第11話 オブスキュア・ロッド
家に帰ると、母さんが心配そうな顔をして、俺に駆け寄ってきた。
「『魔女』はどうだった?」
「やっぱり、殺されたみたい……」
「そう……」
母さんは、残念そうな顔をしている。
『魔女』を狂信的に信じていた母さんだ。
当然の反応だろう。
「疲れたー」
今日は色んなことがあった。
母さんに急に呼び戻され、『魔女』が殺されたことを教えられた。
それから、飯地が『杖』を持っているところを見た。
何故か俺と飯地以外の人たちから、結城の記憶が無くなっていた。
そのせいで、俺は『神上家』に目をつけられ危うく殴られそうになった。
それを助けてもらう代わりに、神上未咲という女性の言いなりにさせられた。
「結城は……誰に殺されたのかな……?」
結城の家族も、結城のことを忘れていた。
でも、結城がいたことの証明はできた。
結城の学生証が何よりも結城がいたことを証明している。
そして、結城の母さんが何かの拍子に買ってしまったと言っていたのも、多分結城の母さんの中で辻褄合わせをしてしまったせいだろう。
「結城って、春さんのこと?」
母さんが、俺に訊いてきた。
「違うよ。その一人娘で俺の同級生の結城花帆のこと」
俺がこう答えると、母さんはキョトンとした顔をして、
「え? 春さんに子どもはいないわよ」
と答えられた。
母さんからも結城の記憶は無くなっていた。
「何を言っているの? 何かお父さん家で変な物でも食べさせられたの?」
母さんは、じいちゃんのせいにしている。
あまりそういうことを言わないでほしい。
どちらとも普通に会話している俺からすれば、ストレス以外の何物でもない。
「大丈夫。良くしてもらったよ」
「本当に?」
疑いの目を向けるのもやめてほしい。
「本当だよ。ちょっと、『魔女』が死んだのでパニックになっちゃっただけだから」
適当な理由を付けて誤魔化した。
「竜司もパニックになったんだ!」
母さんが喜んでいる。
自分と同じような人を見つけたからだろう。
木丈霞町の外で見かける宗教とかもだけど、どっぷり浸かっている人はそういう傾向にあるから嫌いだ。
「それはそうと、結城花帆っていうのは、殺された『魔女』の名前だよ」
これだったら、分かってもらえるかな?
「え? 『魔女』に名前なんかあるの!?」
だが、母さんから返ってきた言葉は俺に衝撃を与えた。
何で俺は忘れていたんだ!?
そして、神上未咲は何故そのことに気付かない!!
『魔女』の名前を知っている方がおかしいんだ!!
結城の前の『魔女』がいたことは知っているけど、その『魔女』の名前は俺も知らないんだ!!
「あ、あれ? ハハハハハハハハ……」
俺は急いで、自分の部屋に行った。
考えをまとめるためだ。
『魔女』の名前なんか、誰も知るはずがない。
それは『神上家』が教えてくれないし、俺たちも訊こうとしないからだ。
何故、訊こうとしないのか俺も分からない。
『魔女』は『魔女』であるから、名前を知る必要はないと思い込んでいたのかもしれない。
そもそも、『魔女』の代替わりなんて結城から聞いて、初めて知ったことだ。
結城が教えてくれなかったら、俺は『魔女』が替わったことなんか気づかずに、日々の生活を送っていたことだろう。
あれ?
でも、結城が『魔女』になって、その『魔女』が結城花帆という名前じゃないって、どういうことだ?
誰かが何かしらの方法で、意図的に消しているのか?
じゃあ、誰が何のために?
うーん……
これはひょっとして、踏み込んじゃいけないところに踏み込んじゃっているのかなあ……
ズドーーーーーン!!
……雷か。
夏だし、別に不思議なことはない。
雨の音が聞こえないから、俺の家がある町の南側じゃなくて北側の方で降っているのかもしれない。
ズドーーーーン!!
ズドーーーーーーン!!
ズドーン!!
よく雷が鳴るなー。
そういえば、自分の部屋に来たせいか眠くなってきた。
今日は疲れたし、このまま寝てしまうか。
「ふわぁぁぁぁぁぁぁ……」
そして、俺は布団に入った。




