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二回目

すみれは家に迎えに来た

雷馬家の黒塗りの車に

乗りこんだ。


向かった先は

ただの山だった。


「ここでお待ち下さい」



執事にそう言われて

なんだかわからない山の途中の道で

下ろされた。



「ちょっと

どういうことよ」




すみれが途方にくれていると

下からリュックを背負って

登山者とおぼしき格好をした男が来る。


凄い速さだ。

足どりもかなり力強い。

あっという間にすみれのところへ来た

登山者。




登山者が黒いキャップのつばを

持ち上げて顔を見せた。


「ア、雷馬くん」



「よお。今 

週に一度の山登りのトレーニング中だ。

頂上まで行って来るから

少し待ってろ」




「?」

ーーー私なんで 

ここに呼ばれたの?

山登りなんて勝手にしてればいいじゃん。

まあ、私は

なにもしないで

バイト代が入るなら

何でもいいですけどねーー。




すみれが雷馬の山へ上る後ろ姿を

見送って

ものの数分後



息を弾ませながら

山を下ってきた雷馬。




ーーー嘘でしょう

もう登って来たの?

まさかね。



「このまま下る。

お前も着いて来い」




「はあ?

私、自慢じゃないですけど

山とか登るの好きではないのに」



山の下りは

結構きつい。


中腹まで来て

すみれはへたばっていた。


途中のガードレールにもたれかかり

息を整えるすみれ。


たぶんすみれに合わせて

超ゆっくりペースで

歩いていた雷馬が

ダウン寸前のすみれの元へ

駆け上がってきた。




ーーー呼吸も乱れていない

凄すぎない?




「お前は運動能力20点だな。

乗れ」

しゃがんで自分の背中を差し出す雷馬。




ーーーなんでおんぶ?

車をなんで出さないのかなーーーー?


仕方なくすみれは

雷馬の背中におぶさった。


「ちゃんと掴まれ」

そう言ったと同時に雷馬は

もの凄いスピードで

駆け下りていく。




すみれは

風を切って走る雷馬の背中で

あまりのスピードに

度肝を抜かれていた。


「はや!速過ぎでしょう……

ちょっと」


怖くてすみれは

振り落とされないように

雷馬の肩を必死に掴んだ。



下まで来ると

雷馬の背中からおりたすみれは 

ガードの無いむき出しの

ジェットコースターに

乗った後のような感じで

足ががくがくしていた。




そんなすみれに

ミネラルウォーターのペットボトルを

差し出す雷馬。



「飲め」



「はあ、どうも」

冷や汗が 

すみれのこめかみを流れた。




雷馬は涼しい顔で

汗なんか少しもかいてなくて

相変わらずの 

ポーカーフェイスぶりだった。




「雷馬くんは

すごい運動量でも 

呼吸も乱れないんだね」




「そう。うらやましいか?」



「うらやましいって

そりゃ、運動は出来た方がきっと

いいよね?

あせもかかないなんて」




「俺みたいになりたいか?」




「え? あー汗は

かかないほうがいいよね?

汗染みとか 気にならないし……」

すみれは言ってて 

貧乏臭い気分になった。


お金持ちでイケメンで

運動神経抜群で

ワイルド。

汗染み知らずの

雷馬くん。



ーーーきっと

怖いものとか

なーんにも無い人なんだろうな


雷馬くんみたいなら

世の中

思い通りになるような

錯覚さえ 

おこしちゃいそう




すみれの隣にいつの間にか

来ていた雷馬は

すみれの 

こめかみから

顎に向かって流れていく汗を

見て

その汗をこともあろうか

ぺろりと舐めあげた。




「ひぃ!」

思わず身を縮めるすみれ。



「あまい……」



「え?あまい?

まさか、しょっぱいでしょ?」



「あまい

繊細な味がわからないんだな。

お前ら人間は」




ーーーそんな事より

人の汗舐めるって……

どういう人?

変わってるよ。やっぱ





「帰るぞ。迎えが来た」



黒塗りの大きな外車で

すみれと雷馬は

雷馬の屋敷へ向かった。




車の中で

さすがに疲れたのか



かくん……


かくんと



船をこぎだす雷馬。

その寝顔は

天使のように

すこやかで

長い睫に高い鼻。

うすい唇。


ウェーブが少しかかった

こげ茶色の髪の毛が

車がゆれるたびに

一緒に揺れて


すみれは 

屋敷につくまで

雷馬の端整な顔に

ずっと見入っていた。




「お前、ずっと俺の顔みてて

飽きなかったのか?」



車を下りてすぐに

そういわれて

すみれの耳は真っ赤になった。



ーーーばれてたんだ

言ってよ!早く……ったく





そんなすみれの赤くなった耳を 

後ろから急に甘嚙みしてくる雷馬。




「きゃっ!」

びっくりして 

飛び上がるすみれ。




「これくらいで

驚くなよ。すみれ。

今日はいつもより

長く一緒にいられるんだから

もっと驚くような事が起こっても

不思議じゃないんだぞ」




そう言って 

ふっと意地悪そうに

笑う雷馬。


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