第42話 ストラテジー・フォア・ロッド
「おい、車に乗れ」
しばらくして、俺と神上未咲は『神上家』の黒服に言われて、車に乗せられた。
「これからどうなるんでしょうか?」
神上未咲が不安そうな顔で俺に訊いてきた。
「少なくとも行き先は、最後の西の地蔵だとは思うけど……」
多分、『神上家』はまた待ち伏せをするつもりだろう。
飯地の目的が、少なくとも東西南北の地蔵に生贄を置くのはハッキリしているし……
だが、前回と同じことをして果たしてうまくいくんだろうか?
「頑張ってくださいね……」
神上未咲が俺に言った。
励ましてくれるのは嬉しいが、その原因はお前なのを俺は忘れないよ。
囮かあ……
死ななければいいけど……
「降りろ」
車に揺られて何分かすると、『神上家』の黒服がまた俺と神上未咲に指図した。
降りると、そこはやはり地蔵の近くであった。
そこでは、神上達雄と『神上家』の黒服たちが慌ただしく動いていた。
「早くしろ! 今日こそ取り戻さないと、『神上家』は終わりだ!」
神上達雄が、黒服たちに指示を出していた。
とても焦っているようで、口調に余裕が感じられない。
「達雄様! 囮を連れてきました!」
「囮? 囮は臨のはずだが、何で囮と……」
神上達雄は、俺を車に乗せた黒服に質問したが、俺を見て察したようだ。
囮は、もともと神上臨だったのね……
だから、あんな気迫で俺に押し付けたのか。
「何故、君が我々の作戦に参加しているのかな?」
神上達雄が俺に訊いてきた。
「成り行きですね。囮役は神上臨から任されました」
酷い答え方だと思うが、本当にそうなのだからしょうがない。
「なるほど。臨は後できちんとしつけなければなりませんね。『神上家』の行動に部外者を巻き込むなんて、許されることではありません」
言っていることは、流石頭首だと思う。
ただ、『神上家』の嘘が次々と露呈している今となっては、見せかけにしか聞こえない。
「ところで、何故未咲もいるんですか? 屋敷で待機しているようにと言ったはず……」
神上達雄の冷たい目が、俺の目を捉えた。
……どう答えればいいんだ?
「悪い? お父さん?」
「できれば、屋敷にいて欲しかったな。何でこんなところにいる?」
神上未咲と神上達雄が笑顔で受け答えしている。
2人とも、怖い……
「『神上家』がやっていることに協力したいだけなのだけど……」
神上未咲が答えると、神上達雄は困った顔をした。
多分、帰らせたいんだけど、いい答えが思い浮かばないんだろう。
「できれば後ろの方にいてくれると父さんとしては嬉しいんだけど……」
「分かった! じゃあ、車の陰に隠れているね!」
そう言って、神上未咲は俺の近くからいなくなってしまった。
「おっほん。さて、では君に今回の作戦の役割を教えよう」
神上達雄が口調を変えて俺に言ってきた。
「君には、地蔵の前に立っていてもらう。時が来れば、『杖』を奪った犯人が現れるはずだ。そうしたら、できる限り犯人と話をしてくれ。その隙に我々が銃で犯人を仕留める」
俺は神上達雄の指示を聞いた。
やっぱりそうだったか……
「あの、話ってどんな話をすればいいんですか?」
「それは、どうして『杖』を奪ったのかとかだろうね。君はそのことを調べているんだろう?」
俺が質問すると、神上達雄が逆に訊いてきた。
あれ?
ばれている?
あ……
一昨日、神上達雄が動けなくなっているところで、俺と飯地が喋っているから、もう俺は怪しい人で確定なのか!
あちゃー……
「あ、いえ……何でもないです」
俺はそう言って、地蔵の前に立った。




