第43話 ネゴシエーションズ・ウィズ・ロッド
地蔵の前に立ってから30分が経った。
太陽はまだ空高くにある。
そういえば、飯地はだいたい夕方に地蔵の前に現れていたよな……
今、準備しなくても良かったんじゃないか?
「おい! 持ち場を離れようとするな!」
ちょっと歩こうとしたら、『神上家』の黒服に注意された。
「す、すみません……」
少しくらいいいだろ……
ビュォォォォォ……
と思っていたら、急に風が吹き出した。
ビュォォォォォォォォォォォォォォ!!!
風はますます勢いを増し、俺は吹き飛ばされそうになった。
だが、俺がこの場を離れてしまったら、飯地と話せなくなってしまう。
一昨日は、ただ飯地と話したかっただけだが、今回は違う。
今回は、神上未咲のために、飯地から『杖』を奪い取ることが目的だ。
それにもし囮の役割を果たせなかったら、『神上家』に何をされるか分からない。
絶対に吹っ飛ばされないぞ……
ビュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
更に風が強くなる。
「吹き飛ばされるな! 今度こそ、犯人から『杖』を取り戻すぞ!」
後ろで神上達雄が叫んでいる。
目の前につむじ風が現れた。
その中にだんだんと黒い影が見えてくる。
ビュォォォォォォォォ……
しばらくすると、そのつむじ風はなくなり、中から飯地が出てきた。
「また、お前か……」
飯地が俺を見て言った。
「ああ……」
俺は、深呼吸をして心を落ち着かせた。
「まだ、俺に訊きたいことでもあるのか?」
「何で、母さんを生贄にしたんだよ……」
だが、言葉に感情が溢れ出てしまう。
「俺の目の前にいたからだ。それ以外に理由はない」
飯地は平然と吐き捨てた。
目の前にいたからだって?
また、そんな理由かよ……
「もっと理由が必要か? なら、俺の目の前に出てきて五月蠅かったからだ。『杖』を返せと怒鳴り散らしてきたからな」
更に飯地は母さんを生贄にした理由を並べてきた。
だが、そのどれもが納得できない理由ばかりだった。
「結城のためなら犠牲になるのは誰でもいい。誰を生贄にしたところで結果は変わらない」
やっぱり、飯地が狙っていることはアレックスさんが言った通り、木丈霞町の破壊なのか?
どうして、飯地はこうも俺の期待を裏切るんだ!!
「お前、やっぱり木丈霞町を破壊するつもりなのか!?」
俺は大声で叫んだ。
絶対にそんなことはさせない。
そんなことをしようとしたら、俺が全力で邪魔してやる!
「伊阪……どうして、俺がそんなことをしなければならない? 『神上家』に何か吹きこまれたか?」
だが、飯地は意外にも俺が言ったことを否定してきた。
え?
ってことは、飯地は木丈霞町を破壊しようとしていない?
じゃあ、いったい何を狙っているんだ?
「それじゃあ、お前はいったい……」
バンッ!
俺が飯地に訊こうとすると、後ろから銃声が聞こえてきた。
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
飯地の身体に『神上家』の黒服たちが発射した銃弾が撃ち込まれる。
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
バンッ!
飯地は、驚いた顔をしたまま、その場に倒れた。




