第4話 ガーディアン・オブ・ロッド
俺は急いで、『魔女』の社に向かった。
母さんから告げられた衝撃の出来事を確かめるためだ。
信じられない……
結城が殺されただって?
いったい、誰なんだ……
自分の未来を犠牲にして俺たちの為に『魔女』になった結城を殺した奴は……
しばらくすると、『魔女』の社に着いた。
やはりと言うべきか、たくさんの人だかりができている。
「神上さん! 『魔女』が死んだって本当ですか!?」
「『魔女』がいなくなったら、私たちはどうなってしまうんですか!?」
「助けて下さい! 『魔女』が必要なんです!」
人々は、1人の男に詰め寄っていた。
その男は、この木丈霞町で知らない人はいない程の有名人だった。
神上 達雄。
『神上家』の現頭首で、『魔女』を守護する責任者でもある。
「みなさん、落ち着いてください。現在、『魔女』の後継者となる人物を探しておりますので、もうしばらく、もうしばらくお待ちください」
神上達雄は、台の上に立ち、来ている人たちを説得していた。
本当に結城が死んだか、訊いてみないと……
俺は神上達雄に詰め寄っている人々の中に入り込み、できる限り神上達雄に近付いた。
「すみません! すみませーん!」
手を振って大声で神上達雄を呼んだ。
だが、周りの人の声が大きくて、全然聞こえていないみたいだ。
もう少し、近づかないと……
「すみませーーーーーーーん!!!」
人をかき分けて、更に近づいた。
他の人たちに、凄く怒った目で見られた。
怖い……
「……あ? 何ですか?」
ようやく聞こえたみたいだが、今度は神上達雄に睨まれた。
一瞬、怯えてしまいそうになったが、チャンスは今しかないと思って訊いてみた。
「あの、結城って本当に死んだんですか?」
発言した途端、神上達雄は顔をゆがめた。
こいつ何言っているんだ?
という顔をしている。
「結城?」
「結城花帆です」
結城のフルネームを言っても、神上達雄は首を傾げていた。
何で分からないんだ?
仮にも『魔女』の守護と『魔女』に関わる儀式を執り行う『神上家』の頭首なのに……
このままだと、埒が明かないので、質問を変えてみた。
「あ、いえ……『魔女』って本当に死んだんですか?」
結局、周りの人たちと同じ質問になってしまった。
神上達雄は、その質問を聞くなりゲンナリしてから、
「あああああ! 言っているでしょ! 『魔女』が死んだので、後継者を探していますって!」
大声で怒鳴った。
俺はその時の神上達雄の気迫に押されて、人ごみに呑まれてしまった。
人をかき分けて近づいていったのが祟ったのか、どんどん後ろに追いやられた。
最終的に、神上達雄に詰め寄っている人々の集団から追い出されてしまった。
「これから、どうするんですか!?」
「『神上家』はいったい何をやっているんですか!?」
「木丈霞町の恥さらしめ!!」
だんだん神上達雄への質問が、罵倒に変わっている。
俺は、別に『神上家』を責めるつもりはない。
それに結城の死が確かめられたから帰ることにした。
「おい! 何か言ったらどうだ!?」
「神上さん! はっきりしてください! 本当はどうなんですか!?」
「『魔女』を出せ!!」
『魔女』の社の敷地を出ても、罵倒の声は聞こえてくる。
流石に五月蠅いと思う。
ビュォォォォォォォォォォォォ!!
「うわっ!」
突然、強風が吹いてきた。
身体が持ってかれそうになるくらいの凄い風だ。
俺は近くにあった電柱に掴まり顔を手で覆った。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……
しばらくすると、風は止んだ。
もう少し長く吹いていたら、吹き飛ばされていたかもしれない。
「何なんだ。今の風は……」
電柱から離れ、顔を上げた。
さっきまでとは違う光景が目に入ってくる。
「なあ、伊阪。『魔女』っていったい何なんだ?」
「え?」
いつの間にか、俺の前に飯地がいた。
だが、いつもの飯地とはまるで違った。
着ている制服は、ボロボロでところどころ変色している。
腕や手には、幾つもの傷があり、痣になっているところもある。
そして、顔は青ざめ、目に光はない。
そんな姿の飯地が、目の前にいた。
「結城は、あんなものになるために、自分を犠牲にしたのか?」
飯地が俺に問いかけているとも、飯地が飯地自身に問いかけているようにも聞こえた。
あんなもの?
『魔女』を、あんなものだって?
「飯地……いったい何を言っているんだ?」
『魔女』をあんなもの呼ばわりするなんておかしい。
俺は試しに質問してみることにした。
「俺が言って、お前が理解できると思うか?」
飯地に質問で返された。
というか、明らかに喧嘩を売られている。
「あ? 確かに俺はお前より頭が悪いけどな……」
俺は飯地に近付こうとした。
その瞬間、飯地が信じられないものを取り出した。
それは、柄の先端に摩訶不思議な色をした玉がある棒だった。
まるで、魔法使いが使う魔法の杖……
「おい、お前……」
実物を見たことがない俺でも分かった。
飯地が持っている物は間違いなく、『魔女』が魔法を使うための道具『杖』だった。
『杖』に付いている玉が光る。
同時に凄まじい強風が吹き荒れた。
「うわっ!」
俺は再び電柱に掴まった。
強風が吹き止み、飯地が立っていた場所を見ると、そこには誰もいなかった。
何で、飯地が『杖』を持っているんだ?
そして、飯地が魔法を使った?
『魔女』でもないのに……
いったい、何がどうなっているんだ?