第55話 リコンストラクション・ロッド
「とうとう、最後まで気付かなかったな……」
突然、飯地は『杖』を振り上げた。
『杖』に付いている玉が光る。
「何をするつもりなんだ!?」
俺は飯地の突然の行動に戸惑った。
「決まっているだろ。結城のために、これから木丈霞町を生贄とした儀式をする!」
木丈霞町を生贄にするだって!?
「竜司先輩! 外を見て下さい!」
屋上の隅の方から、神上未咲が俺を呼んだ。
言われた通りに、屋上から外を見てみると、信じられない光景が広がっていた。
木丈霞町一帯に魔方陣が張られ、だんだんと木丈霞町が消えていく……
「何だよ……これ……」
俺は消えていく町を見ながら呟いた。
結局、飯地の目的は木丈霞町の破壊だったってことか!?
「飯地……嘘をついていたんだな……」
俺は握りこぶしを作りながら言った。
「嘘?」
「やっぱり、木丈霞町を破壊したかっただけなんだろ!!」
怒りが込み上げてきた。
「ハァ……。俺はあくまで木丈霞町を生贄にするだけだ。目的は別にある……」
だが、飯地から返ってきたのは呆れたという感じの声だった。
「だから何なんだよ! その目的ってのは!!」
俺は飯地の目的が知りたくて知りたくてしょうがなくなった。
ここまで来て、飯地の目的だけ分からないのかよ……
「お前、知っているか?」
「だから、何を!」
「この町は、何回か『杖』によって都合の悪い出来事を無かったことにしているみたいだぜ」
唐突に飯地が木丈霞町のことを話した。
それが何だって言うんだよ……
「有名な奴だと、焼き払われた軍事工場を『魔女』が『杖』で時間を戻して復元したってやつかな」
飯地はまだ木丈霞町の話をしている。
だから、それが何だって言うんだよ!
確かにその話は木丈霞町でも有名だし、アレックスさんも似たようなことを言っていた。
だが、それが本当の事かどうか分からない……
いや……
まさか!
「お前、時間を巻き戻して結城を生き返らせようとしているのか!?」
俺は飯地の目的に気が付いた気がした。
今まで飯地がずっと「結城のため」と言っていたのにも、これが目的ならば説明が付く。
「実際には、過去の時間の木丈霞町に作り変えて、だけどな」
飯地が俺の発言を認めた。
「何で今まで黙っていたんだよ……」
「言っただろ。俺が言って、お前が理解できるかって……。お前がここまで来たから、俺はようやくお前に目的を話せた」
飯地は何だか悲しそうだ。
「お前、俺を試していただろ……」
今にして思えば、そうとしか思えなかった。
飯地は、邪魔をするなら誰だって殺すと言っていたが、俺は1度も殺されなかった。
飯地の邪魔をしたのに……
「実のところ、お前が記憶を失くさなかったのは、俺にとって救いだった……」
飯地の顔が、俺の知っている飯地の顔になった。
「結城の記憶を消して、自分が孤独になったことに気づいた。その後、お前が結城の死について調べ出しているのを知って、会いに行った。だが、お前にこれまでの事情を話しても、理解してくれるとは到底思えなかった……」
じゃあ、俺が『魔女』の社に行った時に飯地が現れたのは、俺に本当のことを話そうとしていたからか……
「確かにあの時の俺じゃあ、お前の言ったことを信じなかっただろうな……」
俺は過去の自分を振り返って言った。
ここまで調べなければ、『神上家』の本性や飯地の目的には、到底辿り着けなかっただろう。
「俺が手助けしてやった部分もあったが、結城の末路を知る人物がもう1人できて俺は嬉しかったよ」
飯地が笑顔になって言った。
「そうか……」
俺は飯地が、いつもの飯地に戻ってくれて嬉しかった。
「じゃあ、お別れだな……」
飯地はそう言って、『杖』を掲げた。
魔方陣が輝き、消えゆく木丈霞町から白い粒子がいくつも飛び出してきた。




