第26話 セパレーション・ロッド
俺たちは家を出た後、急いでバスに乗り込んだ。
乗り過ごすと、1時間来ないからな……
「何とか乗れましたねー」
「ちょっと乗り損ねるかと思ったけどな」
俺たちは息を切らしながら笑った。
本当に何で俺は、近くにいる女性より体力がないんだ……
自分に呆れてしまう。
「ところで、竜司先輩……」
神上未咲が話しかけてきた。
何だか、すごく悲しそうな顔をしている。
「どうした?」
「実は昨日、父さんに飯地先輩が何を企んでいるのか訊いたのです」
「え!?」
昨日、神上達雄に訊くのはやめるように言ったつもりだったんだが、俺の思った通りに解釈してくれなかったみたいだ。
神上未咲にしてみたら、早く事件を解決したいんだろうけど……
「そうしたら、父さんは突然怒りだして、結局何も訊けませんでした……」
神上未咲が微妙に涙目になって言った。
神上達雄が怒りだした?
何でだ?
飯地がやっていることはそんなにやばいことなのか?
まだ、『神上家』は何か隠しているな……
「ありがとな、未咲。俺のじいちゃんたちは、ちゃんと教えてくれるだろうから安心しろ」
「はい……」
神上未咲はまだしょんぼりしている。
神上達雄に怒られたことが、本当にショックだったんだろう。
「そういえば、竜司先輩のお祖父さんって、木丈霞町が嫌いなのですよね?」
「ああ。だいぶ嫌っている」
「何でですか? 竜司先輩の母さんは、あんなに『魔女』のことを信じているのに……」
神上未咲がじいちゃんについて訊いてきた。
ところで、昨日の母さんの発言もそうだが、どうも母さんと神上未咲は喋っているな……
母さんが神上未咲のことをちゃん付けで呼んでいたし、神上未咲も母さんが『魔女』の狂信者であることを知っている。
「そのことか……」
俺は家の事情を話すことにした。
「俺の母さんは元々、木丈霞町の外に住んでたんだけど、父さんと知り合って木丈霞町に移ってきたんだ」
「え!? じゃあ、竜司先輩の母さんって、外の人だったのですか? とてもそうは見えなかったです……」
「母さんは『魔女』のことを信じすぎているから、分からなくはないよ」
俺もじいちゃんに教えられるまでは、母さんは木丈霞町出身で、じいちゃんとばあちゃんが別居しているだけだと思っていたくらいだ。
「話を戻すよ。じいちゃんは母さんが木丈霞町に移り住むことに反対していたらしいんだ。けれど、母さんは反発して木丈霞町に来ちゃった。それでじいちゃんは、母さんを奪った木丈霞町が嫌いなんだ」
随分、説明が雑だなと思ったが、詳しく話し出すとややこしくなるから、こんなもんでいいだろう。
「何で、竜司先輩のお祖父さんは、竜司先輩の母さんを嫌いになるのではなく、木丈霞町のことを嫌いになったのでしょうか?」
「多分、じいちゃんは母さんと仲良くなりたいんだと思う。昔は仲が良かったみたいだし……」
じいちゃんの家で、アルバムを見せてもらったことがあるが、昔のじいちゃんと母さんはとても仲が良さそうだった。
それを一瞬にして、険悪にしてしまうんだから、大人の世界は恐ろしい。
「この話をじいちゃんの前でするんじゃないぞ。機嫌悪くなるから」
俺は一応、神上未咲に釘を刺しておくことにした。
神上未咲がまた泣く羽目になったら、どうしたらいいか分からない。
その予防だ。
「はい! 分かりました!」
神上未咲はハキハキと返事をした。




