第30話 レストレイション・ロッド
「ふぅ~」
俺は溜め息をついた。
飯地が次に何をするのかを訊くはずが、もっと重大なことを知ってしまった。
「少し、重すぎる話だったかな?」
「すみません。まさか、木丈霞町と『神上家』にそんな繋がりがあるとは思っていなかったので……」
「まあ、木丈霞町に住んでいると気付けないだろうね」
俺の発言に本条さんは、少し笑った。
「晄。あなたの話は少し硬すぎます」
アレックスさんが、本条さんに言った。
「そうだな。じゃあ、アレックス。しばらく、2人の相手をしていてくれ。俺は伊阪を探してくる」
そう言って、本条さんが席を立った。
「じいちゃんだったら、さっき木刀を持って……」
「ああ、分かっている。あいつがいないとお互いやりづらいだろ? だから、連れ戻してくるんだ」
俺は本条さんを呼び止めたが、本条さんにもじいちゃんを探す目的があるらしい。
本条さんは、そのまま部屋から出ていった。
「私は、私がどうして木丈霞町のことを調べているのかを、お2人に話しましょうか」
しばらくの沈黙の後、アレックスさんが口を開いた。
確かにそれはとても気になる。
何で、外国人が木丈霞町のことを調べているのか、全く分からない。
「私は先ほどの自己紹介の時に言ったように、B-29の元パイロットです」
アレックスさんが喋り出した。
「第二次世界大戦時、私は軍の命令で、木丈霞町の軍事工場を爆撃しにB-29を発進させました」
え?
じゃあ、アメリカ軍に軍事工場が焼き払われたってのは本当のことなのか?
「爆撃は成功し、私は基地に帰還しました。ところが……」
ここまでだったら、ただ爆撃機のパイロットが過去の功績を自慢しているだけにしかならない。
いったい、何があったって言うんだ……
「何日か経った後、私は再び軍の命令で、B-29を発進させました。木丈霞町の軍事工場を爆撃しに」
アレックスさんが、最後の方を強調して言った。
「木丈霞町の軍事工場を爆撃しに? 軍事工場はアレックスさんが爆撃したはずじゃ……」
「そうなんです。それに爆撃したのは私だけじゃありません。同じ隊にいた仲間と一緒に爆撃したんです」
神上未咲の質問にアレックスさんが答えた。
「私も何故もう一度、木丈霞町を爆撃しに行かされるのか分かりませんでした。でも、命令は命令なので、再び木丈霞町までB-29を飛ばしました。そして、私は絶句しました」
俺はアレックスさんの身に何が起こったのか全く想像できなかった。
「何と、私たちが爆撃したはずの軍事工場が無傷で残っていたんです!! 私や仲間は恐怖し、すぐさま基地に帰還しました!!」
アレックスさんが、興奮気味に言った。
確かに、今の木丈霞町に軍事工場は残っている。
でも、アレックスさんの話が嘘だとはとても思えない。
「私はすぐに上層部に木丈霞町が異常であることを報告しました。しかし、上層部は取り合ってくれません。おまけに命令違反ということで、私たちは厳しい罰を受けました」
アレックスさんが悲しそうに言った。
「私は確かに木丈霞町を爆撃しましたし、それが何故か元に戻っていたのも見ました。私は、自分が見たものが、本当であることを証明するためにここにいるんです!」
力強い声でアレックスさんが言って、話が終わった。
「すみません。私だけが喋っていましたね」
アレックスさんが謝ったが、今はそれどころじゃない。
いったい、どうやって木丈霞町の軍事工場は元に戻ったんだろうか?
やはり、『魔女』と『杖』が関わっているんだろうか?
そういえば、木丈霞町には軍事工場に関する噂があったな。
焼き払われた軍事工場を『魔女』が『杖』を使って時間を戻し復元した……
いや、でも……まさか、そんなことが……?




