第3話 スピリティング・アウェイ・ロッド
夏休みに入って、俺はじいちゃん家に来ていた。
あんな田舎の町にいるより、山を下りてデパートとかがたくさんあるところにいる方がずっと良い。
空気は、木丈霞町の方がおいしいけど……
「今日は、何をして遊ぼう……」
じいちゃん家にいる間は、毎日遊び放題だ。
来年受験生だとか、そういうことは忘れよう。
プルルルルルルルルルルル……
電話だ……。
あいにく、じいちゃんは山へ畑仕事に、ばあちゃんは川へ趣味の釣りをしに行っているので、俺が出るしかない。
ガチャッ
「はい、もしもし」
「あ、竜司!?」
電話に出た途端、母さんの声が俺の耳に響いた。
すごく慌てているみたいだ。
「ど、どうしたの?」
「今すぐ、帰ってきて!! 大変なことになったの!!」
「大変なこと?」
「とにかく、さっさと帰ってきてちょうだい!!」
「ええ……」
「帰って来るの!! いいわね!!」
母さんはそう言って、電話を切ってしまった。
ガチャンという音が俺の耳に残る。
帰りたくないなー……。
でも、母さんを怒らせると怖いからなあ……。
「竜司、帰ってきたぞー」
大きな声が聞こえてきた。
じいちゃんが、帰ってきたみたいだ。
「竜司、今日は何処に遊びに行くんだ?」
さっきの電話がなければ、俺は「今日は、○○に遊びに行く」と言って何処かへ遊びに行くんだけど……
「じいちゃん。母さんに帰って来いって言われた……」
母さんに歯向かうわけにはいかなかった。
俺はじいちゃんに事情を説明した。
じいちゃんの車で、木丈霞町まで送ってもらうことになった。
「唐突に帰ってこいとは、いったいどういうことなんだろうな?」
車を運転しているじいちゃんが、俺に訊いてきた。
「なんか、大変なことになったって言っていたけど……」
あの慌て様は尋常ではなかった。
「あの町に行ってから、彩は変になっちまったな……」
じいちゃんが、呟くように言った。
ちなみに、彩というのは母さんの名前。
伊阪 彩が母さんのフルネームだ。
「あの町に行くなと言ったのに、男に惚れて行っちまいやがった……」
じいちゃんは、木丈霞町のことが大嫌いだ。
昔、ばあちゃんが教えてくれたことなんだが、じいちゃんは母さんのことをとても可愛がっていたらしい。
しかし、母さんは生まれも育ちも木丈霞町の父さんと結婚してから、じいちゃんとばあちゃんを毛嫌いするようになった。
じいちゃんはじいちゃんで、母さんが自分たちを嫌う理由を木丈霞町のせいにしている。
「挙句の果てになんだ……? これからは『魔女』を信じますだ!? ああっ!!?」
母さんは、俺の家族の中で一番『魔女』を信じている。
対して、じいちゃんはそれに対抗するみたいに、木丈霞町を怪しむ人々とつるんでいる。
そのおかげで、じいちゃんが前より元気になったと、ばあちゃんは笑っていたけど……
「あの男も胡散臭……もうすぐ、着くぞ」
いつの間にか、木丈霞町とその外を繋ぐトンネルに入っていた。
「トンネルを出たところにある駐車場に止めるから、後は歩いて行けよ」
じいちゃんは、あまり木丈霞町に居たくないみたいだ。
俺は車から降りて、じいちゃんを見送った後、歩いて家を目指した。
流石田舎の町と言うべきか、全然人に会わない。
だが、どういうわけか、いつもより騒がしい。
お祭り騒ぎとかの類ではなく、何かパニックに近いような雰囲気だった。
そんなことを思いながら歩いていると、家に着いていた。
「ただいま」
家に着くと、母さんが青ざめた顔で向かってきた。
「竜司! もう、大変なのよ!!」
相変わらず、母さんは大変しか言わない。
「いったい、何があったの? 無理矢理帰らされて、何もなかっただったら怒るよ」
イライラしながら言った。
「あああああああ、ごめんね」
母さんは謝った後、深呼吸をして落ち着いた。
落ち着いたのが、外面だけな気もするけど……
「あのね……、『魔女』が殺されたの!!!!」
母さんの大声が、家中に響いた。
嘘だろ……。
結城が……殺された?
そんな……