第14話 ゴー・トゥ・レジデンス・オブ・ロッド
「そんなことより、何で伊阪竜司がここにいるんだよ!」
神上達雄が去った後、見計らったかのように神上臨が言ってきた。
「悪いですか?」
俺は神上臨に大きな顔をされる理由が分からなかった。
まあ、『神上家』が警察と協力しているみたいだし、神上臨が大きな顔をしたくなる気持ちも分からなくはない。
「ああ、悪いね!! 仮にも部外者であるお前がここにいることがな!!」
それは、神上未咲に連れてこられたせいで、俺が悪いわけでは……
「何よ! どうせ、飯地先輩が犯人なんでしょ! 飯地先輩の友達の竜司先輩を連れてきて何が悪いっていうのよ!!」
そこに神上未咲が割って入ってきた。
「しっ! 声が大きい! もう少し静かに話せ! 『杖』が盗まれたことは、まだ『神上家』の中だけの秘密なんだ!!」
神上臨は、神上未咲を落ち着かせようとした。
だが、神上達雄ほどの話術はないようだ。
そうか。
さっき、神上達雄が俺を睨んだのも、それが原因か。
ここには、『神上家』の黒服ではなく、警察と医者が被害の調査をしている。
その人たちには、『杖』による事件だということを明かしていないから、真相を突き止めることができないんだ。
ただ、『神上家』にしてみれば、当然の対応だろう。
何しろ、『杖』を扱う『魔女』を守る『神上家』が、『杖』を紛失したなんてことがばれたら、町での評価が失墜する。
おそらく神上達雄は、誰が何を使ってこの事件を起こしたのか分かっている。
昨日の雷は、飯地が『杖』で起こしたものだったんだろう。
道路の焼き焦げた跡はその雷が当たった場所で、被害者の老人はその雷に当たってあのようになってしまった……と考えるのが『杖』を使った事件という前提ならば不思議はない。
この事件の謎は、飯地が何故そんなことをしたのかだ。
飯地は、人に危害を加えるような奴じゃない。
そんな飯地が、何でこんなことをするんだ?
謎なことが多すぎる。
「どうかしましたか?」
神上未咲が俺を心配そうに見ている。
「え?」
「何かすごく悩んでいるみたいでしたよ?」
どうも考え込みすぎて、険しい顔をしていたみたいだ。
「ああ。飯地が事件を起こしたことは間違いないと思うんだけど、動機が全然分からなくて……」
「飯地先輩が自己満足で起こしたってことはありませんか?」
「そんなわけないだろ!!!!」
飯地を疑った神上未咲に大声で反論した。
確かにこの事件を起こしたのが、俺の知らない人だったら、俺もそう思っただろう。
だが、やったのは飯地だ。
何か理由がある気がする……
「え、あ……竜司先輩?」
神上未咲が小さな声で俺に話しかけてきた。
見ると、少し涙目になっている。
しまった……
怒鳴り過ぎた……
「す、すまん。未咲、つい大声を出してしまった……」
「いえ……いいのです。ごめんなさい、あたしの心が弱かったから……」
お互いが謝る羽目になった。
これでは、どっちが悪いのか分からなくなってしまう。
「でも、竜司先輩は本当に優しいのですね!」
そうなのかな……?
あ、そういえば……
「さっき、神上達雄が被害者に対して『魔女』みたいだって言っていたんだけど、その理由は分かるか?」
これはいったいどういう意味なんだろう?
『魔女』は偉大な存在だ。
それが『杖』の被害者とどこが同じなんだろう?
「え? 父さんが? 理由は分からないですけど、いったいどんな意味なんだろう……」
神上未咲にも分からないみたいだ。
これも新しい謎だな……
調べていくほど、どんどん謎が増えていくなあ……
「それより、竜司先輩! そろそろ、あたしの家に行きましょう! 父さんはしばらく家に帰れそうもないですし、兄さんはこの事件を追うのに忙しそうだし、今がチャンスですよ!!」
どうも神上未咲は、神上達雄と神上臨がここにいるのかどうかを確認するためだけにここに来たみたいだ。
本当に何で俺を連れてきたんだ?
まあ、これで今日の本来の目的が果たせそうだ。




