第41話 コアポレイト・フォア・ロッド
「連れてきましたよ!」
しばらくして、神上未咲が戻ってきた。
案の定、隣には神上臨がいる。
「何なんだよ。準備が遅れると父さんに怒られちまうってのに……」
神上臨は悪態をついていたが、俺を見るなりその口は止まった。
「何で、伊阪竜司がいるんだよ!!」
そして、大声で叫んだ。
悪かったな……
実のところ、俺も神上臨には、あまり会いたくなかった。
「兄さん! あたしの話を聞いてよ!」
「あ? なんだよ……」
神上臨は、やっぱり素で受け答えしている。
もう俺の中の神上臨のイケメンイメージは完全に無くなった。
「竜司先輩が『神上家』に協力してくれるって!」
神上未咲が、神上臨に言った。
「え?」
「は?」
俺と神上臨は、素っ頓狂な声を上げた。
ちょっと待て。
俺はさっき神上未咲が『神上家』に協力すればいいんじゃないかって言ったんだぞ。
何で、その協力する人間が俺に変わっているんだ!
「未咲、ちょっと……」
俺は神上未咲を呼んで、屋敷の敷地の隅の方に行った。
「何で俺が『神上家』に協力することになっているんだ?」
「だって、あたしが協力しても除け者にされるだけじゃないですか……」
さっきの発言の理由を訊いたところ、こんな答えが返ってきた。
まあ、確かにそうなってしまうか……
しかたがない……
神上未咲の言うとおりにしよう。
って、また俺は年下の女性の言うことを聞かされている……
もういいや。
こうされるのにも慣れてきた。
「おい、何してるんだ?」
神上臨が俺たちに訊いてきた。
「いえ、何でもないですよ……」
誤魔化しきれているかな?
「まあいい。協力するんだったら、こき使ってやるからな!」
神上臨が俺に顔を近づけて、物凄い気迫で言ってきた。
「は、はあ……」
俺はどんな反応をすればいいのか分からなかったので、適当な返事をした。
「おい、聴いてんのか!!」
だが、その返事が気に食わなかったのか、神上臨は俺の胸倉を掴んできた。
やばい、殴られる……
「ちょっと、兄さん! 協力してくれるって言っている人にその態度はないでしょ!」
「あ? ……あ、ああ……」
神上臨は何か言おうとしたみたいだが、何も返せていない。
助かった……
神上未咲、ありがとう。
「ああ! 調子が狂った! 伊阪竜司! お前の役割は飯地久彦の囮だ!! 現れた飯地久彦の注意を引きつけて、俺たちが奴を殺すチャンスを作る! それだけだ!!!」
神上臨が俺に指を差して、大声で言った。
囮だって……?
それはいったい……
「兄さん! それは『神上家』の役割じゃないの!?」
俺が驚いているのと同じく、神上未咲も驚いている。
「忘れるんじゃねえぞ、伊阪竜司! まだ、お前は俺たち『神上家』に疑われているんだからな! 協力させてやっているだけでも、ありがたく思え!!」
神上臨はそう言って、屋敷の中に入ってしまった。
「囮か……」
俺は『神上家』に与えられた自分の役割を呟いた。
やりたくはないが、やるしかないな。
要するに、飯地の目の前に立てるわけだし……
「竜司先輩、すみません。まさか、あんな役割にさせられるなんて思っていなくて……」
神上未咲が俺に謝った。
「別にいいよ。『神上家』より先に飯地から『杖』を奪い返せれば良い訳だし……」
俺はそう言って、神上未咲を励ました。
簡単な風に言ったけど、実際は途方もなく難しいことだよなあ……




