第51話 パラダイム・シフト・オブ・ロッド
モニターを見ていた俺と神上未咲は絶句した。
まさか、『魔女』の儀式で、こんなことが起こっていたなんて……
「竜司先輩……」
神上未咲が俺に話しかけてきた。
「これは何かの間違いですよね……? この映像は誰かが差し替えた偽物ですよね……?」
神上未咲はモニターに映された記録が信じられないようだ。
こんなの突然見せられたんなら、信じなかった。
だが、俺と神上未咲が見たり調べたりしたことと、何の矛盾もしない。
「そうだと思いたいけどな……」
俺たちは、『魔女』は偉大な人物で、『杖』は『魔女』が唯一使える道具で、『神上家』は『魔女』を守護する家系だと信じてきた。
だが、実際はどうだ。
『魔女』は『杖』の生贄となった死体で、『杖』は死体を餌に力を発する道具で、『神上家』は『杖』の力を独り占めするために『魔女』を守護してきただけだった。
俺たち木丈霞町の人たちは、『神上家』の掌で踊らされていただけだったんだ。
「俺が言って、お前が理解できると思うか、か……」
俺は以前飯地が発した言葉を思い出した。
全くその通りだったとしか言いようがない。
飯地は、『魔女』をあんなものと言っていた。
だが、俺はその意味を全然理解できなかった。
飯地は、結城が『神上家』に殺されたと言っていた。
だが、俺はその意味が全く分からなかった。
俺たちは、常識に囚われた答えを探っていただけだった。
「竜司先輩……あたしが、予備ってどういうことですか?」
神上未咲が俺に訊いてきた。
「この前、『魔女』の名簿を見たとき、未咲の名前も載っていたんだ。端の方に……」
「何で、あたしが『魔女』になるのですか?」
俺が答えると、未咲がまた質問してきた。
「未咲は忌み子であっても、絶対に挫けなかっただろ? そこを『魔女』の資格者として目をつけられたんだ」
先程、神上達雄が言っていたことを要約するとこんなところか……
「では、あたしのような人は、生きていてはいけないのですか?」
神上未咲が涙ながらに言った。
「そんなわけないだろ!! 利用する『神上家』が悪いだけだ!!」
俺は弱気になった神上未咲に怒鳴った。
「は、はい……」
神上未咲が弱々しい声で返事をした。
つい感情に任せて大声を上げてしまった……
神上未咲が弱気になるのも無理はないと思う。
何故なら、今まで自分に唯一優しくしてくれた人が、自分を利用しようといたんだから……
「ところで、飯地先輩はどうして『杖』を扱えるのですかね?」
突然、神上未咲が俺に訊いてきた。
そういえばそうだ。
飯地が何で『杖』を使えるのか、今の映像だけだと分からない。
『杖』の生贄になった人間が『魔女』になるわけだから、飯地が木丈霞町を飛び回れるのもおかしい。
それに、飯地が『杖』を使っているということは、飯地は1回……
「飯地が、1回死んでいるってことじゃないか……?」
そうとしか思えない。
だが、飯地はさっきの映像では『魔女』の社から逃げ出している。
『杖』も結城が持っているままだ。
「そんな……」
神上未咲も信じられないみたいだ。
「未咲、もう少し監視カメラの記録を見てみよう。『杖』が関わっているんだ。きっと、『魔女』の社の中で何かあったんだ!」
「はい!」
神上未咲のハキハキとした返事を合図に、俺たちは再び監視カメラの記録を辿っていった。




