第39話 クリティシズム・トゥ・ロッド
『神上家』の屋敷が近くなると、何だか騒がしくなってきた。
どうやら、『魔女』の社の方から聞こえてくるみたいだ。
『魔女』の社といっても、偽の『魔女』の社の方だ。
「おい! 『杖』が盗まれているなんて聞いてなかったぞ!」
「どういうことだ!? 説明しろ、『神上家』!!」
「もう、私たちは終わりなのですか!?」
行ってみると、『魔女』の社の前……というより『魔女』の社を含めた『神上家』の屋敷の周りを、木丈霞町の人々が包囲していた。
そして、『魔女』の社と『神上家』の屋敷に向かって、罵声を飛ばしていた。
前回聞いた罵声より、酷いな……
「あの、すみません」
俺は気になることがあったので、近くを通った老人を呼び止めた。
「え?」
「『魔女』の社の周りがあんなに五月蠅くなったのって、いつからですか?」
「昨日の夜からずっとだよ。五月蠅くて、わしは気持ち良く眠れなかったよ」
老人は大層疲れているようだった。
目の下に隈がある。
「そうですか。ありがとうございます」
「あいつらには気を付けるんだよ。何をしでかすか分からん」
そう言って、老人は俺から離れていった。
これで、神上未咲が俺の家に来なかった理由が分かった。
『魔女』の社と『神上家』の屋敷の周りを囲まれていて、屋敷から出られなかったんだ。
しかし、困ったな……
神上未咲に会えないぞ……
「達雄様のお通りだ! 道を開けろ!」
突然、『神上家』の屋敷の方から声が聞こえてきた。
内容的に、『神上家』の黒服が発した言葉だろう。
『神上家』の屋敷の入口の方に行ってみるか……
「『魔女』の守護もできず、『杖』の管理もできず、何が『神上家』だ!!」
「この町からいなくなれ!!」
五月蠅い……
仕方なく『神上家』の屋敷を包囲している人たちの近くを通ったが、本当に五月蠅い。
これが昨日の夜からずっととか、『神上家』の人たちもそうだが、近所の人たちもよく耐えられたな……
それとも、近所の人たちも屋敷の包囲に加わっているのか?
「おい! どけ! 達雄様は仕事があって忙しいのだ!」
『神上家』の黒服たちが、包囲している住民たちを押し退けようとしていた。
「何だと!? この無能の『神上家』が何を言い出すか!!」
「『神上家』の頭首の安全より、まずは『杖』を探したらどうだ!!」
「この木丈霞町の恥さらしめ!!」
だが、『神上家』の黒服たちに対して、包囲している人たちの方が圧倒的に多かった。
例え『神上家』の黒服たちが並の人間より強かったとしても、この人数を押し退けることは簡単ではないだろう。
ちょっとずつ、神上達雄が乗っているであろう車が前進しているが、黒服たちは人々に押されている。
しばらくすると、車の窓が開いた。
1人の『神上家』の黒服が窓に近寄り、神上達雄からの指示を訊いているようだ。
そして、
「我々がいなくなると、二度と『魔女』は現れないぞ!!!」
人々の罵声をかき消す程の大声が辺りの空気を震わした。
途端に、『神上家』の黒服の周りにいた人々が静かになる。
その隙をついて、車が急速発進した。
「うわっ!」
突然の出来事に人々はただ避けるしかなく、神上達雄の車はまんまとその場から去っていった。
「あ……待て!!!!」
『神上家』の屋敷の入口付近にいた人々は、それに気づいて車を追いかけていった。
罵声はまだなくならなかったが、入口付近の人々はいなくなった。
屋敷に入るには今しかないか……




