第56話 トゥ・ディア・フレンズ・フロム・ロッド
「待ってください! それでは……それでは、あたしのこれまでの苦労は全て無駄になるのですか!?」
突然、神上未咲が叫んだ。
「無駄って何のことだ?」
「あっ……」
俺が質問すると、神上未咲はオロオロした。
「そうなるな……。嘘をついてまで、伊阪に近付いたことが……」
飯地が神上未咲に静かに言った。
嘘!?
嘘って何だよ!?
「飯地、未咲……。お前たちが言っていることの意味が全然分からないぞ!」
俺には飯地と神上未咲が何について話しているのか、全然分からなかった。
「すみません、竜司先輩……。実は、竜司先輩と飯地先輩が喋っている部分の監視カメラのデータというのは、存在しないのです」
神上未咲が衝撃の発言をした。
「何で、そんな嘘をついたんだ?」
不思議と怒りは湧かず、代わりに疑問に感じた。
「それは……」
神上未咲は少し戸惑ってから、決心したように俺に向かって言った。
「竜司先輩が……好きだからです!」
一瞬、俺の思考が停止した。
今、何て言った!?
「嘘をついてすみません。困っている竜司先輩を放っておけなくて……でも、どうやって近づいたらいいのか分からなくて、嘘をついて近づきました」
神上未咲が真剣な表情で言った。
「それじゃあ、未咲が言っていた神上達雄に認めてもらいたいってのは……?」
確か、神上未咲の目的はこれだったはずだ。
「それもありましたけど……でも、竜司先輩を助けたかったのです!」
神上未咲は、後半の方を強めに言った。
「まさか、伊阪……。神上未咲がお前の事を好きだってことに気づいてなかったのか?」
飯地が俺を呆れた顔で見ている。
「お前は気付いていたのかよ……」
「ああ」
俺の質問に、飯地が即答した。
まるで、俺が鈍いみたいじゃないか!!
「そういうお前は結城のことが好きなんだろ? 生き返らせようとするくらいなんだから……」
俺は飯地に仕返したくなった。
「は?」
だが、飯地からは素っ頓狂な声が返ってきた。
え?
「何を言っているんだ? 俺が結城を生き返らせようとしているのは、結城が好きだからじゃないぞ」
飯地は実に淡々と俺の仕返しを封じてきた。
「結城が友達だから……。結城が『神上家』に利用されたのが許せなかったからだ!!」
飯地が静かに、そして強く言った。
「好きとかそういう感情以前に、結城は1人の友達だ。その友達を薄汚れた大人に利用されたままにしておいて良いのか!!?」
「良い訳がない……」
俺は飯地の問いに、即答した。
俺が飯地と同じ立場だったら、間違いなく飯地と同じ思考になっていただろう。
そして、多分飯地と同じ行動を取っていただろう……
「そういうことだ」
飯地がそう言うと、周囲を飛んでいる白い粒子の量が増えた。
「結城が生き返った世界でまた会おう」
「ああ。そうだな……」
俺は飯地に返事をすると、神上未咲の方に振り向いた。
神上未咲には、お礼を言わないと……
「未咲、今までありがとうな。未咲のおかげで、俺は飯地の目的を知ることができた」
俺が神上未咲にお礼を言うと、神上未咲は笑顔になった。
「こちらこそ! 竜司先輩のおかげで、この町の真実を知ることができました!」
神上未咲がハキハキと答えた。
「ところで、竜司先輩はあたしのこと、好きですか?」
そして、顔を赤らめながら俺に訊いてきた。
神上未咲には、何度も言いなりにさせられた。
そのせいで、俺の心はズタボロだ!
だが、神上未咲のおかげで俺はここまで来れた。
神上未咲がいなければ、この事件に対してただ疑問に思うだけで、終わっていただろう。
それに、神上未咲の明るいところは嫌いじゃない。
「ああ……大好きだよ……」
俺は静かに答えた。
途端に、俺たちが立っていた『神上家』の屋敷が白い粒子になって消滅した。
これで、結城の死から始まった『杖』の事件は無かったことになるのか……
神上未咲と共に、過した日々も……
「では、竜司先輩!」
白い粒子が飛び交う中で、神上未咲が笑顔で言った。
「今までありがとうございました!」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。




