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クオリファイア・ロッド  作者: 斜志野九星
第3章 ファブリケイション・オブ・ロッド
23/58

第23話 イン・オーダー・トゥ・ディスターブ・ロッド

 しばらくの間、俺は呆然と立ち尽くしていた。

「竜司先輩……」

 神上未咲が俺の名前を呼んでいる。

「どうした?」

「さっき竜司先輩は、飯地先輩の邪魔をするって言っていましたけど、どうやって邪魔をするのですか?」

 そうだった……

 さっきは勢いで言ってしまったが、どうやって止めればいいんだ!?

 そもそも、飯地の目的がまだ分かっていないから、次に何処で何をするかも分からないし……

「あー、えーと……どうしよう?」

「それは、こっちの台詞ですよ!!」

 これでは、漫才だ。

「とにかく、今の状況を整理しますよ!」

 神上未咲がハキハキと宣言した。

 俺は何となく空を見上げた。

 空が橙色になっている。

 もう、夕方か……

「未咲、家まで送るから、帰りながら話そう」

 どうして、未咲を家まで送ろうとしたのかと、発言した後に気付いた。

 まあ、家に帰るのに多少遠回りになるだけだ……

「はい!」

 神上未咲は嬉しそうな顔で返事をした。


「まず、木丈霞町の北の端と東の端で、飯地先輩が事件を起こしたのは間違いないですよね?」

 神上未咲が俺に訊いてきた。

「ああ。さっき俺たちの目の前で『杖』を使ってやっていたし、そもそもあんなことができるのは『杖』を持っている奴しかできないと思うし、間違いない」

 俺も神上未咲も見たんだから、それは間違いない。

「でも、目的が全然分からないのですよね?」

 そこが問題だった。

 さっき、飯地に訊いたが「結城のため」としか言われなかった。

 飯地の目的が分からないと、飯地が次に何をするのかが全く予想できない。

 そもそも、本当に結城のためなのかすら分からない。

 いったい、どうしたものか……

「本当に結城のためだとしても、飯地の行動がどう結城のためになるのか全く分からないから、推測することもできないしな……」

「父さんに訊いてみましょうか? 何か知っているみたいでしたよ?」

「いや……。確かに飯地の狙いが分かっているみたいだけど、そう簡単に教えてはくれないだろ?」

 それに『神上家』が、信用できないというのもある。

「そうですね……。父さん以外に『魔女』や『杖』に関して詳しい人がいればいいのですが……」

「うーん……少なくとも木丈霞町にはいないな」

 というか、そんな人がいたらとっくの昔に『神上家』に捕まっている気がする。

 そして、木丈霞町にいないということは、この世界にいないことを意味している。

 あれ?

 詰んでね?


 その後、俺たちは黙ったまま『神上家』の屋敷に着いてしまった。

 結局、整理するどころか余計に分からなくなった。

「竜司先輩! ありがとうございます!」

 神上未咲は笑顔でお辞儀をした。

「明日もよろしくお願いしますね!」

 明日もか……

 もう、神上未咲と一緒にいることにだいぶ慣れてしまった。

 1日中、神上未咲と一緒にいたのか……

 今日は、結城が『魔女』になったことを証明して、『神上家』が嘘をついていることが分かって、飯地が『杖』を使って事件を起こしているところを目撃した。

 昨日以上にたくさん動いたせいか、身体がすごく疲れている。

「ああ。何ができるか分からないけど、よろし……」

 「よろしく」と言おうとしたところで、俺は『神上家』の屋敷の外壁に奇妙な染みがあることに気付いた。

「未咲、あれは何だ?」

「え?」

 俺が訊くと、神上未咲も外壁を見た。

 赤味を帯びた黒いものが、外壁にこびりついていた。

「いったい、何なんでしょう?」

 神上未咲は、その黒いものに触れてみた。

「ザラザラしていますね……」

 俺は神上未咲の隣に立ち、黒いものの匂いを嗅いでみた。

 鉄のような臭いがする。

「屋敷の見栄えが悪くなるし、神上達雄に言って取ってもらえばいいんじゃないかな?」

 俺は神上未咲に提案した。

 途端に神上未咲がハッとする。

「どうした?」

「父さん……置いてきちゃいました……」

 その場の空気が凍りついた。

 そういえば、飯地に動けなくさせられた後、放置したまんまだった。

「あ、じゃあ……な?」

「で、ではまた明日……」

 微妙な空気になるのを避けたかったため、俺も神上未咲も別れることにした。

 しばらくして、俺の後ろから『神上家』の黒服が、東の方向へと走っていった。

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