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 勢いよく目を開けた。眉毛がくいっと上がる感覚でさえ感じた。

 うまく身動きが取れない。手と手がくっついて離れず、背中にある。

 なんだこれ?どういう状況?


 辺りを見回すと、目の前には荘厳な椅子に深く腰を掛ける王様らしき姿が。

 ごみを見るような目でこちらを見下ろしている。

 王様らしき者の横には、それぞれ武器を持った男が三人、同じような目でこちらを見下ろしている。

 かくいう俺は、両手を腰のあたりで縛られ、足首も同じように縛られ、王様に向かって膝をついて頭を垂れている状態だった。

 なにこれ、そういうプレイ?


「やっと目を覚ましたな、クズめが!」

「はい…?」


 急に王様に罵声を浴びせられた。さすがにこれは意味が分からない。

 夢か?夢なのか?


「自分のした行いが、どれほど惨いものなのか、貴様は分かっているのか?」

「あの、さっきから一体何を…」

「とぼけるなクソナス!」


 クソナスって…独特な悪口だな。

 すると今度は、王様の横に立っていた三人の男のうちの、槍を持った男が一人、俺のところへ近づき、雑に髪を引っ張り上げた。

 

「痛っ!」

「よぉ、お前。自分のした行いに責任感じてんのか?あァ?」

「なんだよてめぇは…」


 俺は半ギレで男の顔を見る。

 赤みがかった茶髪に、チンピラのように跳ね上がった眉毛。

 割と男前だが、この態度は何だ?

 そして、もう一つおかしな点に気付いた。

 男の頭上に、何か四角いものが表示されていた。



 タカノマサヒロ Lv.1



 タカノマサヒロ?誰だ?日本人?レベル1って何のことだ?

 よく見ると、辺りにいる人間の頭上には、同じように四角い枠の中に文字が書かれていた。マサヒロという男以外は、文字が読み取れない。


「俺たちは選ばれた誇り高き勇者だぜ?それをよくもまあ、あんなことができるなァ!」


 マサヒロはそう吐き捨て、俺の顔にビンタをくらわす。

 ビックリするほどいい音がした。急に何しやがる。

 無抵抗の相手に思い切り平手打ちとはいい度胸だ。しかもてめぇ、きたねえ唾が飛んでんだよ。


「さっきから何言ってっか全然わかんねえんだけど。ここはどこだ?」

「うむ、どうやら白を切り続けるようだな。ならば今一度説明し、目を覚まさせてやろう」


 そいつはありがたい。俺もこの理不尽の状況を把握しないとおかしくなりそうだ。


「まず貴様を含めた四人の者たちが、魔王を倒す勇者としてこの世界に召喚された。我々は勇者四人に伝説の武器を与えた。貴様を含む四人の勇者は、二時間にわたる交渉の末、魔王を倒すと約束をした。そこまでは覚えているか?」

「待てよ、最初からわけわかんねえよ。なんだよ勇者って。俺は大学生だぞ?」


 こいつは本当に何を言っているんだ?

 もしかしてさっきまで俺の記憶の中にあった、光のウォータースライダーの途中で聞こえたあのドスのきいた声。

 あの声が言っていた『エラバレシユウシャ』と何か関係があるのか?


「じゃが貴様は、召喚後二日目にして、我々が与えた軍資金を援助交際やギャンブルに使用した。挙句の果てには、その愚行を注意した我々に拳を立てた。そんなことが許されると思っているのか?」


 王様の怒りはピークに来ているようだが、こっちの怒りもそろそろ頂点に達しそうだ。

 援助交際?ギャンブル?軍資金?こいつはさっきから何を訳の分からないことを…。


「全部記憶にないな。お前ら、捕まえる相手を間違えたんじゃねえか?」

「それはあり得んな。貴様に金を渡され、無理やり性交を強いられた者の証言だ」


 王様はそう言うと、傍らに立っていた女を手で示した。

 赤い長髪を靡かせた女。手に口を当て、涙を流している。

 悪いがそんな女は俺の好みではない上に、俺はそんな女知らない。


「俺はそんな女知らない。お前らのことも知らねえし、勇者だの魔王だのも知らない!!」


 俺のこめかみに、硬い拳が降り注いだ。骨が軋む音がした。

 俺は床に叩きつけられ、みぞおちを複数回蹴り上げられる。

 何だこれは。


「とぼけんのもいい加減にしろ!素直に認めりゃ許してやらんこともないと、国王様は言っておられるのだぞ!」


 先ほどの、マサヒロという男だ。

 こいつは何だ?さっきの話が本当だったら、俺と同じように別世界から来た人間のはずだ。

 同じ境遇の人間同士、なぜ辻褄が合わない?


「がっ…!」


 そろそろ本気で体がヤバそうだ。

 口の中はすっかり鉄の味が広がって、体の至る所の感覚がなくなりつつある。


「もうよい。この者は罪を認める気などないのだろう」


 王様がそう言うと、俺を取り押さえていた男が、俺の髪を引っ張り、俺をどこかへ連れて行こうとする。ふざけるな、俺をどこへ連れていく?


「おい!てめぇらどういうつもりだ!」

「貴様などに勇者としての待遇を与える必要はない!二度とこの城に足を踏み入れるな!」


 抵抗するたびに体のどこかしらが痛い。

 多分アバラは折れてるだろうな、何となく分かる。

 意識もだんだん遠のいていくのが分かった。


 分からない。誰を恨んだら良い?

 国王か?勇者か?それとも…魔王か?


『ワタシノ、エガイタ、シナリオハ、タノシメテ、モラエテルカナ?』


 あの時の、ドスのきいた声が再び俺の耳に入った。

 俺は失いかけていた意識を取り戻し、辺りを見回す。

 声の主は見つからない。


『ホンライ、オマエハ、エラバレシ、ユウシャ、トシテ、ホカノ、ユウシャト、トモニ、マオウデアル、ワタシヲ、ホロボス、タメニ、タタカウハズ、ダッタ』

「…けんな」

『ダガ、ワタシガ、オマエダケニ、ノロイヲ、カケ、アリモシナイ、ツミヲ、カブラセタ』

「ふざけんな…」

『オマエハ、ユウシャ、トシテデナク、アワレナ、グミントシテ、ワタシノ、エガイタ、シナリオノウエデ、コロガサレル、ダケダ』

「ふざけんなっ!」


 そもそも勇者だなんてのがおかしな話だ。

 俺は勇者なんかになりたいとは思わない。誇りだのなんだの、そんなものは知ったこっちゃない!

 この世界がどうなろうが、知ったこっちゃない!

 それがなんだ?勇者になることもなく、こんな目に合って…。

 俺が何をした?魔王、お前の所為か?


「お前の所為かぁ!?」


 とりあえず叫んだ。だが魔王から返事はない。

 やがて俺は本当に気を失った。







 ガタン、ガタン、という音が、不規則なリズムで耳に入る。

 その度体は上下に揺れ、痛みが走る。

 その痛みと音で、俺は目を開けた。


(かしら)!こいつ、目を開けましたぜ!」


 ダサい声が聞こえた。

 すると、ガタンガタンという音は止み、俺の体の揺れも止まった。

 俺は何か乗り物のようなものに乗せられていたのかもしれない。


「おいお前、大丈夫か?」


 俺の体に手が触れた。

 俺はその手の主をしっかりと目に焼き付ける。

 髭を生やし、頭にターバンを巻いた怪しい男。なんだ、俺は誘拐されたのか?


「まだ、体は痛むか?」


 そう言われ、自分の体を見ると、上半身の服は全て脱がされ、綺麗に包帯が巻かれていた。

 包帯に微かに血が滲んでいるのが分かる。

 それを見て俺は、あの国王と勇者共の顔を思い出した。


「ここは、どこだ?」

「ここは行商の馬車の荷台の中だ。今は止まってるけどな」


 行商…?俺は行商に拾われたのか?


「それよりお前、一体なんだってあんなところに?」

「あんなところ?」

「ああ。この辺の森は危険の多い魔物がウジャウジャいる。物好きな冒険者がレベルアップの為に足を踏み入れるダンジョンだ。お前みたいな無防備な男が、なんであんなところに?」


 そうか、俺は多分、あのまま気を失って、その危険な森とやらに捨てられたんだろう。

 殺さず生かしておいてくれるとは、あの国王はどうも甘っちょろいな。


「いろいろあった。俺もよくわかんない」

「ハッハッハ!お前、なんかすげぇ顔してるぜ!」


 散々殴られたからな…っと、この男が言っているのはそういうことではないか。

 なんだ?俺は涙でも流してるってのか?

 ふざけるな、俺はこんなところで泣いてなどいられない。


「俺はこの行商の頭のアーボンってんだ!よろしくな!」

「俺は、嘉浩だ。よろっ――――…痛っ!」


 自己紹介をしただけでこの痛みだ。まったく、どんだけ殴ったんだあの野郎共は。

 アーボンは自分の名だけ名乗り、どこかへ消えてしまった。

 馬車を置いて行ったということは、多分また戻ってくるだろう。


 一先ず、あの忌々しき魔王の声のおかげで、自分の置かれた状況をやっと理解できた。

 俺は選ばれし勇者としてこの世界に召喚されたが、魔王とやらに俺だけ呪いをかけられ、ありもしない罪を被り、今こんな状態だってことだ。

 それもすべて、魔王のシナリオ…。


 俺は魔王の遊びに付き合わされてるってことだ。

 そういう意味で俺は、そのシナリオとやらの主人公だな。


 



 暫くして、アーボンが戻ってきた。

 俺は疲れからか、再び荷台の中で深い眠りについた。


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