第12話 インシデント・ウィズ・ロッド
「竜司、起きなさーい」
次の日の朝、俺は母さんの声によって起こされた。
まだ眠い……
もう少し、寝させてくれ……
「こら! 竜司、起きなさい!!!」
今度はすぐ近くで声が聞こえた。
「うわっ!!」
俺は無視しようとしたが、母さんが布団を剥いできた。
何で、俺の部屋に入っているんだ!?
「会いに来ている人がいるわよ! さっさと、髪をとかして服を着替えて行きなさい!!」
俺に会いに来ている?
いったい、誰だろう?
髪を雑にとかして、服も適当なのを選んで、玄関に向かった。
「竜司先輩、おはようございます!」
来ていたのは、神上未咲だった。
「あ、おはよう……ふわぁぁぁぁぁ……」
俺は欠伸混じりに挨拶をした。
夏休みだというのに、よくこんなに早く起きられるな……
「うわっ、何ですかその服装……」
神上未咲が、俺を見てドン引きしている。
「そんなに酷いか?」
「ありえないですね。ちゃんとした服に着替えてきてください!」
ええ、面倒くさい……
でも、このままだと神上未咲の不満な顔をまた見ることになるし、また言う事を聞かされるということになりかねない。
しかたがない。
ちゃんと着替えてこよう。
「これでどうだ?」
十数分後、俺はちゃんと服を選びなおし、玄関に戻った。
「まあ、まだマシです……」
今度は、ドン引きされなかったが、反応は微妙なものだった。
「ところで、何の用だ?」
「竜司先輩、酷いです! 今日も事件のことを調べるって約束したじゃないですか!!」
神上未咲のキンキン声が響き渡る。
近所に迷惑だから、やめてくれ……
「ああ。でも、こんなに早く来なくても……」
俺はまだ眠い。
ちなみに今は午前8時。
普段通りの夏休みなら、まだぐっすり寝ている時間だ。
「竜司先輩と約束したのですから、できる限り早くしたかったのです!!」
神上未咲は嬉しそうに言っている。
どうしてそうなる!
「それはそうと、竜司先輩に報告があるのです!」
「報告?」
「家の書庫を探していたら……あったのです! 『魔女』の名簿が!」
何だって!?
実のところ、『魔女』の名簿があるとは全く思ってなかった。
「そうか! で、その『魔女』の名簿は?」
「とても重たかったので、家に置いてきちゃいました!」
……おい。
確かに探してとしか頼んでないけど……
「後で一緒に見に行きましょう!」
神上未咲はとても楽しそうだ。
え?
一緒に見に行くって……
「それってまさか、『神上家』の屋敷に行くのか?」
「そういうことになりますね」
神上未咲にとっては特別なことではないんだろうが、俺にとっては一大事だ。
『神上家』の屋敷に入れるなんて、滅多にないぞ!
いったい、『神上家』の屋敷の中はどうなっているんだろう……
「あれ? でも、それだと『神上家』の情報が俺に漏れていることにならないか?」
「別に屋敷に入るくらい、どうということはないですよ。うちには、町役場の関係者とかしょっちゅう来ますから」
とりあえず、大丈夫らしい。
ひょっとしたら、『魔女』の名簿以外にも何か知れるかもしれない。
「じゃあ、早速『神上家』の屋敷に行こうか」
「あっ!!」
俺が『神上家』の屋敷に向かおうとすると、神上未咲が突然大きな声を出した。
「あたしが急いでここに来た理由をすっかり忘れていました!」
え?
『魔女』の名簿が見つかったことを報告しに来たんじゃないの?
「竜司先輩。この町の北の方で、『杖』が原因の事件が起きたのです!」
『杖』が原因の事件だって?
それってまさか、飯地が事件を起こしたってことか?




