第19話 ヴァーテックス・ロッド
「ふぅ~」
俺は、『神上家』の屋敷の外庭にあったベンチに座って溜め息をついた。
疲れた……
「大丈夫ですか?」
神上未咲が俺の隣に座った。
隣に座らないでくれ……
余計に疲れる……
「今日はよく動いたから疲れただけだ。そんなことより……」
自分が情けなく感じる。
そんなことより、俺にはしなければならないことがある。
「さっきは本当に悪かった!!」
俺は神上未咲にちゃんと謝った。
さっきの醜態を揉み消すことはできないが、せめて謝ろう。
神上未咲の言いなりになりたくないからという理由もあるが……
「別にいいですよ! 竜司先輩の新たな一面も見られましたし……」
神上未咲は、快く許してくれた。
「でもやっぱり、竜司先輩は本当に優しいのですね!」
そして、ニッコリして俺にこう言ってきた。
何が優しいんだ?
さっき、あんなことをしたのに……
「はあ……」
俺は、どんな返事をしたらいいのか分からず、すごく曖昧な返事をした。
「何ですか? その微妙な返事は……。励ましたのにお礼の言葉もないのですか?」
神上未咲は頬を膨らませて言った。
え、えー……
何でそうなるのー……
「あ、ああ、ありがとう」
俺は神上未咲の願いどおりにお礼を言った。
くそおおおおおおお!!
結局、言いなりになってしまった。
だが、今ので少しだけ調子が戻ってきた。
「ところで、俺が知らなそうな『神上家』の常識って何かあるかな?」
「常識ですか……?」
よし、口調もだいぶ安定してきた!
神上未咲は少し考えてから答えた。
「常識というか噂なんですけど、木丈霞町には昔、お城があったらしいのです」
「お城!?」
「はい。ちょうど、あたしたちがいる屋敷の敷地には、元々城があったらしいのです」
木丈霞町に城ねえ……
どこの武将かは知らないけど、よくこんなところを選んだものだ。
理由は想像がつく。
木丈霞町は、四方を山で囲まれた盆地の中にあり、隠密性が優れている。
隠密性を重視して建てられた軍事工場があるくらいだ。
同じ理由で、誰かが城を作ろうとしても不思議はない。
「ただ、そのお城が奇妙で、何と一晩で現れ翌晩に姿を消したと言われているのです!」
神上未咲は、最後の方を興奮気味に言った。
「一晩で現れ翌晩に姿を消した? どういうことだ?」
「あたしも分かりません。小さい頃、父さんにそんな話をされただけですから!」
俺は、その城の奇妙なところを神上未咲に訊いたが、分からないみたいだ。
神上達雄がそんなことを言っていたのか……
「うーん。教えてくれて嬉しいんだけど、今回の事件の解決には繋がらなそうだな……」
俺は少し考えてから言った。
「ごめんなさい。でも、『神上家』の常識と木丈霞町の常識の違いがよく分からなくて……」
神上未咲は俺に謝った。
確かに、さっき『神上家』が俺たちに嘘をついていることが分かっただけで、何処で『神上家』が嘘をついているのかは全然分からない。
神上未咲と答え合わせをしてもいいが、常識を全部覚えているわけじゃない。
その方法以外で、何か『神上家』の嘘が分かる方法があれば、事件の解決へと一歩進めるはずなんだが……
バタン!!
ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!!!!!
突然、『神上家』の屋敷の玄関が開き、『神上家』の黒服たちが走って出ていった。
「な、何だ!?」
俺は『神上家』の黒服たちの走る音に驚いた。
「黒服の人たちが、あんなにたくさん……。行きましょう! 竜司先輩!!」
『神上家』の黒服を見た神上未咲が、立ち上がって言った。
「え、何で!?」
「黒服の人たちを大勢動かせるのは、父さんしかいません。きっと何かあったのです! 行きましょう!」
神上未咲が俺の手を引っ張った。
さっきは嫌がってなかったか?
だが、もし神上未咲が言っていることが本当だとしたら、俺も行かざる負えない。
神上達雄が黒服に招集をかけているのなら、神上未咲が言うように何かあった可能性が高い。
「よし、行こう!」
俺は立ち上がり、神上未咲と共に『神上家』の黒服の後を追うことにした。




