。自然と声が震え、その目は誰がどう見たって殺気立っている。同時に吐き気を促す様な邪気が収束していく。霧のように不規則に漂っていた邪気が、個体として集まったのだ。
それは、紛れもなく剣だった。
邪気を押し固めて圧縮し、形作って磨き上げた剣。アンドロはその剣を見た瞬間、胃の中が沸騰したような感覚に襲われた。せり上がる胃酸によって喉が焼け、酸っぱい味が口内に広がる。それほどまでにその剣から放たれる邪気は、アンドロの精神を削る。
魔法剣の効果なしだったら、きっと今の時点で発狂していただろう。アンドロは今の状況をそう分析した。流石は邪神教の教主である。その強さは折り紙付きだ。戦ってすらいないのに、ここまでダメージを食らってしまった。このまま戦ったところで、自分が不利になるだけだろう。
だが、それでもアンドロには任務がある。せめて刺し違えてでも、この教主だけは殺さないといけない。邪神も危険だが、この少女だって十分危険だ。アンドロはエマをそう認識した。この存在も、我が主である魔王にとって障害となる存在だと、認識したのだ。
正直に言えば、怖い。多分死ぬだろう。生き残る格率など皆無だろう。だがそれでも、希望が無いわけでは無い。きっと邪神は魔王が討伐してくれる。第四部隊の隊長だって、誰かが自分の代わりに上手くやってくれるだろう。副隊長のエーミルの傲慢さだけが唯一の心配だが、そこら辺は目を逸らそう。
だからこそ、ここは決死の覚悟で挑む。せめて道連れに、教主の命くらいは奪いたいものだ。
「貴様の命、私が頂戴する!」